大口需要家にクリーンエネルギー調達を義務付け-エネルギー転換法を公布-

(メキシコ)

米州課

2016年01月08日

 エンリケ・ペニャ・ニエト大統領は2015年12月24日、連邦官報でエネルギー転換法を公布した。同法は再生可能エネルギー発電や省エネを促進するための法律で、2013年末の憲法改正を伴うエネルギー改革において、新たな立法措置が立法府に求められていた。大口需要家は、2018年から消費電力の5%以上の電力をクリーンエネルギーで調達することが求められ、この比率は段階的に引き上げられる。鉄鋼や化学などの業界団体は、メキシコの国際競争力をそぐ要因となると反対している。

<電力産業法で、まず購入義務を導入>

 エネルギー転換法は、クリーンエネルギーの導入と省エネの促進に向けた枠組みを整備するための法律で、2013年末のエネルギー改革法案の付則1718条に基づき、議会が憲法改正後1年以内に制定するよう求められていた。2008年末に公布された「代替エネルギー利用促進・新エネルギー移行金融支援法」と「エネルギー持続的利用法」の2つの法律(2008年11月5日記事参照)を廃止し、1本の法律にまとめたかたちとなっている。

 

 クリーンエネルギー(注1)発電の利用促進のための政府機関として、国家電力クリーンエネルギー庁(INEEL)が新設されるが、その他の法的な枠組みとしては、旧2法と新法で大きな違いはない。省エネ促進活動については、これまでどおり国家省エネルギー委員会(CONUEE)が担当する。

 

 2015年秋に行われたエネルギー転換法の国会審議で最も話題だったのは、クリーンエネルギー証明書(CELs)の取り扱いだ。CELsは、既に2014811日付官報で公布された電力産業法の第3章第121129条で規定されており、クリーンエネルギー発電事業者に対して、電力規制委員会(CRE)が発電量に応じたCELsを発行し、20161月末から開始される予定の電力卸売市場で自由に売買される。電力卸売市場に参加する資格がある、電力の大口需要家〔需要電力が5メガワット(MW)以上かつ年間の消費電力量が20ギガワット時(GWh)以上〕は、1年間の総消費電力量の一定比率以上の電力量に相当するCELsを取得し、精算(注2)しなければならない。2018年からCELsの取得・精算義務が開始されるが、求められる比率は、毎年第1四半期に翌年以降3年間について発表される。2015331日付官報で公示されたエネルギー省の告示によると、2018年の総使用電力量に占めるCELsの比率は5%と定められている。

 

 CELsの取得・精算義務については、国全体の実際のクリーンエネルギー発電能力を超えるような、高い比率が求められるとCELsの量が不足してCELsの価格高騰を招き、電力調達コストが大幅に上昇する、と懸念する産業界の声があった。従って産業界は、CELsの市場での販売価格に上限を設定することや、CELsの量が足りない場合は、取得・精算義務の履行に柔軟性を持たせることをエネルギー転換法の中で盛り込むことを求めていた。

 

<証明書の取得・精算業務に柔軟性>

 公布されたエネルギー転換法では、第68条でエネルギー省がCELsの取得義務を課すことができることをあらためて規定し、第69条でCRECELsの公式登録簿を作成し、保存することを定めた。登録簿の厳密な管理により、CELsの所有者が誰であるかを明確にする目的だ。CELsの市場における販売価格に上限を設定することはしなかったが、CELs取得・精算義務に柔軟性を持たせることについては、CELs導入後最初の4年間(20182021年)については、以下のいずれかの条件を満たす場合にのみ、各需要家に精算が求められるCELs50%分については2年間先延ばしにすることを可能にした(エネルギー転換法付則22条)。なお、20141031日付官報で公示された、CELsの発行基準および取得要件に関する指針に基づき、以下の条件を満たさなくても当該年で精算が求められる25%分のCELsについては、2年間精算を先延ばしにすることが可能だ。しかし、先延ばした部分については、遅延した1年間につき5%増しの精算を行う必要がある。

 

1)当該年に登録されたCELsの量が2018年、あるいは、2019年に義務化されるCELsの総精算量の70%に満たないとCREが判定した場合

2CELsの市場における販売価格(1CEL当たり)が60UDIs(約2,200円、UDIは投資単位と呼ばれるインフレ率を加味した単位、1UDI5.384637ペソ=約37円)を上回る場合

 

 CELsの取得・精算義務を満たさない大口需要家に対しては、罰金が科される。罰金の計算方法を定める規定は、まだ草案がパブリックコメントに付されている段階にある。1111日付で連邦規制改革委員会(COFEMER)に公示された草案によると、CELsを用いて精算できなかった1MWh当たりで最低賃金の642倍(438.243,067.68ペソ、約3,00021,000円)の罰金が科される。

