日本に身近な地でも異なる労働法や労働慣習-雇用主が知っておくべきハワイ州法のポイント-

(米国)

ロサンゼルス事務所

2015年07月27日

 ハワイ州でビジネスを営む際に、従業員管理の大変さや重要さを経営者からよく聞く。過去にジェトロがレストラン経営者を対象に行ったインタビューでも、従業員管理が課題の1つに挙がっており、経営者は現地の労働法を知り、順守する必要がある。そこで、人事労務コンサルタントのHRMパートナーズの協力を得て、ハワイでビジネスを行う際に雇用主が知っておくべき労働法のポイントをまとめた。

<従業員への通知は可能な限り書面で>

 ハワイのレストラン経営者を対象に行ったインタビュー(2015年6月29日記事7月2日記事参照)によると、現地での従業員管理は経営課題の1つとして挙がっている。在ホノルル日本総領事館の調べ(2014年)では、ハワイには日本から年間151万人の観光客が訪れ、古くからの日本人コミュニティーがあるなど、日本人にとって身近な地だ。しかし、米国の一州であることに変わりはなく、雇用にまつわるリスク管理のため、日本と異なる労働法や労働慣習を理解する必要がある。以下、その概要について紹介する。

 

 雇用主は雇用時に、初任給額と支払い日を書面で従業員に通知する義務がある。また、賃金や有給休暇、病欠、祝日のポリシーを変更する際、書面またはポスターなどの掲示で通知する義務がある。

 

 直近の12ヵ月間で州内に50人以上の従業員がいる雇用主は、会社の閉鎖や州外への移転でレイオフまたは解雇する場合、対象の従業員と州労働工業局(Hawaii Department of Labor and Industrial Relations)に最低でも60日前に書面で通知しなければならない。

 

 従業員への通知は、後日のトラブル防止のため、可能な限り書面で行った上で、従業員に確認のサインをもらうことが望ましい。

 

<最低賃金が毎年引き上げに>

 201511日~1231日の最低賃金(時給)は7.75ドルで、それ以降は2016年は8.5ドル、2017年は9.25ドル、2018年は10.1ドルと毎年引き上げられる。ただし、公正労働基準法で定める労働時間規制の適用除外となる「エグゼンプト(Exempt)」に分類される従業員と、2,000ドル以上の月給が約束されている従業員は対象外となる。

 

 なお、最低賃金については幾つか特例がある。まず、20歳未満の従業員の最低賃金は、雇用開始後から90日後または20歳になるまでのどちらか早い日までは、その業務内容が他の従業員の仕事に取って代わらない限り4.25ドル。その後は通常の最低賃金となる。

 

 フルタイムの高校生や大学生が小売りやサービス業の店舗、農業、大学でパートタイムとして勤務する場合にも特例があり、勤務時間が20時間までは最低賃金の85%となる。

 

 さらに、レストランなどで月20ドル以上チップを受け取る従業員で、1時間当たりの賃金とチップの合計が最低賃金プラス7ドル以上すなわち2015年においては14.75ドル以上ある場合、雇用主はチップの分をあらかじめ見込んで賃金を設定できる。

 

<残業代は時給の1.5倍以上>

 週40時間以上の勤務時間に対し、時給の1.5倍以上の残業代を支払わなければならない。ただし、通常「エグゼンプト」に分類される従業員と2,000ドル以上の月給を約束されている従業員は対象外となる。また雇用主は、賃金支払いの記録を最低6年間は保管しなければならない。

 

<賃金の支払いは最低でも月2回>

 雇用主は従業員の賃金を最低でも月2回以上、事前に決められた支払い日に、現金、小切手、または銀行振り込みで支払わなければならない。日本のように月1回以上ではない点に注意が必要だ。なお、雇用主は以下の理由による従業員の給与天引きは禁止されている。

 

○遅刻などを理由とした罰金

1人でレジや現金箱を担当した場合の現金不足

○破損の際のペナルティーや買い替え

○雇用主が引き落としを許可した小切手が不渡りになった際の損失分

○欠陥製品、物の破損や盗難、建物の破損、顧客のクレジットカードの債務不履行(従業員が故意または意図的に雇用主の指示に従わなかった場合を除く)

○顧客の無銭飲食の補填(ほてん)

 

 雇用主の賃金未払いを訴える場合、従業員は1年以内に州労働工業局賃金基準課に届け出なければならない。

 

<家族介護休暇は最長4週間>

 従業員が妊娠、出産、またはそれに関連する体調不良を訴えてきた場合、雇用主は有給または無給で適切な期間の休暇(妊娠出産休暇)を認めなければならない。適切な期間とはその従業員の体調や仕事内容によって決められるが、雇用主は従業員に医師の診断書を要求することができる。

 

 州内に従業員数が100人以上いる雇用主は、従業員が出産や養子受け入れ、または深刻な健康状態であることや、子供、親、配偶者、パートナーの介護を理由に、休暇を申請してきた場合、無給休暇(家族介護休暇)を最長で4週間提供しなければならない義務がある。この休暇は、最低でも継続して6ヵ月以上勤務する従業員が対象となる。

 

 従業員自身が犯罪被害者である場合や、従業員の子供が家庭内暴力や性的暴力の被害者であることを理由に、休暇(犯罪被害者休暇)を申請してきた場合、雇用主は、従業員数50人以上の会社の場合で1年間に最長30日間、従業員数50人未満の会社の場合で1年間に最長5日間の無給休暇を許可することを義務付けられている。

 

 また、従業員が兵役のための休暇(兵役休暇)を取得する場合、雇用主は兵役休暇申請や兵役の有無を理由とした差別や報復行為を行うことは禁止されている。また、従業員が兵役休暇中も会社の健康保険の継続を望む場合、兵役中の最長24ヵ月間は従業員本人と扶養家族分の継続を認めなければならない。

 

<医療保険提供も義務付け>

 フルタイム、パートタイム、派遣社員を含む従業員が1人以上いる雇用主は、従業員に対し労災補償の提供を義務付けられている。

 

 また、従業員が仕事に関係のないことが理由で発生するけがや病気により、一時的に収入がなくなる際の給与補填をする保険(Temporary Disability Insurance)の加入も義務付けられている。従業員が保険金を受け取るためには、州内での勤務期間が少なくとも通算で14週間以上あり、けがや病気で申請するまでの52週間のうちに、少なくとも有給の勤務時間が20時間以上または400ドル以上の収入があることが必要だ。なお、転職した場合には転職前の勤務期間を算入できる。

 

 さらに雇用主は、仕事に無関係な事由で生じたけがや病気にかかる医療費や病院治療費を補填する医療保険を従業員に提供することが義務付けられている。対象となる従業員は、週20時間以上勤務し、月収が最低賃金の86.67倍以上あることが条件だ。雇用主は保険料の従業員負担割合を決めることができるが、上限が設定されており、月額保険料の50%未満または月収の1.5%未満と定められている。

 

<職場内の安全規定に基づく罰金も>

 州労働工業局職業安全健康課が職場での安全規定を定めており、従業員は職場環境で安全上の問題を発見した場合は雇用主または当局に報告する権利を与えられている。雇用主が当局の改善指導に従わない場には、1つの問題ごとに罰金が科せられる。

 

(桑田弦)

(米国)

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