輸入・小売り・流通分野の外資100%投資規制を緩和-SAGIA総裁が条件付きで表明-

(サウジアラビア)

リヤド発

2016年02月17日

 原油価格の低迷が長期化する見通しの中、原油収入で国庫収入のほとんどを賄うサウジアラビアでは、歳出の削減、新たな歳入の確保に大胆に取り組む改革が進行中だ。外資誘致のさらなる促進もその1つだが、海外からの直接投資額は近年、右肩下がりを続けている。そのため、サウジアラビア総合投資院(SAGIA)のオスマン総裁は投資環境改善策の1つとして、これまで参入障壁が設けられていた輸入・小売り・流通分野における外資100%による直接投資を、条件付きで認める方針を発表した。

<海外からの直接投資額は減少の一途>

 国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、サウジアラビアへの海外直接投資額(フロー)は2008年の395億ドルをピークに減少を続け、2014年は80億ドルと5分の1に減少した。また最近発表されたデータでも、2015年の投資額は76億ドルにとどまり、前年比4.8%減とさらに縮小した(現地英字紙「アラブ・ニュース」124日)。

 

 外資の誘致に当たるSAGIAは、投資ライセンスを優先的に短期間で認可する「ファスト・トラック・サービス」の導入(2014年6月30記事参照)や、外資誘致の強化に向けた野心的な計画の策定(2015年5月27記事参照)など、さまざまな取り組みに着手しているものの、その結果はまだ思うようには出ていないのが実情だ。

 

<投資環境改善の目玉の1つに>

 SAGIAのオスマン総裁は、12426日にリヤド市内で主催した「第9回世界競争力フォーラム」の基調講演において、これまで重視してきたヘルスケア、輸送機器、工業機械・設備といった分野で引き続き外資誘致に取り組むとともに、投資環境改善の目玉の1つとして、「一定の条件の下に」ではあるものの、輸入・小売り・流通分野における外資100%の投資を認めると発表した。

 

 サウジアラビアでは、これまでも製造業やサービス業分野では100%外資による直接投資が認められてきたが、伝統的に地場企業優遇の色が濃い輸入・小売り・流通分野には例外的に外資参入障壁が設けられ、外資出資比率の上限が75%、外資分の最低資本金が2,000万リヤル(約62,000万円、1リヤル=約31円)となっていた。

 

 中東湾岸地域では商業代理店法の存在もあり、伝統的に地場代理店を活用し市場開拓を行う外資が多いが、一方で流通を自ら手掛け、自社ブランドの管理を強化したいと考える企業も少なからず存在する。

 

 域内最大規模の市場を有するサウジアラビアにおいても、外資による輸入・小売り・流通分野への投資に対する関心は徐々に高まりつつあり、複数の日系企業も同分野で投資ライセンスを取得済みだ。ただ実際には、関心はあっても規制による高いハードルが制約となり、多国籍共同企業体(JV)の運営経験があり、巨額の資本投入を決断できる大企業のみに、同分野での投資は限られてきた。

 

<条件付き規制緩和となる見通し>

 輸入・小売り・流通分野における外資規制緩和の動きは、20159月にサルマン国王が訪米したタイミングで急に注目を集めた。米国の首都ワシントンで開催された「米国・サウジアラビア投資フォーラム2015」で、サウジアラビア側が投資環境改善の具体策として突然、発表したためだ。

 

 当時の報道では、輸入・小売り・流通分野での外資100%による投資を認める条件として、(1)投資計画に何らかの製造業要素を含むこと、(2)新しい技術が導入されること、(3)サウジアラビア人の雇用を創出し人材育成を行うこと、が挙げられ、ライセンス取得が見込まれる具体的なブランドとしてアップル、サムスンが例示された(現地英字紙「サウジ・ガゼット」201597日)。

 

 その後のジェトロ・リヤド事務所によるSAGIAライセンス部門の実務担当者へのヒアリングでも、輸入・小売り・流通分野での外資100%を認める対象は、アップルに代表されるような消費者に直接販売する自社ブランドを有する大企業のみで、投資計画が以下の4条件を満たす必要があるとのことだった。

 

1)製品製造工場、もしくは組み立てユニットを有していること

2)研究開発(RD)センターおよび研修施設を有していること

3)総額1億リヤルを超える投資であること

4)サウジ人を100人以上雇用し、給与が1ヵ月当たり1万リヤル以上であること

 

<投資環境の改善迫られるサウジ>

 今回、あらためて輸入・小売り・流通分野における規制緩和の方針がSAGIAトップから示されたことは、原油価格低迷にあえぐサウジアラビア経済を活性化させるためには外資をこれまで以上に呼び込むことが重要で、そのための環境改善が急務であることが背景にあるとみられる。直近の報道では、SAGIA、商工業省、労働省による合同検討委員会が立ち上がり、いかに外国投資を呼び込むか、それぞれの管轄部門で投資環境改善の検討が行われているという(「アラブ・ニュース」27日)。

 

 これまでは国が投資家を選ぶという印象が強かったサウジアラビアの投資誘致政策だが、今回の輸入・小売り・流通分野における規制緩和は、今後の変化に向けた1つの試金石となるだろう。経済活性化、産業の多角化、雇用創出、新たな歳入確保のいずれをとっても、外資誘致の成否が今後のサウジアラビア経済に大きな影響をもたらすことは間違いない。

 

庄秀輝

(サウジアラビア)

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