欧州理事会、若者の失業対策と中小企業の資金手当を強化

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル事務所

2013年07月01日

若者の失業対策に焦点を当てた欧州理事会(EU首脳会議)が6月27日から28日にかけて開催された。EUにとって若年者の失業対策は喫緊の課題であり、2014〜15年の2年間に予算を集中投下し、若者の雇用対策に注力することを決めた。また、中小企業への資金供給策の強化、長期的な構造改革や成長戦略への地道な取り組みを確認するとともに、銀行同盟の実現に向けた現状と今後の作業についても確認した。さらに、クロアチアの7月からのEU加盟と、ラトビアの2014年1月からのユーロ導入を歓迎した。

<若者雇用対策の中期予算を80億ユーロに増額>
2013年上半期のEU議長国だったアイルランドにとって総括となる欧州理事会が、6月27〜28日に開催された。主な議題は、若者の失業対策、成長と競争力、雇用の強化、経済通貨同盟(EMU)の完成に向けた取り組み、の3点だった。

欧州理事会のファンロンパウ常任議長は会議後の記者会見冒頭で、2つの重要な決定を行ったことを強調した。1つは若者の雇用促進で、若者に対して、学校卒業後、あるいは失業してから4ヵ月以内に教育や訓練の機会、実習や研修生の機会が得られるような「若年者保障」を含む「若年者雇用イニシアチブ」を実施する(2012年12月21日記事参照)。EUの中期予算枠組み(2014〜2020年)における同イニシアチブへの予算割り当てを60億ユーロから80億ユーロに積み増し、同予算を最初の2年間、2014〜15年に集中して投下することを決めた。予算増額分は、未使用の基金などを優先的に雇用対策に回すことで賄う。若者の失業率が非常に高いレベルまで上昇していることから、同対策は特に緊急課題となっており、ファンロンパウ常任議長は、今回のEU首脳会議での主要議題になることを予告していた。

欧州理事会はこの若年者雇用イニシアチブを含む、若者雇用支援のためのあらゆる措置を動員する。欧州社会基金(ESF)から未使用予算を組み直すことを含め、若者雇用を支援する構造基金を導入する。加盟国は欧州委員会からの強化された技術支援を利用し、最も効率の良い手法を構築することで、自国の行政能力を向上させる。

また、若者の失業率が25%を超えるような地域で最初の予算執行ができるように、若年者雇用イニシアチブを2014年1月までにフル稼働させるために必要な準備を整えることで合意した。これにより、同イニシアチブの予算を受ける加盟国は、「若年者保障」を含む若年者失業対策に関する計画を2013年末までに採択することが義務付けられた。その他の加盟国についても、2014年中に類似の計画を採択することが奨励される。欧州委は若年者保障の導入状況と、若年者雇用イニシアチブの運用状況を2016年に報告する予定。

欧州理事会後の記者会見に臨むアイルランドのケニー首相、 ファンロンパウ常任議長、バローゾ委員長

<EIBを活用し中小企業支援を強化>
2つ目は数万社に及ぶ中小企業の支援で、幾つかの国で信用収縮に陥っている多くの中小企業を、EU予算と欧州投資銀行(EIB)からの資金の組み合わせで支援するとした。EIBは、イノベーションやスキル、中小企業の資金アクセス、資源の効率化や戦略的インフラのような重要分野を優先し、1,500億ユーロ以上の新規融資の準備を既に進めているとしている。

アイルランドがEU議長国だった期間のモットーだった「安定、成長、雇用」については、EU全体がこれらの課題にいかに同時に作業を行っているかを示す機会となった。ファンロンパウ常任議長は、長期的な改革に継続して焦点を当てること、国別勧告に関する議論が6月27日夜の議題の中心だったことを明らかにした。改革には時間が必要で、結果がすぐには出ないため、直接的な効果がある活動を始めることに専念しているとした。この意味で、若年者雇用対策と中小企業の資金アクセスの支援が27日夜の成果だとした。また、競争力や成長、雇用のボトルネックになっているものをどう克服するかについて議論したことも明らかにした。

欧州理事会は国別勧告を全体的に確認することで、2013年のヨーロピアンセメスター(加盟国間の経済・財政政策の協調サイクル)に合意した。加盟国は国別勧告の内容を今後の予算や構造改革、雇用・社会政策に取り込むことが求められる。理事会と欧州委員会は加盟国における勧告の導入状況を緊密に監視していくことになる。

<銀行同盟の実現へ取り組み進む>
3点目のEMUの完成に向けた取り組みについて、欧州理事会は長期的な工程表で既に合意している(2012年12月17日記事参照)。銀行同盟の実現に向けた取り組みは、着実に進んでいるという。

また、ファンロンパウ常任議長は欧州理事会前のEU経済・財務相(ECOFIN)理事会で、銀行破綻処理ルールの調和で合意したことを強調し、もう1つの重要なステップだとした。さらに、欧州委が近く、銀行の単一破綻処理メカニズム(SRM)に関する提案を行い、理事会で年内に合意し、現行の欧州議会の任期中に採択されることに期待感を示した。十分に効果的な単一監督メカニズム(SSM)には、SSMの対象銀行のためのSRMが必要となっている。

また、預金保護スキーム指令案を2013年末までに採択することを理事会と欧州議会に要請した。加えて、先のユーロ圏財務相会合で、欧州安定メカニズム(ESM)から問題のある銀行に直接資本注入するための概要について合意したことを挙げ、こちらも銀行同盟に向けたステップだとした。この結果、全てのユーロ圏銀行に対するSSMへの移行を2014年に開始する準備が進んでいるとした。真のEMUに向けた工程表については、広範な協議を踏まえた進捗状況をファンロンパウ議長から欧州理事会出席者に説明するとともに、さらに進めていくことで合意したとしている。今回の欧州理事会では、特にEMUにおける社会・雇用市場への配慮、建設的な社会的対話の必要性を強調した。

欧州理事会はさらに、ラトビアのユーロ導入申請について協議し、ラトビアが2014年1月からユーロを導入するという欧州委の提案を歓迎した。

<セルビアとのEU加盟交渉開始へ>
EU拡大に関して、理事会の2013年6月25日の結論と勧告を確認し、セルビアと加盟交渉を開始すると決定した。最初の政府間協議は最も早い場合で、2014年1月に開催される見込み。これに先駆け、交渉の枠組みがEU理事会で採択された後、欧州理事会で確認される予定。また、EUとコソボとの安定化連合協定(SSA)の交渉開始が決定された。

また、クロアチアの7月1日のEU加盟を歓迎し、多くの欧州理事会関係者がザグレブを訪問し、クロアチア市民と加盟の瞬間を分かち合う予定であることを明らかにした。

そのほか、6月に中欧を襲った洪水に対し、適切な財政措置を取るべきとし、欧州委に対し、被害を受けた加盟国からの要請に迅速、かつ建設的に対応し、最も被害を受けた地域および加盟国が確実に遅滞なく対処できるよう要請した。

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

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