極東に自由貿易3特区、正式に承認

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2015年07月07日

 政府は6月26日、ロシア極東と一部のシベリア地域で導入する特区「優先的社会経済発展区域(TOR)」として、ハバロフスク地方の2区域と沿海地方の1区域を正式に承認したと発表した。沿海地方政府関係者らに同地方での今後の展開を聞いた(6月15日)。

<ハバロフスク特区に日系企業が進出>

 TORに入居が承認された事業者には、税金や社会保険料の減免措置、雇用面での優遇措置、行政手続きのワンストップサービスなどが提供され、域内が自由貿易地域として取り扱われる(2015年4月14日記参照)

 

 625日付連邦政府決定第628630号によって、ハバロフスク地方の2区域、沿海地方の1区域でのTOR設立が承認された(表1参照)。施行日はいずれも77日。3区域は2月に政府の小委員会で暫定承認されていた(2015年4月15日記事参照)。本連邦政府決定の中で、事業を行うに際し求められる最低資本投資額は50万ルーブル(約110万円、1ルーブル=約2.2円)と規定された。決定案では500万ルーブルとされていたが、緩和された。

 ハバロフスク地方のTOR1つ「ハバロフスク」には、ハバロフスク市、ハバロフスク行政区、ラキトネンスコエ村落が含まれる。同区域では、日揮が現地企業と合弁で設立したJGCエバーグリーンが入居する見込みだ。同社は現地に温室を建設し、年間を通してキュウリやトマトを生産・販売する。63日に建設のくわ入れ式が開催された。投資予定額は20億ルーブル。

 

 ハバロフスク地方の2つ目のTORは「コムソモリスク」。対象地域の1つであるコムソモリスク・ナ・アムーレには、大手航空機メーカーのスホイの工場が立地する。航空機および同部品関連産業の集積が期待されている。

 

<沿海地方の特区には物流や菓子メーカーも>

 沿海地方では、TOR「ナデジンスカヤ」の設立が承認された。予定されている投資企業はインコムDV(物流業)、沿海製菓、ネバダ・ボストーク(流通業)の3社。インコムDVはドライ・ポート(内陸港の積み替えターミナル)を含む物流センターを整備し、入居企業などにサービスを提供する。沿海製菓は菓子工場を建設する。沿海地方投資誘致庁のエレーナ・ヤスケビッチ第1副長官によると、同社はウラジオストク市内にある工場をTOR内に移転する。ネバダ・ボストークはハバロフスクが本拠で、スーパー「サムベリ」を運営する。沿海地方のウラジオストクとウスリースクにも店舗があり、TOR内に物流センターを設立する。

 

 TORナデジンスカヤの民間投資を除く開発予算は、案の段階では連邦政府が約8割を負担することになっていたが、最終的に連邦および地方政府(沿海地方政府およびナデジンスキー行政庁)が折半で負担することになった。地元大手自動車販売会社の社長で沿海地方政府知事顧問を務めるビタリー・ベルケエンコ氏は「(極東発展政策を所管する)ユーリ・トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表が、連邦と地方が折半で負担すべきと主張した」と背景を語る。しかし、沿海地方政府は十分な予算を直ちに用意できないため、各年で折半するのではなく、2017年までの3年間で帳尻を合わせるようにするという。

 

 ヤスケビッチ第1副長官によると、連邦政府決定での承認を受け、今後1ヵ月程度を経て、各TORの管理会社が設立される。その管理会社が区域内のインフラ整備や入居者向けサービスを担当する。管理会社は、5月に連邦政府によって設立された極東発展公社の下に、連邦および地方政府の出資で設立される。

 

<ルースキー島は特区化の構想固めや予算に課題>

 428日に開かれた政府の小委員会は、さらに6つの候補地を暫定承認した。概要は表2のとおり。

 なお、関係者の話によると、沿海地方では暫定承認された「ミハイロフスカヤ」に続く3つ目の候補地として、ルースキー島を検討している。ヤスケビッチ第1副長官によると、極東発展省への申請を準備しているという。対象産業については「科学教育、観光レクリエーション、研究開発。(区域内に立地する)極東連邦大学の医療センターや実験施設を生かせる。ロシア科学アカデミー付属水族館があるので、養殖などの水産研究も」と、候補を挙げた。しかし、ベルケエンコ氏は「開発構想が固まっておらず、開発予算の見通しが立っていない」と課題を述べた。

 

(浅元薫哉)

(ロシア)

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