給与支給に関する修正通達を施行

(ベトナム)

ハノイ発

2016年01月14日

 労働傷病兵社会問題省は2015年11月16日付で通達47/2015/TT-BLDTBXH号(以下、通達47号)を公布、2016年1月1日付で施行した。同通達には、2015年8月8日施行の通達23/2015/TT-BLDTBXH号(以下、通達23号)の修正が含まれ、給与の当月払い義務は緩和された一方、時間外手当の算出方法の見直しは行われず、産業界の要望の全てが反映された内容とはならなかった。

<日本商工会から首相宛てに見直しを要望>

 ベトナム日本商工会(JBAV)は、通達23号の施行後の20159月に所管の労働傷病兵社会問題省に対して(2015年10月6日記事照)、同10月にはグエン・タン・ズン首相宛てにも内容の見直しを求める要望書を提出していた。

 

 要望書の主な内容は、(1)月給制被雇用者の賃金の当月払いの見直し、(2)時間外賃金算出方法の見直し(毎月固定日数を採用する)、(3)通達遡及(そきゅう)適用の取りやめ、の3点だった。通達23号に対しては、当地進出日系企業のみならず他の外資系企業や地場企業からも政府に対して見直しを求める声が上がり、今回出された通達47号ではそれぞれ以下のように修正・維持されることとなった。

 

<給与の当月払い義務規定は削除>

 通達23号第51項では、「月給制の被雇用者の給与は月に1回または半月に1回、勤務した月内に支払われる」と規定されていたが、通達47号第144項(b)において、「月給制の被雇用者の給与は月に1回または半月に1回、賃金の支払い時点に支払われる」と変更され、当月内の支払い義務規定は削除された。

 

 給与の当月内支払い義務については、企業側が勤務と残業の実績を計算するための時間が必要となるため、実務上極めて困難との声が企業から出ていた。

 

<時間外手当の算出方法は見直されず>

 通達23号第61項(a)では、時間外手当の算出根拠となる通常勤務日の実際の時給を「被雇用者が時間外労働をした月の実際の賃金(時間外労働、深夜勤務手当を除く)を、月の実際の勤務時間数(時間外勤務時間数を除く)で割ることにより確定される」と規定しており、月ごとに単価が変動する実務上の負担に加え、有給休暇を多く取った労働者の時間単価が上昇するというモラルハザードが起きかねないとの指摘があり、修正を求める声が高まっていた。

 

 しかし、通達47号第144項(c)では、「通常勤務日の実際の時給は、被雇用者が時間外労働をした月の実際の賃金を月の実際の勤務時間数(普通労働条件・職場環境にある業務に対し208時間を超えず、時間外勤務時間数を除く)で割ることにより確定される」と規定され、計算方法の見直しは行われなかったものの、「実際の時給」には、「時間外労働賃金・深夜勤務手当、祝日・正月・有給休暇日の賃金、賞与、アイデアに対する報酬、シフト交代中の食費、通勤手当、保育・育児手当、親族の結婚・死亡時などの手当、誕生日手当、労災・職業病を被った被雇用者への補助、労働契約上の業務・職位に関連しない各種手当・補助額は含まない」との規定が盛り込まれた。

 

<遡及適用については解釈が分かれる>

 通達23号第92項では、「本通達の各制度は、(中略)政令第052015NDCP号の施行日(201531日)から実施される」との規定があり、法令上は3月までさかのぼって給与の再計算を行う必要があるため、現実的ではないとの意見が多数あった。

 

 これに対して、通達47号では第144項(d)として、「(通達23号の)第9条第2項を無効にする」との規定が盛り込まれたことから、前述の時間外手当の算出などについては通達23号の施行日である201588日からの適用と読める。

 

 これについては、通達47号は201611日から効力が発生するため、20151231日までの給与などの算出は通達23号に、201611日以降は、通達47号に従う必要があるとの専門家の指摘もある。

 

 本件に関する法令文書が他に発行される見込みは当面ないことから、遡及の有無および遡及する場合の開始時期については、最寄りの労働関係行政機関への照会に加え、工業団地内や近隣企業などの動向も踏まえ判断する必要がありそうだ。

 

<ベトナムの投資環境リスクが浮き彫りに>

 ジェトロの「在アジア・オセアニア日系企業実態調査(2014年度)」によると、ベトナムの投資環境上のリスクとして最も高い回答率(複数回答可)となったのが、「法制度の未整備・不透明な運用」(60.3%)だった。今回の通達については、企業実務に大きな影響を及ぼす法令の内容が実務と著しく乖離しているのみならず、そもそも政令の施行と同時に出されるべき通達の発布が遅れ、適用を遡及させるという内容になったことから、進出日系企業には困惑が広がっている。今回の給与支給に関する法令に限っても、ベトナムの投資環境上の課題があらためて浮き彫りになったが、こうした課題が短期間で解決されるのは困難とみられ、企業側としてもあらかじめ事業環境面でのリスクとして認識しておく必要があるといえそうだ。

 

(竹内直生)

(ベトナム)

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