ウラジオストク自由港法が成立、10月から施行-入居事業者への税優遇は2016年1月から-

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2015年07月31日

 ウラジオストク自由港法が7月13日に成立した。10月12日に施行される。ロシア沿海地方の港を持つ地域や、国境に接している地域を主な対象とし、入居事業者に対してさまざまな優遇措置が提供される。また、簡易入国ビザ制度も導入される。

<対象区域は15行政区>

 プーチン大統領が713日、ウラジオストク自由港法に署名した。今回成立したのは、同日付連邦法第212FZ号「ウラジオストク自由港について」、連邦法第213FZ号「連邦法『ウラジオストク自由港について』採択に伴うロシア連邦関連法令の修正について」、連邦法第214FZ号「連邦法『ウラジオストク自由港について』採択に伴うロシア連邦国税基本法第2部の修正について」の3つの法律。

 

 基本法となる第212FZ号は、公布から90日後の1012日に施行される予定だ。自由港入居企業に対してさまざまな優遇措置が提供されるほか、外国人の入国ビザ制度も緩和される。自由港域内で入居事業者が雇用する従業員の社会保険料や、入居事業者に課される税金の優遇措置は20161月から適用される。

 

 自由港の設置期間は70年間で、対象区域は沿海地方内の15の行政区(図参照)とされている。

 

 対象区域内にある主要港として、ウラジオストク港、ボストチヌィ港、ナホトカ港、ボリショイ・カメニ港、ポシエト港、トロイツァ港(旧ザルビノ港)がある。先に成立している優先的社会経済発展区域(TOR)や特別経済区と対象区域が重複する場合は、自由港の対象外となる。

 

 入居する事業者は、対象区域内で登記された法人または個人事業主でなければならない。極東発展省に事業計画書、登記書類のコピーなどを提出し、入居申請を行う。外国企業や外国人によって登記された法人・個人事業主であれば、これらに加えて親会社・個人が母国で登記された書類のロシア語訳も必要となる。

 

<入国ビザや雇用規制を緩和>

 自由港域内で導入される主な優遇措置は次のとおり。

 

○入国ビザ制度の簡素化

 自由港対象区域にある国境を通じて入国し、8日間までの滞在の場合は、簡易ビザ制度が適用される。出国場所は問わない。簡易ビザ制度の中身は今後政府が定める。これまでに公開されている情報や関係者の話によると、空港や港などでビザが発給される見込みだ。

 

○外国人雇用規制の緩和

 自由港入居事業者の雇用主は、外国人労働者の雇用許可が不要となる。雇用される外国人労働者に発給される労働許可証は、政府が定める外国人雇用枠(クオータ)の対象外となる。ただし、新たに設立される自由港監督委員会が、入居事業者が雇用する労働者に占める外国人労働者の割合の上限を決定する。

 

○外国人および外国組織による医療・教育行為

 外国で医療教育を受けた者や入居事業者に対し、ロシア政府は自由港域内で医療行為を行う免許を特例で交付することがある。外国の先進的教育手法の導入や入居企業従業員の能力向上のため、入居企業に対し、職業専門教育などの分野で教育事業免許も特例で交付することがある。

 

○自由貿易地域の適用

 入居事業者が自由港対象区域内で建物などの不動産を設置するために輸入する物品、加工・製造(組み立て、分解など)や修理のために輸入される物品、域内の港や空港のインフラ整備のために輸入される物品に対しては、関税を含む諸税が免除され、非関税措置(注1)の対象外にもなる。

 

 このほか、入居事業者に対する連邦・地方当局による監査が簡素化され、また、入札を行わずに公有地を入居事業者に譲渡できるようになる。201610月からは国境地点で、通関手続きのほか動植物検疫、衛生疫学検査、食品安全検査もワンストップで行えるようになる。

 

<地元知事は法律の内容に自信>

 企業が負担する社会保険料や税に対しては、201611日から軽減措置が導入される。

 

○社会保険料(雇用主全額負担)

 30%の料率が7.6%に軽減される。内訳は、年金基金が22%から6%に、社会保障基金が2.9%から1.5%に、強制医療保険が5.1%から0.1%になる。

 

○企業利潤税(法人税)

 利益計上後の5年間は連邦税分(2%)が無税となり、地方税分(18%)の税率も5%を上回らないと規定された。地方税分は沿海地方政府の法律に基づくが、利益計上後の5年間は無税、次の5年間は10%になる見込み。

 

 ウラジオストク自由港法の成立を受け、沿海地方のウラジミル・ミクルシェフスキー知事は「法案は専門家、企業関係者など750人が参画して取りまとめられた。極東発展省にも感謝したい。法案策定に創造的に取り組み、幅広い議論も行われ、良い法律になったと思う。『アジアの虎』(注2)の成功事例も参考にした。慎重ながら楽観的に言っても、競争力のあるものになった」との声明を発表した(沿海地方政府発表713日)。

 

(注1)貿易規制に関する連邦法によると、関税割当などの数量制限、輸出入に関する独占権付与、アンチダンピング措置などの特別な国内産業保護措置を指す。

(注2)韓国、台湾、香港、シンガポールの4ヵ国・地域を指す場合もあるが、自由港制度策定の際に中国の特区も参考にしているため、ここでは一般的にアジアの新興国を指すものとみられる。

 

(浅元薫哉)

(ロシア)

ビジネス短信 ae87039708bdbddd