連邦税関局、TIRカルネの適用を制限−3税関支署を除き、ロシア全土で実施−

(ロシア、欧州)

モスクワ事務所

2014年01月28日

連邦税関局は2013年9月14日から段階的に、国境を通過するトランジット貨物に対し、輸入税などの支払いを担保する保険が付保されている国際道路運送手帳(TIRカルネ)の適用を制限する措置を導入している。背景には、国際道路輸送協会の貨物の国際運送に関する通関条約(TIR条約)の手続き違反による関税支払いの債務不履行の状況を改善しようという目的がある。

<TIRカルネの運用変更で陸送貨物の輸送コスト増の恐れ>
連邦税関局は2013年9月14日以降、段階的に、ロシア国内の税関を通過するトランジット貨物(内陸で通関する貨物を含む)について、TIRカルネを輸入税などの担保と見なさないとする措置を導入している。2013年12月1日時点で同措置は、北西税関局管内3ヵ所の税関支署(ブィボルグ税関、カレリア税関、ムルマンスク税関)を除く、ロシア全土の税関で適用されている。

TIR条約とは、道路走行車両による貨物の国際運送を容易にするため、貨物の仕出し地税関の封印を施したコンテナ内の貨物について、経由地税関における輸入税または輸出税の納付または供託の免除、税関検査の免除などを定めた条約(1975年発効)。現時点では、欧州や旧ソ連諸国、北米を中心に68ヵ国が加盟しており、ロシアは旧ソ連時代の1982年から加盟している。ロシアとともに関税同盟を形成するベラルーシとカザフスタンも加盟国だ(ロシアと国境を接する中国は未加盟)。

TIRカルネは、TIR条約第6条に基づいて認定された団体が発給する税関手続き用および輸入税などの担保用の書類だ。ロシアでは、同団体として国際道路輸送協会(アスマップ)が認定されている(連邦税関局とアスマップ間で協定を締結、現在有効な協定は2004年6月に締結)。

従来、ロシア向けの貨物の中で、特に欧州諸国からトラックで陸送される場合に、このTIRカルネが利用されてきた。TIRカルネを利用することで、ロシア国境における輸入税などの納付または供託などが免除されていた。しかし、TIRカルネ適用制限措置の導入後は、ロシア国境を通過する時点で、関税同盟の関税基本法に基づく貨物のトランジット手続きを行う必要が出ている。その際には、ロシア法人でかつ輸送分野で2年以上の経験があるなど一定の条件を満たす税関輸送者(登録制)を除き、原則輸入税などの担保の提供が必要となる。現行の関税同盟の関税基本法で認められている担保の手段は、保証契約(同契約は連邦税関局と契約を締結している6社とのみ締結可)や銀行保証、現金などとなっている。

物流会社の関係者は「TIRカルネには、トラック輸送に関して、関税、付加価値税(VAT)額の支払いを保証する保険が付保されている。TIRカルネが使えなくなると、この保険も利用できなくなるため、内陸に運ぶ場合も国境でロシア国内法(関税同盟の関税基本法)に基づく保税転送手続きを行う必要が生じ、国内法に基づく保険料などの支払いが追加で発生しコストが増大する。また、国境における保税転送手続きの必要が生じることで、国境での待機時間は大幅に長くなる」と、運用変更に伴う影響について語った。

また、法律事務所DLAパイパーのマリーナ・リャキシェワ相談役は、適用制限措置導入前後のコスト比較について、「TIRカルネの費用は50〜100ドルだ。一方、輸入税などの担保として関税同盟の関税基本法に基づく保証契約の手段を活用する場合の費用は3万〜6万ルーブル(1ドル=約33ルーブル、900〜1,800ドル)になる」と、同措置の導入により大幅なコスト増につながると話している(「ベドモスチ」紙2013年8月1日)。

<連邦税関局とアスマップの言い分に食い違い>
連邦税関局は、同措置の導入は、国内の認定団体としてTIRカルネを利用する企業の輸入税などの支払いを保証すべきアスマップが、TIR条約の手続き違反によって、1996年以降、200億ルーブル(約600億円、1ルーブル=約3.0円)以上の支払債務(一部は債務不履行)を発生させていることを理由としている(2013年7月1日時点)。この金額は、貿易活動に従事する企業が抱える支払債務全体の41%に相当し、同局は、この傾向は年々悪化しており、2010年の債務は730万ルーブル、2011年は1,360万ルーブル、2012年は1,660万ルーブル、2013年(1〜5月)は1,010万ルーブルとしている。

一方、アスマップは、支払債務について特段問題はないとしており、両者の意見に相違が生じている。過去3年、税関はアスマップに対して105件(金額では9,230万ルーブル)の債務支払いを要求しているが、うち87件は支払い済み、10件は根拠不十分として裁判所が要求を棄却、8件(金額では1,150万ルーブル)が現在も審議中(支払期限は過ぎていない)としている。

連邦税関局のアンドレイ・ベリヤニノフ長官は、2013年10月23日に開催された税関展示会におけるインタビューの中で、「連邦税関局としてはTIR条約の利用を停止する、あるいはTIR条約から脱退することは望んでいない。ただ、アスマップの連邦税関局に対する債務不履行問題を解決したいだけだ」と話している。また、同長官は「現在、ロシアの運送業者をグループ化して、活動が優良な運送業者に対しては担保(保証)自体を不要とするステータスを付与することを検討している」と、新たなシステムの導入についても言及している(「ロシア新聞」10月24日)。

前述のような連邦税関局の対応に対し、2013年10月24日、アスマップは問題の解決に向け、連邦税関局に対しTIR条約の義務履行に関する新たな協定案を提示した。同協定案は、アスマップと連邦税関局との話し合いに基づき作成されたもの。連邦税関局はアスマップに対し、2013年8月28日付で現行のアスマップとの協定(2004年締結)を12月1日に破棄すると通知していた。

<問題解決は先送り>
同協定案の提示後も両者の間で解決の糸口が見えない中、2013年11月29日、政府内会合(11月27日)での話し合いの結果として、連邦税関局とアスマップの協定の破棄期限を2013年12月1日から2014年7月1日に延期することが決定され、問題の解決は先延ばしされた。

この決定以降も、連邦税関局によるTIRカルネの適用制限措置は継続されており、かつ、同措置の対象税関(3税関支署を除くロシア全土)にも変更はない。ただ、同措置の対象外の3税関支署では、問題の解決が先延ばしになったことにより、当面の間、通常どおりのTIRカルネの運用が継続されることになっている。

(宮川嵩浩)

(ロシア・欧州)

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