不当な課税価格の修正には提訴で対抗を−通関分野の法改正と実務(2)−

(ロシア)

モスクワ事務所

2014年07月18日

ロシアでの通関に際して、税関申告価格の認定は悩ましい問題の1つ。申告価格を妥当と見なせる十分な根拠がある場合に、税関から関税などの算出根拠となる価格(課税価格)引き上げの指摘があれば、裁判に訴えてでも主張すべきだ、と法律事務所DLAパイパーのアレクセイ・アロノフ通関グループ長は指摘する。同氏の講演報告の後編。

<通関申告額の引き上げはリスクを伴う>
通関における大きな問題の1つが税関の有する商品価格リストだ。法律では、価格リストは通関時の課税価格の判断に利用されず、追加検査を行う根拠にすぎないとされている。しかし、実務上では、a.価格リストを基にHSコードの3分の2以上の品目が「価格リスクを含む品目」に分類され、それらの品目には課税価格の目安となる「通過価格」の下限が設定されている、b.価格リストは定期的に更新され、その都度上昇する。最新の更新は5月初めに行われている、c.価格リストは参考としての利用を推奨される性格のものでありながら、税関職員が課税価格修正の指針として用いるケースが多い、という問題を抱えている。

これを回避する方法としては、「通過価格」確定まで取引価格の自主的な引き上げを控えること、公正でない課税価格修正の決定に対して裁判に訴えること、などが挙げられる。

自主的な引き上げの抑制については、企業側が「通過価格」の下限額以下で税関申告することが認められないと考え、自主的に申告価格を引き上げてしまうと、当初の申告価格に正当性がないと見なされ、かえって課税リスクが高まることもある。最初から価格を変えずに申告し続けることが、後々の正当性の証明となるため重要だ。

また提訴については、提訴したからといって税関から否定的な印象を持たれることはない。税関と意見交換をした際に、税関局の幹部は「(価格の修正に不満があれば)提訴してほしい。裁判所の判決によって価格リストが是正されるのは良いことだ。税関職員の間違いは指摘した方が良い」と述べた。DLAパイパーも数多くの提訴を行っており、8割以上の確率で企業側が勝訴している。

<TIRカルネめぐる状況は流動的>
国際道路運送手帳(TIRカルネ、注1)を用いた手続きに関する状況(2014年1月28日記事参照)について、連邦税関局は国際道路輸送協会(アスマップ)との合意を一方的に破棄する予定だ(注2)。破棄された場合、国際トラック輸送において輸送時間の長期化、ロシア国境を通過するトラック輸送料金の大幅な値上げといった深刻な影響が生じる可能性があり、同時に、多くの輸送業者が欧州からの貨物を、ロシアのTIRカルネの手続きの影響を受けないベラルーシ経由で輸送することになろう。

現在、国際道路輸送連盟(IRU)に承認される、新たな保証団体の選考が予定されており、アスマップに代わる別の機関が保証団体となる可能性がある。

他方、連邦税関局が導入していた、一定の条件を満たすロシアの輸送業者に対し、TIRカルネを利用し税関への担保の支払いを行わずに商品輸送を許可していたルールは、アスマップの訴えにより、2014年5月26日付連邦反独占局決定に基づき撤廃された。

現在、各国境通過ポイントにおいて事実上、異なるルールが適用されており、多くの輸送業者にとってトランジット費用の大幅増につながっている。

(注1)国際道路運送条約第6条に基づいて認定された団体が発給する税関手続き用および輸入税などの担保用の書類。ロシアでは同団体としてアスマップが認定されている。
(注2)アロノフ氏の発言当時(6月23日)の破棄予定日は2014年7月1日だったが、2014年6月30日付連邦税関局書簡第01−18/30264号で、連邦税関局とアスマップとの調整・交渉期限は2014年11月30日まで延長された。

(齋藤寛)

(ロシア)

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