 

<産業界からは、強い反発の声も>

 メキシコは、途上国の中では温室効果ガスの排出削減に以前から積極的な国であり(2012年6月14日記事参照)、パリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に先立ち、温室効果ガス削減に向けて、各国が自主的に決定する約束草案(INDC)を2015330日に、新興国の中で最初に提出した国だ。

 

 メキシコのINDCでは、2030年に黒色炭素の排出をベースライン比51%、温室効果ガスを22%削減する目標を盛り込んでいる。エネルギー転換法の施行は、同目標を達成するための1つの手段としても位置付けられており、同法の付則3条では、2018年にクリーンエネルギーの発電比率を25%、2021年に30%、2024年に35%にする目標を掲げている。

 

 エネルギー省によると、2014年の総発電量(301,462GWh)に占める発電源別の構成比は、天然ガスが57.0%、水力が12.9%、石炭が11.1%、重油が8.8%、原子力が3.2%、風力が2.1%、その他石油火力が2.0%、地熱が2.0%、バガス(サトウキビかす)発電が0.4%、バイオガス(廃棄物)が0.1%、太陽光・熱が0.1%、その他が0.3%となっており、クリーンエネルギー発電(原子力を除く)を合計すると17.6%であるため、2018年の目標には大きく及ばない。原子力をクリーンエネルギーとしてカウントする可能性はあるが、原子力を含めても現状では20.8%だ。

 

 産業界は、政府が他国と比べて野心的な目標を設定していることを問題視し、過度な規制はメキシコの国際競争力をそぐ要因になると指摘している。全国工業会議所連合会(CONCAMIN)は、メキシコの温室効果ガス排出量は世界の1%(正確には2012年時点で1.37%)で、26%の中国、15%の米国と比べて野心的な目標(中国の目標は2030年までに非化石燃料の発電比率を20%)を設定していると指摘する(CONCAMINプレスリリース20151211日)。CELsの市場価格が不透明な中で高い取得義務が設定されると、メキシコの国際競争力がそがれ、国内外の企業の対メキシコ投資が減退すると指摘する。

 

 全国鉄鋼産業会議所(CANACERO)は、国際的にみても安価な北米大陸の天然ガスを利用して、コンバインドサイクルで効率的に発電することにより、温室効果ガスの排出量を現状よりも減らせることを指摘し、クリーンエネルギーによる発電比率ではなく温室効果ガスの排出量そのものの削減を目標にすべきと主張する。クリーンエネルギーを優先し、天然ガス・コンバインドサイクル発電をあまり利用しないことにより、メキシコの発電コストは10%上昇し、年間22億ドルの追加費用が発生するという(CANACEROプレスリリース20151125日)。CANACEROは天然ガス利用促進に加え、省エネによる電力使用量の削減を大口需要家の義務履行の条件に加味することも主張している。

 

 CONCAMINCANACEROは、エネルギー転換法が国会の両院を通過した1210日以降、行政府に対して同法に拒否権を行使するよう主張し、ペニャ・ニエト大統領と面会して直接拒否権行使の要請を行うことを計画していた。しかし、同法はそのまま1224日に公布されてしまったため、CONCAMINCANACERO、全国製造業会議所(CANACINTRA)は1月にもアンパロ訴訟(注3)に訴える構えをみせている。CANACEROのフアン・アントニオ・レボウレン会頭は、エネルギー転換法の施行は義務違反に対する罰金の支払いまで含めると、電力コストを少なくとも30%上昇させると見通している(「レフォルマ」紙20151226日)。

 

(注1)エネルギー転換法の第3条および付則第6条によると、「クリーンエネルギー」を定義するための排出ガスや残留物についての基準が法律公布後365日以内に新たに定められるまでは、電力産業法(LIE)第322項に定義されているもののうち、基準や規格、最低効率などの新たな設定が必要のないものをクリーンエネルギーとする。具体的には、風力、太陽光・熱、潮力、地熱、バイオマス(関連法で別途定義されている)、廃棄物などから発生するメタンガスによる発電、水素エネルギー(一定の条件あり)などだが、天然ガス・コンバインドサイクル発電はクリーンエネルギー発電と見なされない。

(注2CELsは電力卸売市場で取得した後、他の需要家に転売することが可能だ。電力の大口需要家が取得したCELsを自らの義務履行のために使用することを「精算」と呼び、精算後のCELsは市場で取引することはできない。未清算のCELsであれば何回でも転売することは可能。

(注3)憲法で保護された基本的人権を国が侵害した場合、その原因となった行政・立法・司法措置の無効を訴える裁判。

 

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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