日本の「8項目提案」の具体化に意欲-ウリュカエフ経済発展相来日でセミナー-

(ロシア、日本)

欧州ロシアCIS課

2016年08月02日

 ロシアのウリュカエフ経済発展相の来日に合わせ、ジェトロは7月19日、ロシアNIS貿易会(ROTOBO)および在日ロシア連邦通商代表部とともに、「ロシア経済セミナー-露日経済関係発展のための具体的な課題-」を東京で開催した。企業関係者約200人のほか、プレスも20人以上が詰め掛けた。

<日ロの互恵的関係の構築に努力>

 セミナーの冒頭、ジェトロの赤星康副理事長は開会のあいさつで、「日本とロシアとの経済関係はエネルギーが中心だったが、それ以外の多様な分野での協力を進めていく必要性が高まっている。ロシア政府もエネルギー資源依存型の経済から、産業の多角化や生産性の向上を図っている」と述べ、「ジェトロはこれまでに培った経験やネットワークを生かし、ロシアの産業の高度化や多角化に貢献したい。また、日ロ両国の互恵的な関係構築のために、最大限の努力をしていく」と意欲を示した。

 

<ルーブル安は底を打ち、GDPのマイナス成長も落ち着く>

 続いてウリュカエフ経済発展相が、ロシア経済の現況や今後の日ロ協力関係などについて、以下のとおり講演した。

写真 講演するウリュカエフ経済発展相(ジェトロ撮影)

 原料市場、特に原油価格が大幅に低下し、ロシアの輸出は大きく減少した。また、ルーブル安で日本製品がロシア市場で競争力を失い、日本からロシアへの輸出も減っているが、最近ではそのような状況も底を打ち、持ち直してきている。

 

 国際収支では、資本の流出超過が改善している。2014年の資本純流出額は1,500億ドルだったが、2015年には570億ドルに減少した。2016年上半期は(2015年実績と比べ)約5分の1106億ドルとなっている。2015年の実質GDP成長率はマイナス3.7%だったが、2016年第1四半期は前年同期比マイナス1.2%、5月はマイナス0.8%だった。現在は落ち込みが改善し、ほぼ0%で推移している。

 

<日本企業のインフラ整備参画を期待>

 2015年の日ロ間の貿易額は前年比で約3割減少し、2016年も減少傾向が続いている。金額ベースでは減少したが、数量ベースでは減っていない。日本企業には、より積極的にインフラ整備に参加してもらいたい。インフラ整備は官民パートナーシップ(PPP)方式が採られており、ロシア政府は安定したビジネス環境を提供するために、長期的なファイナンスの基盤を整えていく。また、特別投資契約(2016年5月20日記事参照)というスキームもあり、マツダと地場企業の合弁マツダ・ソレルスは締結済みだ。この投資契約は、投資リスクの低減や資金回収をより確実にするものだ。ロシアの投資環境は改善しており、世界銀行の投資環境ランキングで、ロシアはかつて120位ぐらいだったが、今では50位ぐらいまで大幅に順位を上げた。これはわれわれが行ってきたウラジオストク自由港での貿易手続きの簡素化(2015年7月31日記事参照)や運輸インフラの整備などの成果の表れだ。

 

 解決が必要な問題として、資金調達がある。日本の銀行は事実上、対ロシア輸出、特に設備の輸出に対する融資を停止しているが、これがロシアでの大規模プロジェクトの実施を難しくしている。日本側にとっては設備納入のチャンスを失っていることになる。

 

<中小企業の交流や地方レベルの協力も重要>

 20165月、ソチでの日ロ首脳会談の際に、安倍晋三首相が「8項目の提案」(注)を行った。われわれはその提案を実行できるモデルを具体化し、9月にウラジオストクで開催される第2回東方経済フォーラムの場で、日ロ首脳の確認を得ることを目指している。8項目の提案内容に沿って、非エネルギー分野の投資プロジェクト拡大を目指す。ロシアは、航空宇宙、ハイテク、原子力などの分野においても大きなポテンシャルがある。中小企業の交流や地方レベルでの協力も非常に重要で、関係機関や作業部会で対応を進めている。

 

 世界経済は現在、各地の紛争などの影響もあり、大きな困難に直面している。ロシアも例外ではないが、困難な状況の中でチャレンジすることで、ネガティブな要因をポジティブな要因へと変えていきたい。

 

(注)日本の外務省によると、a.健康寿命の伸長、b.快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市づくり、c.中小企業交流・協力の抜本的拡大、d.エネルギー、e.ロシアの産業多様化・生産性向上、f.極東の産業振興・輸出基地化、g.先端技術協力、h.人的交流の抜本的拡大、の8つ。

 

(渋倉美峰)

(ロシア、日本)

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