内需主導型経済への転換に期待−2014年の経済見通し−

(EU)

ブリュッセル事務所

2014年01月08日

EU28ヵ国の実質GDP成長率は、欧州委員会、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)ともに1.4%と予測している。ここ数年の構造改革や財政再建の進展により、2014年に向けて内需が牽引する経済に転換していくための条件が整いつつあるとしている。民間投資も2014年に転換点を迎えると予測され、強い外需が新規投資を支え、収益を回復させると産業界は分析している。一方で、銀行の貸し出し条件が新規投資を阻害しているが、国によって差異があり、こうした加盟国間の不均衡の是正にはまだしばらく時間がかかりそうだ。

<実体経済への資金供給が課題>
欧州委が2013年11月5日に発表した秋季経済予測(2013年11月6日記事参照)では、EU28ヵ国の2014年の実質GDP成長率を、2013年5月の春季経済予測(2013年5月7日記事参照)から据え置き1.4%としたが、ユーロ圏については0.1ポイント下方修正し1.1%とした。

欧州委はEU経済について、2014年から2015年に向けて、ゆっくりとしたペースだが、より内需主導型の経済へと転換しながら、回復していくシナリオを描いている。金融市場の不確実性の高まりなど、欧州債務危機の負の遺産は重くのしかかり続けているものの、マクロ経済不均衡の是正の進展により、負の遺産は徐々に沈静化し、内需が経済を牽引していくと見込んでいる。ここ数年の間に導入された構造改革や財政再建が、EU域内の調整を下支えしており、内需主導型経済に転換していくための条件が整いつつあると分析している。

しかし、新興市場における弱い成長見通しとユーロ高により、半年前に期待していたほどの外需の回復が見込めず、外需は今後、数四半期で回復していくものの、経済回復は緩やかなペースになるとみられる。

一方、金融市場の状況はここ数ヵ月の間、全体的に良い兆候がみられる。しかし、企業への貸し出しは引き締められたままで、その改善はとても緩やかだ。融資条件は平均して緩和されているが、貸出金利は実質的に高く、また幾つかのユーロ導入国では融資へのアクセスがより困難な状況にある。こうした金融市場の状況は、銀行分野でのレバレッジ解消の継続や、銀行間の再融資において貸し出し引き締めを行う銀行があることに根差している。ただ、銀行間の貸し出し引き締めは2015年にかけて徐々に解消される見込みだと予測されている。

銀行のバランスシートの修復が、資金供給の正常化のための前提条件になっているが、バランスシートを圧縮しようとする銀行が貸し出し条件に制限をかけたままの状況だ。幾つかの加盟国では、進行中のバランスシートの調整が投資や消費に重くのしかかっている。金融市場の状況が大きく改善されている一方で、加盟国間や企業間で状況に差があり、実体経済に十分な資金供給ができていないと欧州委は分析している。

<産業界は投資と輸出で欧州委より楽観的な見通し>
他方、ビジネスヨーロッパは2013年11月13日に、欧州産業界によるEU27ヵ国(クロアチアを除く)の2014年の経済見通しを発表した。それによると、欧州委の秋季経済予測よりも投資と輸出について若干楽観的な数値を示したが、2014年の実質GDP成長率は欧州委と同じ1.4%と予測した。

個人消費については、ビジネスヨーロッパも欧州委と同様に0.9%の伸び率を予測しており、内需が2014年の経済成長に大きく貢献するようになると見通している。また、民間投資も2014年に転換点を迎えるとし、強い外需が新規投資を支え、収益性を回復させる主要な要因になると分析している。しかし、ユーロ圏の数ヵ国では銀行の貸し出し条件が新規投資を阻害しているとも分析している。ユーロ圏の周辺国にある欧州企業の多くはここ数年間、融資を受けるためのコスト高騰に直面しており、こうした企業にとって、投資再開のハードルがますます上がっているという。欧州中央銀行(ECB)も強調しているように、このようなユーロ導入国間の格差は、金融政策の伝播(でんぱ)が部分的に損なわれ、ECBによるリファイナンス金利の決定の影響が限定的になりがちなことを示している。

ビジネスヨーロッパのメンバー企業は、経済活動に改善がみられるとしている。しかし、経済成長が下方修正されるリスク要因として、リスクが高いものから、a.税率の引き上げ、b.銀行の貸し出し条件、c.金融市場の安定性、d.公共財政状況、e.EU域外の保護主義、などを挙げている。

また、雇用状況は現在も懸念材料のままであり、2014年のユーロ圏の失業率はほぼ変わらないと予想されている。しかしEUでは、2013年の11.2%から2014年には10.6%まで低下する、とビジネスヨーロッパは予測している。このように大きな回復が予想されるにもかかわらず、2014年にEUで見込まれる雇用創出数は50万人にすぎず、このうち半分はドイツ単独によるものだとしている。

<中小企業の資金繰りや長期投資を促す施策を提言>
ビジネスヨーロッパはさらに、景気回復のために考慮すべき政策として、以下の点を提言している。

(1)欧州の産業界は投資回復のための潜在力があるとみているが、これは欧州の長期的な成長見通しにおいて、信頼を強化する政策上の約束次第だ。

(2)EU加盟国は労働市場と製品市場の双方で構造改革を推進し続けるとともに、特に歳出削減に的を絞った財政再建を強化する成長を保証しなければならない。

(3)特に欧州の中小企業の資金アクセスを強化するために、良く機能する銀行同盟が必要。銀行の単一監督メカニズムにとって不可欠な先行条件として、ECBや欧州銀行監督庁(EBA)は銀行の資産の質を見直すストレステストを計画しているが、対等な競争環境(レベル・プレイング・フィールド)を保証するかたちで実施されなければならない。

(4)欧州投資銀行(EIB)による最近の資本金増額(100億ユーロ)とともに、長期投資のための融資がEUと加盟国レベルの双方で動員(mobilise)されるよう、さらに革新的な方法の検討が併せて必要だ。

(5)特に、デジタル市場や通信、エネルギー分野での単一市場の発展は、欧州の国際競争力を強化し、産業再編を支えるために不可欠となる。

主要経済指標

(田中晋)

(EU)

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