TIRカルネの適用を再開、34ポイントで通関手続き改善

(ロシア、カザフスタン、欧州)

欧州ロシアCIS課

2015年07月17日

 ロシア連邦税関局により約2年間制限されてきた、国際道路運送手帳(TIRカルネ)の適用が6月17日、暫定的に再開した。同制限はユーラシア経済連合域内のモノの移動自由化を阻む、とカザフスタン政府が主張したことが事態の改善につながった。34の通関ポイントでの暫定的な適用再開だが、現場での対応には課題もあるようだ。

<連邦税関局とアスマップの協力関係は継続>

 ロシア連邦税関局は2013914日以降、ロシア国内の通関ポイントを通過するトランジット貨物(内陸で通関する貨物を含む)について、TIRカルネ(注)を輸入税などの担保書類と見なさないとする措置を導入していた。このため、TIRカルネの適用は、ロシア国内の100以上ある通関ポイントのうち、北西連邦管区の数ヵ所のみに制限されていた(「コメルサント」紙616日)。

 

 適用制限措置導入の背景には、TIRカルネを利用する企業の輸入税などの支払いを保証する国内認定団体の国際道路輸送協会(アスマップ)が200億ルーブル(約440億円、1ルーブル=約2.2円)に上る債務を発生させているという連邦税関局の主張があった。アスマップはそれに対し、支払い債務については問題ないとし、両者に意見の相違が生じていた。さらに、連邦税関局はアスマップに協定解約通知を発出し、新たな国内認定団体の選定についても検討を進めていた(2014年1月28日記事7月18日記事参照)。

 

 ロシア連邦税関局は2015610日、アスマップに書簡を送り、過去の協定解約通知に関する書簡の撤回を通知した。これにより、両機関の協力関係は継続することとなる。アスマップによると、617日以降、暫定的に34の通関ポイントでTIRカルネの適用が可能となり、輸送業者に対してTIRカルネの利用を推奨している(表参照)。最終的な通関ポイントのリストについては、連邦法に定められた手続きに従って今後確定する予定だ。

<カザフスタン政府の働き掛けが再開を後押し>

 20139月にTIRカルネの適用制限が設けられて以降、ロシア国内の商工会議所のほか、国際道路輸送連盟(IRU)や国連欧州経済委員会(UNECE)などの国際機関が、ロシア連邦税関局に状況改善を求める書簡を送付していた。また、仲裁裁判所が連邦税関局の対応を不正とする決定を下したにもかかわらず、連邦税関局は状況改善に向けた動きをみせずにいた。しかし、カザフスタン政府がロシア政府に対し、TIRカルネの適用制限はユーラシア経済連合(EEU)域内での物流自由化の脅威になりかねないとして状況の改善を申し入れたことにより、状況は一変。2015529日にEEU加盟国政府間会議で、域内におけるTIR条約の継続的運用の確保についての指示が決定(613日発効)、ロシア連邦税関局の610日付書簡の発出につながった。

 

 カザフスタン政府がロシア政府に働き掛けを行った背景には、欧州との貨物輸送においてカザフスタンはロシアを経由するため、2度の通関手続き・支払いが生じ、余分な時間と費用が発生することがある。カザフスタン国際自動車輸送同盟のテオドル・カプラン会長によると、TIRカルネの適用制限により、カザフスタン国内の輸送業者には欧州との輸送に毎回500600ドルの追加費用が発生し、1年の損失額は1億ドルに上ったという(「コメルサント」紙616日)。

 

<通関ポイントでの対応にはばらつき>

 在サンクトペテルブルクの地場輸送業ソブアフトのドミトリー・カドムスキー副社長によると、フィンランド国境のトルフャノフカやスベトゴルスクの通関ポイントでは、TIRカルネのシステムは問題なく機能しているという。一方で、ロシア連邦税関局によって創設され、税関分野の課題解決に取り組む国有企業ロステクによると、ラトビア国境のウブィリンカとエストニア国境のシュミルキノの通関ポイントでは、法務省によって承認された連邦税関局の規定がないことを理由に、税関職員がTIRカルネによる通関を受け付けていないという。アスマップは、TIRカルネによる通関手続きに問題が生じた際は、アスマップのTIR・税関システム局の担当者に連絡することを推奨している。

 

(注)国際道路運送条約第6条に基づいて認定された団体が発給する通関手続き用および輸入税などの担保用書類。

 

(田端義明)

 

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