2013年の実質GDP成長率を下方修正、2年連続マイナス成長に−欧州委が春季経済予測を発表−

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル事務所

2013年05月07日

欧州委員会は5月3日、EUの2013年の実質GDP成長率をマイナス0.1%、2014年をプラス1.4%とする春季経済予測を発表した。2013年については、2月の冬季経済予測から0.2ポイント下方修正した。継続中の構造改革による域内消費や投資への影響のほか、特定国での困難な融資状況により、わずかにマイナス成長に後退すると予測。2014年には構造改革の効果と輸出を頼りに、プラス成長に転換すると期待している。

<財政再建が長引き、遠のく回復軌道への復帰>
欧州委が発表した春季経済予測(注)によると、2013年のEUの実質GDP成長率を、2013年2月の冬季経済予測(2013年2月25日記事参照)から0.2ポイント下方修正し、マイナス0.1%とした(表1参照)。これにより、ユーロ圏のみならず、EUでも2年連続でマイナス成長となる見通しが示された。2014年についても、前回予測から0.2ポイント下方修正し、1.4%とした。

また、2013年のユーロ圏の実質GDP成長率については、0.1ポイント下方修正し、マイナス0.4%とした。2014年については、前回予測から0.2ポイント下方修正の1.2%とした。

表1EU経済の見通し

EU経済は2012年のマイナス成長後、2013年の上半期にはゆっくりと安定に向かうと予測される。しかし、GDPの成長が目に見えるかたちで現れるのは2013年下半期になってからだとしており、2014年の回復もとても控えめなスピードになると予測している。複数の逆風が域内需要に重くのしかかる一方で、世界的な経済回復を背景に、域外需要が唯一の成長エンジンとなり続けると分析する。特に、政府および民間の両部門のバランスシートの調整に加えて、特定の加盟国での困難な融資条件や、根本からの調整過程のためにリソースを十分に利用できない状況などによる不透明感の払拭(ふっしょく)が、2014年までかけて緩やかに進むと見込んでいる。これらの結果、2013年のEUのGDP成長率はわずかにマイナスになるとしている。また、個人消費や投資に対する逆風は徐々に減退し、2014年は控えめだが、域内経済が持続可能な回復に転換していくことを期待し、EUで1.4%の成長を予測している。この予測は、継続的な構造改革や政策の実施が債務危機の再燃を防ぐという仮定に基づいている。

<経済見通しに対する不透明感は高いまま>
他方、金融市場の状況は、2012年下半期の大きな改善により、EU全体としても良好な状態になっている。しかし、ここ数ヵ月のマクロ経済指数は予想より弱く、信頼回復を妨げるものとなっており、市場の景況感はさほど上昇していない。金融市場の落ち着きが全ての加盟国で達成できているわけではなく、このために、実体経済の改善を導くに至っていないと分析している。

また、経済見通しに対する不透明感は高く、マクロ経済状況も脆弱(ぜいじゃく)なままで、下方修正されるリスクが至るところにあるとしている。特に、経済通貨同盟(EMU)の構造を強化する調整措置や政策の効果的な実施が、債務危機再燃を防ぐためにとても重要だと強調している。そのほか、今回の経済予測の前提条件に関連したGDP成長率の下方修正リスク要因として、特に必要な構造改革努力の減速、輸出を阻害するユーロ為替レートのさらなる上昇の可能性、財政再建措置に関する(今回の予測の前提としている)政策の変更、を挙げている。

欧州委のオッリ・レーン副委員長(経済・通貨問題担当)は、「長引くリセッションを考慮して、欧州での失業危機を乗り越えるための措置は何でもしなければならない。EUのポリシーミックスは持続可能な成長と雇用創出に焦点を当てている。財政再建は継続するが、そのペースを減速する。同時に、欧州での成長の錠を開けるための構造改革を強化しなければならない」と述べている。

<ユーロ圏主要国ではドイツのみがプラス成長を維持>
全ての加盟国が経済・金融危機の影響を免れなかった一方で、GDP成長率と労働市場の状況は加盟国間の差異が大きいままだ。2013年のGDP成長率予測を国別にみると、ユーロ圏の経済大国ドイツは0.1ポイント下方修正されたが、プラス成長(0.4%)を維持する見通しとなっている(表2参照)。強固な労働市場とよりダイナミックな賃金上昇に支えられた国内需要の改善を背景に、経済が徐々に回復していくと予測されている。

表2各国の実質GDP成長率見通し

ドイツと同様に2月の冬季経済予測ではプラス成長を維持していたフランスは0.2ポイント下方修正され、マイナス成長(マイナス0.1%)に転じた。民間消費は安定しているが、純輸出が控えめなままで、投資が減少し続ける2013年は経済の停滞が予測されている。

