優良外国企業には投資ライセンスを5営業日以内に発行−SAGIAが迅速化の新制度を公表−

(サウジアラビア)

リヤド事務所

2014年06月30日

外国企業の投資認可機関であるサウジアラビア総合投資院(SAGIA)は、投資ライセンスの発行を5営業日以内で行うファスト・トラック・サービスを導入した。対象は、SAGIAの審査に通った当地経済に貢献する優良外国企業。本サービスの開始により、一部企業の手続きの迅速化が期待できる半面、適用要件にはSAGIA側の解釈次第となる曖昧な箇所も多く、サービスの活用には注意が必要だ。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<既に適用を受けた欧米企業も>
新しいファスト・トラック・サービスは、2014年6月からSAGIAがプレスリリースで概要を公表している。

同サービスは、SAGIAが提示する要件を満たし、当地経済に多大な好影響をもたらすと考えられる適用対象企業に対して、5営業日以内に迅速に投資ライセンスを発行する。既に本サービスは受け付け・適用を開始しており、早くも申請して適用を受けた欧米企業があるという。

<SAGIAが制定した基準に基づき投資企業の貢献度を評価>
ジェトロでは、実施の背景や適用要件の詳細について、SAGIAシニア・ライセンシング・スペシャリストのモダール・H・ヒッジ氏に聞き取り調査を行った(6月19日)。

同氏によると、本サービスは投資ライセンスの新規取得、またはライセンス内容の改定の際に利用できる制度で、現状はまだライセンス更新時には対応していない。ライセンス更新は件数が多過ぎるため、本サービスが軌道に乗るまでは適用が難しいとのことだ。

SAGIAはこれまでも、できるだけサウジアラビア経済に貢献し得る大企業・優良企業の投資手続きを優遇したいと考えていたが、大型投資についても途上国などからの中小企業投資も同一基準で取り扱ってきた。企業が優遇に足るかどうかは、国籍だけで区別することも困難なことから、このたび幾つかの判断基準を設けて、企業別に優良企業か否かをSAGIAで独自に審査することにした。

審査では、投資規模(従業員数、売上高など)が大きいことが重要で、かつ(1)新しい付加価値、(2)サウジアラビア人の雇用、(3)税収、(4)新しい技術や知識、の4点について、申請企業がいかにサウジアラビア経済に貢献できるかを評価する。適用審査は、SAGIA内に審査委員会や専門部署を設けているわけではなく、原則として担当者が判断するようだ。SAGIAリヤドセンター内には2人のファスト・トラック・サービス担当者がおり、担当者だけで判断が難しい場合にはSAGIA内で議論する場合もあるとのことだ。

<主に4種類ある申請書類を提出して申請>
前述のプレスリリースは、手続きの概要を「First〜Sixth」の以下の6項目にわたって説明している。

○First:申請に必要な企業の要件
○Second:申請時の必要書類
○Third:申請書類の送付先(Eメールアドレス:Fasttrack@sagia.gov.saに送付)
○Fourth:大規模建設会社への「仮ライセンス」の発行
○Fifth:ファスト・トラック適用企業には5営業日以内にライセンスを発行する
○Sixth:本ファスト・トラック・サービスそれ自体の見直しを6ヵ月以内に行う

それぞれのポイントは次のとおり。

Secondに記載がある申請書類とは、主に4種類。(1)法人登録関連の書類(定款や商業登記・法人登記など)、(2)取締役会決議、(3)企業プロファイル〔SAGIAウェブサイト(アラビア語)からダウンロードできる「Autobiography Form」を記入して提出、添付資料参照〕、(4)業種によってはサウジアラビア側の関連機関による承認レター〔例えば、食品企業ならサウジアラビア食品医薬品庁(SFDA)のレターなど〕となっている。

また、Secondの2に示されている「the competent authorities」は、企業の本国で法人登録を承認する機関を指しているとのことだった。

Fourthに記載がある「仮ライセンス」は、当地の特殊事情を反映したものだ。重要な政府プロジェクトの場合、プロジェクトを完了するため政府がSAGIAに急ぎで仮ライセンスを発行するよう要請することがあるため、大規模な建設会社に対しては特別に仮ライセンスを発行する可能性があることを記載している。

<適用要件にSAGIA側の判断次第となる箇所も多数>
上記Firstにおいて、申請企業のファスト・トラックの適用要件7項目については、「どれか1つでも要件を満たせばSAGIAから認定を受けられるというわけではなく、SAGIA側が合理性や商慣習に基づいて、複数の要件の組み合わせをもって判断する」とのことだった。このため、企業によっては、要件1「多国籍企業」だけではなく、要件2「上場企業」やその他の要件も合わせて満たす必要があり、要注意だ。

要件の定義も明確ではなく、SAGIA側の判断次第となる箇所も多い。ジェトロが確認できた点は以下のとおりだ。

(1)要件3「independent agencies」は特定の組織を指しているわけではなく、特別な技術を用いた製品であることを本国などのしかるべき組織に承認してもらい、SAGIAに証明書を提出すればよい。
(2)要件4「innovative enterprises」も決まった定義はなく、知財権の登録があるなど、SAGIAを納得させられる材料があればよい。
(3)要件5「regional centers」とは、サウジアラビア1ヵ国だけでなく複数の国にまたがって管轄するセンターを指すが、地域は具体的に決まっているわけではなく、湾岸協力会議(GCC)加盟国でも中東でも、SAGIA側で納得できる範囲であればよい。
(4)要件6「construction companies」にある「the first class in their countries」では、企業本国の政府調達などにおけるクラス分けでファーストクラスであることを示せばよい。2,000人はプロジェクトの労働者数ではなく企業の従業員数で、「total assets」は当該企業の総資産(資本金ではない)となる。

<手続きの迅速化に期待も、運用面では課題>
これまで、SAGIA投資ライセンスの取得には「最大30日」が必要とされた。本サービスの開始により、ライセンス取得期間の大幅な短縮が期待できることは投資環境改善の1つと捉えることもできる。しかし、進出済み企業のライセンス更新には対応していないことや、大企業優遇の姿勢を示したことで中小企業による投資・進出のハードルが高くなったことなど、課題も少なくない。

適用要件にも、SAGIA側の解釈でいかようにもなる曖昧な表現が多いことから、当面はSAGIAのサービス運用を注視し、どのような適用事例がみられるか確認していくことが必要だ。

(米倉大輔)

(サウジアラビア)

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