EUの溝の深さ、あらためて浮き彫りに-ギリシャ危機めぐり欧州議会で集中討議-

(EU、ユーロ圏、ギリシャ)

ブリュッセル事務所、ミラノ事務所

2015年07月10日

 ギリシャ財政危機をめぐる集中討議が7月8日、欧州議会本会議で繰り広げられた。ギリシャのアレクシス・ツィプラス首相も出席し、数日内に具体的な財政改革案を示すと明言したが、先行きの見えない議論に批判が集中。フランスの極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首など「ユーロ懐疑派」も相次いで議場に立つなど、EUに横たわる溝の深さをあらためて浮き彫りにした。

<ツィプラス首相は「不当債務論」を展開>

 欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長、欧州委員会のジャン・クロード・ユンケル委員長、ツィプラス首相などが出席した78日の欧州議会本会議(フランス・ストラスブール)で、ギリシャ財政危機について集中討議が行われた。

 

 討議は、事態の行き詰まり(注)に危機感を募らせるトゥスク常任議長の開会あいさつで始まった。同議長は「今は信頼回復を最優先にすべき時だ。ギリシャの国民投票の結果の善しあしを議論するつもりもない。『既往はとがめず(Let bygones be bygones)』だ」と切り出した。しかし、これに続いたツィプラス首相は「強力な民意を背景に『欧州の民主主義の殿堂』に戻ってきた」「不況に陥らないように配慮した、公正な負担の分配に基づく改革を進め」「最優先課題として、失業問題と戦い、起業を促進する」と具体性に欠ける主張を展開した。「数日のうちにわれわれの財政改革案の詳細を提示する」と明言したものの、「これまでのギリシャ支援の資金はギリシャ国民ではなく、ギリシャと欧州の銀行の救済に使われた」「だから、緊縮プログラムはギリシャ国民に受け入れられない」という「不当債務論」2015年7月6日記事参照を繰り返した。

 

<怒り心頭の欧州議会議員たち>

 このツィプラス首相の発言に対する欧州議会主要会派からの反発は強かった。最大会派である中道右派「欧州人民党・民主主義グループ(EPP)」代表のマンフレート・ベーバー議員(ドイツ選出)は「あなたは挑発にご熱心だが、われわれは妥協することも考えている。また、あなたは欧州のことがお嫌いのようだが、われわれは欧州を愛している」「あなたはギリシャの尊厳を口にするが、今まであなたは国民に本当のことを伝えたことがあるのか。尊厳を語る資格があるのか」とツィプラス首相を痛烈に批判した。また、「EU域内にはギリシャよりも生活水準が低い国が5ヵ国もある。あなたは、ギリシャはもうこれ以上の緊縮には耐えられないというが、これら(5ヵ国)の国民に何と説明できるのか」と詰め寄った。

 

 また、リベラル派の「欧州自由民主同盟(ALDE)」代表のギー・フェルホフスタット議員(ベルギー選出)は「過去5年間、われわれは極端な政治勢力の影響で、ギリシャのユーロ圏からの離脱〔グレグジット(Grexit)〕に向かって夢遊病者のようにさまよい歩いてきた。そして、ここ数ヵ月はGrexitに向かって走り始めている」として、期日を定めたロードマップの必要性を説いた。また、「ツケを払わされるのはあなたでもわれわれでもない。普通のギリシャ国民だ」と指摘、ギリシャ国内に残存する特権の撤廃をツィプラス首相に求めた。

 

<ユーロ懐疑派の反応は冷ややか>

 これに対して、ユーロ懐疑派の反応は冷ややかだった。英国のEU離脱を主導する英国独立党(UKIP)党首で、保守系の「自由と直接民主主義の欧州(EFDD)」の代表も務めるナイジェル・ファラージ議員(英国選出)は、ツィプラス首相ではなくユーロを批判して、「コンセンサスを模索せずに(基盤の)異なる人々や経済を無理に統合しようとしても、うまくいくわけがない。これはギリシャに始まったことではなく、ユーロという誤った通貨圏内にいる地中海域全体の国々(イタリア、スペイン、ポルトガルなど)にも当てはまる(問題だ)」と指摘。FN党首で、6月に立ち上げた極右の新会派「欧州の国民と自由(ENF)」共同代表のルペン氏も「ユーロと財政緊縮は表裏一体の関係だ。あなたの国民はユーロ圏から離脱しない限り、緊縮は免れない」とツィプラス首相に迫った。

 

 ユンケル委員長は「(ギリシャが)交渉のテーブルを蹴ったのが間違いだった。あの時、決裂しなければ、今ごろ、合意できていただろう」と嘆いた。またトゥスク常任議長は、残された時間がないことを危惧しつつ、「これから4日以内にギリシャ問題で合意できなければ、4日後に朝起きたら、『今とは違う欧州』になっているかも知れない。ギリシャだけでなく、われわれにとっても本当にこれが『最後のモーニングコール』になるかもしれない。ラストチャンスだ」と苦悩をにじませた。

 

(注)ギリシャの国民投票(75日)の結果2015年7月6日記事参照、国際債権団側が求める財政緊縮策受け入れが否決されたことを踏まえて、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)が77日に開催されている。しかし、ギリシャのユークリッド・ツァカロトス新財務相(ヤニス・バルファキス財務相は76日に辞任(2015年7月8日記事参照)から財政改革案の提示はなかったと、同会合のイェルーン・ダイセルブルーム議長(オランダ・財務相)が明らかにした。また、同会合に続いてトゥスク欧州理事会常任議長はユーロ圏首脳会議を招集していたが、ギリシャ政府から欧州安定メカニズム(ESM)条約に基づく新たな金融支援の要請があったこと以外に進展はなく、712日に日曜日返上のEUレベルの緊急首脳会議を開くことが決まった。こうした状況に対するトゥスク常任議長の落胆は大きく、77日のユーロ圏首脳会議の声明文の後に発表された異例の常任議長コメントの中で「(今後の5日間で)われわれが合意に達しなければ、ギリシャは必ず破綻し、その金融システムも崩壊するだろう」「私はこれまで敢えて(合意形成の)期限についての言及を避けてきた。しかし、今夜、私は声を大にして言いたい。今週末で最後だと」と強い口調で語った。

 

(前田篤穂、山内正史)

(EU、ユーロ圏、ギリシャ)

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