ユーロ圏3位の経済大国イタリアは、冬季経済予測から0.3ポイント下方修正され、マイナス成長の幅がさらに広がった(マイナス1.3%)。可処分所得の減少と低い信頼感、困難な融資状況が消費や投資に重くのしかかり続けているため、経済活動が減退している。

スペインも冬季経済予測から0.1ポイント下方修正され、さらなる経済の悪化が見込まれている(マイナス1.5%)。債務危機前の不均衡是正が国内需要に重くのしかかったままで、経常収支の改善により部分的には相殺されるが、2013年もGDPの一層の停滞が予測されている。

オランダでも、冬季経済予測から0.2ポイントの下方修正となった(マイナス0.8%)。低い可処分所得と住宅市場の調整により、消費が抑制されたままなので、近い将来、GDP成長率のさらなる落ち込みが予測されている。

非ユーロ圏では、0.3ポイント下方修正された英国(0.6%)が、国内需要の緩やかな回復を背景に、控えめなプラス成長が予想されている。また、0.1ポイント下方修正されたポーランド(1.1%)では、個人消費が緩やかなままで、輸出の伸びが減速、投資もやや減退することから、GDP成長率の減速が見込まれている。

<GDP減速の雇用への影響はこれから>
雇用をみると、失業率は過去2年間で悪化し、2012年初めにはEUで11%、ユーロ圏で12%に達した。しかも、加盟国間の格差が広がり続けている。また、GDP減速による雇用への影響は通常遅れがちであるため、最近の経済指標は近い将来の労働市場のさらなる悪化を示唆しているという。2008〜2010年の例では、GDPの減速が雇用に明確に現れるのには数四半期を要したとしている。長期的失業者の増加と労働市場のミスマッチの拡大は中期的な雇用見通しを悪化させている。2013年の雇用はさらなる悪化が見込まれており、EUで11.1%、ユーロ圏で12.2%の失業率が予想されている。2014年には雇用が少しだけ回復し、失業率はEUでは11.1%のままだが、ユーロ圏で12.1%と見込まれている(表3参照)。

表3各国の失業率予測

<消費者物価上昇率は2%以下に低下>
消費者物価上昇率の漸進的な低下がここ数ヵ月の間、加速している。消費者物価上昇率は主にエネルギー価格や食品価格の緩やかな上昇を背景に、2013年の第1四半期にEUで2.0%、ユーロ圏で1.9%に低下すると予測している。未加工食品やエネルギーを除くコア・インフレ率は間接税や行政費用の過去の上昇、エネルギー価格高騰の転嫁などのインパクトが消えつつあるにもかかわらず、2012年9月以降ほとんど安定していない。結果として、2013年の消費者物価上昇率はEUとユーロ圏それぞれで1.8%、1.6%となり、2014年にはそれぞれ1.7%、1.5%に低下すると予測している(表4参照)。

表4各国の消費者物価上昇率予測

<構造的な財政赤字は徐々に縮小>
2013年の財政赤字は、EUとユーロ圏それぞれでGDP比3.4%、2.9%と予測され、前回の予測値と比べ、EUは変わらなかったが、ユーロ圏は0.1ポイント上方修正された。財政再建は今回の経済予測期間である2014年も継続される見込みで、加盟各国は大規模な財政措置を実施している。構造的という意味での財政再建のペースは2012年と比べて、減速していくと予測されている。構造的な財政赤字はEUで2012年の2.8%から2013年には2.0%に、ユーロ圏で2012年の2.1%から2013年には1.4%に縮小するためだ。これまでの政策に変更がないという前提で、財政再建のペースは2014年にはさらに減速するとみられる。財政再建のための努力は2014年にかけて、歳入ベースの強化から、歳出削減にある程度シフトしていくものと見込まれている。2014年にはEU、ユーロ圏でそれぞれ3.2%、2.8%となり、やや改善が進むと見込まれているが、前回予測と比べ、ともに0.1ポイント上方修正された。

EUの公的債務残高は引き続き上昇傾向にあり、2013年にはGDP比89.8%、2014年には90.6%と90%を超えると見込まれる。前回の予測から2013年は0.1ポイント下方修正されたが、2014年は0.3ポイント上方修正され、さらなる悪化が予測されている。ユーロ圏でも、2013年で95.5%、2014年で96.0%に達すると予想され、こちらはそれぞれ0.4ポイント、0.8ポイント上方修正された。財政再建に向けた構造改革の成果が出るまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。

(注)欧州委は現在、春季(5月)、秋季(11月)、冬季(2月)の年3回、経済予測値を発表している。

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

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