パート規制の緩和や若年失業対策で雇用純増目指す−政府が労働市場改革第2弾−

(スペイン)

マドリード事務所

2014年02月19日

2012年2月の「労働市場改革法」施行から2年。2013年第4四半期の失業率は26.0%と依然として高い水準だが、失業率悪化に歯止めがかかり、労働市場の調整は収束しつつある。しかし、2013年後半からの景気回復は雇用には反映されておらず、政府は労働市場改革の第2弾として、パートタイム労働規制緩和などで2014年半ばの雇用純増を目指す。また、EUの若年者雇用イニシアチブで最大の受益国として2014〜2015年の2年間に20億ユーロ規模の若年失業対策を予定している。

<雇用喪失の勢いは鈍化も回復には至らず>
国家統計局(INE)が1月23日に発表した労働統計(EPA)によると、2013年第4四半期の失業率は前年同期と同じ26.0%、失業者数は6万9,000人減の590万人となった。失業者数が前年同期比ベースで減少したのは2006年以来7年ぶり。

失業者数減少の要因は雇用回復ではなく、雇用喪失のペースダウンと労働人口の大幅な減少だ。就業者数は前年同期から20万人減の1,676万人と2002年並みの水準となった。雇用喪失は依然として続いているものの、2011年(60万人減)や2012年(85万人減)からは大幅に鈍化している。

労働人口は前年同期から27万人減の2,265万人となった。不況で中南米や中・東欧、北アフリカ系の外国人労働者が帰国する一方、スペイン人が職を求めて英国やドイツなど国外に流出する動きが2012年から生じており、2013年前半には12万人の流出超と加速している。これに加え、職探しを断念した人も相当数いる。

第4四半期の実質GDP成長率は0.3%と前期を0.2ポイント上回る回復ぶりだが、雇用統計は期待外れの結果となった。信用収縮と内需低迷が続く限り、実質5年間にわたり続いた景気後退期に失われた雇用はそう簡単には回復しそうにない。ただし、季節調整ベースでは就業者数は前期比0.29%増とほぼ6年ぶりに増加しており、変化の兆しはあるとみられている。

<パートタイム労働の規制緩和で失業率改善図る>
景気回復局面での雇用てこ入れのため、政府は2013年12月に労働市場改革第2弾となる「安定雇用・就業機会促進法」を閣議承認したほか、欧州委員会に提出した「若年雇用計画」の骨子を検討した(表参照)。最大の目玉は、「パートタイム雇用促進」だ。

スペインはパートタイム雇用の割合が他のEU諸国(平均20%前後)ほど大きくなく、これが高い失業率の一因と見なされてきた。2012年の改革(2012年5月1日記事参照)でパートタイマーの残業を可能としたこともあり、パートタイム労働者の比率は2011年の13.8%から2013年には16.3%まで拡大、この2年間にフルタイム労働者数が8.7%減少した一方、パートタイム労働者数は11.4%増加した。需要の回復見通しが不透明な中、経営者がパートタイム雇用で様子見する動きを反映したものだが、他方で制度が硬直的で急な需要増に素早く対応することができないとの批判も相次いでいた。

そこで、(1)残業時間の上限拡大、(2)残業の事前予告期間を短縮、(3)非正規パート雇用の失業保険における雇用主負担率を引き下げ、などの改正を行い、経営者がより柔軟に労働時間を配分できるようにした。

また安定雇用・就業機会促進の観点から、人材派遣会社を通じたインターン契約や見習訓練契約(いわゆるインターン派遣など)を可能としたほか、雇用期間6ヵ月以内の非正規雇用について試用期間に1ヵ月の上限を設けた。

さらに、42種類あった雇用契約書式を4種類(正規、非正規、インターン、見習訓練契約)に集約、オンライン上で雇用条件をクリックすると簡単に雇用契約書を作成できる「雇用契約書ジェネレーター」を導入し、経営者の雇用手続きを簡略化した。

労働市場改革第2弾(追加措置)

<加盟国中最大となる「若年雇用保障計画」>
先進国の中で群を抜いて高い若年失業率は、2013年第4四半期も55.1%と高止まりしたままだ。EUでは、2013年6月末に欧州理事会で合意した「若年者雇用イニシアチブ」(2013年7月1日記事参照)を中心とした若者雇用支援のため、2014〜2015年に60億ユーロの予算が集中投下される。若年失業者が89万人に上るスペインには3分の1の約20億ユーロが割り当てられ、最大の受益国となる。

スペイン政府が欧州委に提出した「若年雇用保障(ユース・ギャランティー)導入計画」は、(1)若年雇用の促進(社会保険料減免や助成)、(2)就業機会の向上(ドイツ式デュアルシステム、雇用に結び付く教育)、(3)起業促進(起業時の社会保険料減免、再チャレンジプログラム)、(4)就職あっせん(雇用・起業ワンストップポータル、就職あっせん会社との協力)からなる。若年雇用保障で重要な役割を果たすプラットホームとして、就職活動を行う若者の登録、ニーズ特定、訓練・あっせん履歴・事後追跡を一元的に管理する統合情報システムが2014年前半に立ち上げられる予定だ。

なお、同計画の実施開始は2014年後半が予定されているが、大型の投資が必要とされる2014〜2015年はEUから割当額の1%しか送金されず、残りの99%はスペイン政府が立て替えなければならない。財政再建と多額の投資の両立を不安視する政府は、資金の前倒しまたは若者雇用支援の支出を財政赤字の算定から除外するよう欧州委に求めている。

<賃金抑制が低成長での雇用増を後押し>
政府は2014年の経済成長率は最終的に1%近くに伸びると見込んでおり、年半ばには就業者数は前年比で純増に転じるとみている。「以前のスペインでは、雇用創出には少なくとも2%の経済成長が必要だったが、労働市場改革のおかげで1%の成長でも雇用の純増が可能となっている」(ルイス・デ・ギンドス・フラード経済・競争力相)というのだ。

低成長下での雇用純増を後押しするのは、前述のパートタイム労働規制緩和によるワークシェアリング推進、そして賃金抑制だ。なお賃金抑制は、OECDが2013年12月に発表した「スペイン労働市場改革(2012年)に関する予備評価書」でも述べられているように、労働協約の規制緩和や労働条件の弾力化により大きく進んだとされる。実際、2012年、2013年に締結された労働協約の平均賃金上昇率はそれぞれ1.21%、0.57%とインフレ率を大きく下回る抑制ぶりとなっている。雇用ポストと賃金が目減りする一方、質の高い雇用の創出には長い時間がかかる。現状のように低成長下で小さいパイを分け合うことは、スペインの高失業の元凶とされる労働市場の二重構造問題(既得権益で手厚く保護された正規労働者と同一労働でも賃金や福利厚生の水準が低い非正規労働者の間の格差)の悪化につながりかねず、たとえ短期的に失業率が改善しても力強い景気回復は望めない。とはいえ、今のところほかに現実的な即効薬がないことも事実だ。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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