2014年のEUのGDP成長率は1.4%に据え置き、ユーロ圏は下方修正−欧州委が秋季経済予測を発表−

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル事務所

2013年11月06日

欧州委員会は11月5日、EUの2014年の実質GDP成長率を1.4%、2015年を1.9%とする秋季経済予測を発表した。また2013年については、2013年5月の春季経済予測から0.1ポイント上方修正したため、2年連続のマイナス成長を免れる見通しとなった。継続中の構造改革の進展により、国内主導型の経済成長に徐々に転換していくシナリオを描いているが、新興国の経済成長が鈍いこともあり、経済回復のペースは緩やかなものになると予測している。

<ようやくみえ始めた経済回復の兆し>
欧州委が11月5日に発表した秋季経済予測(注)によると、2014年のEUの実質GDP成長率は、2013年5月の春季経済予測(2013年5月7日記事参照)を据え置き、1.4%とした(表1参照)。

また、2013年のGDP成長率を春季経済予測のマイナス0.1%から0.0%に上方修正しており、EUについては2年連続のマイナス成長を免れる見通しを示した。なお、2013年下半期のGDP成長率を前年同期比で0.5%と予測しており、これを年間換算して0.0%に修正したとしている。

さらに、2015年については1.9%とする予測値を今回初めて発表し、欧州経済が回復軌道に向かうとみている。

他方、2014年のユーロ圏のGDP成長率については、0.1ポイント下方修正し、1.1%とした。2015年については1.7%とし、ユーロ圏経済もEU経済同様に徐々に回復していくシナリオを示した(表2参照)。

表1EU経済の見通し
表2各国の実質GDP成長率見通し

<国内需要主導型経済への状況が整う>
欧州委はEU経済について、2013年の残りの期間は経済活動の拡大も低調なままで、ゆっくりとしたペースで回復に向かうが、2014年から2015年に向けて徐々に、より国内需要主導で、より力強い成長に転換していくと予測している。金融市場の不確実性の高まりなど、欧州債務危機の負の遺産は重くのしかかり続けている。しかし、そうした影響は、マクロ経済不均衡の是正の進展により徐々に沈静化し、国内需要が主要な成長エンジンになっていくと見込んでいる。外需は今後、数四半期で回復していくことが予想されるが、新興市場における弱い成長見通しとユーロ高により、半年前に期待していたほどにはならないとしている。

なお、EU域内外での調整が継続中で、ここ数年に導入された重要な構造改革や財政再建が、こうした調整を補強しているとしている。これにより、EUにおける主要な成長エンジンが国内需要に徐々に転換していくための状況(コンディション)が整いつつある、と分析している。しかし、新興市場経済の成長が鈍いこともあり、経済回復は緩やかなペースになると解説している。

欧州委のオッリ・レーン副委員長(経済・通貨問題担当)は「欧州経済が転換点に達した兆候がみえ始めた。欧州で取り組んだ財政再建と構造改革が回復の基礎をつくった。しかし、勝利宣言をするにはまだ早過ぎる。失業率は受け入れ難いほど高いままだ。だからこそ、欧州経済を近代化するための作業を継続しなければならない」と強調している。

<加盟国・企業間で差がある資金供給・調達状況>
他方、金融市場の状況は、ここ数ヵ月の間、全体的に良い兆候がみられる。しかし、企業に対する貸し出しは引き締められたままで、調査データが示唆する改善はとても緩やかなものになっている。融資条件は平均して緩和されているが、実質的に高い貸出金利と、幾つかのユーロ圏諸国では融資へのアクセスがより困難であることとの対照が際立っている。こうした金融市場の状況は、銀行分野でのレバレッジ解消の継続や、銀行間の再融資において貸し出しを引き締めている銀行があることに根差しており、銀行間の貸し出し引き締めは2015年にかけて徐々に解消されると見込んでいる。

銀行のバランスシートの修復が、資金供給の正常化のための前提条件となっているが、バランスシートを圧縮しようとする銀行が貸し出し条件に制限をかけたままの状況になっている。幾つかの加盟国では、進行中のバランスシートの調整が投資や消費に重くのしかかっているとしている。金融市場の状況が大きく改善されている一方で、加盟国間や企業間で状況に差があり、実質経済に十分な資金供給ができていないと分析する。

実際、2014年のGDP成長率予測を国別にみると、多くの加盟国で春季経済予測から下方修正されている一方で、上方修正されている国もあり、まちまちな状況だ。

例えば、2014年からユーロを導入するラトビアや、リトアニアのような開放経済の小国は高い経済成長率が見込まれている。また、ユーロ圏内でもドイツやオーストリアは今後数ヵ月の力強い経済見通しの下で、一時的な停滞から浮上しようとしている。フィンランドやオランダは景気の二番底を経験し、マイナス成長と見込まれている。

さらに、財政危機により金融支援を受けた国々の中でも差がある。アイルランドはEU平均を上回る成長が見込まれている一方、ポルトガルは2013年第2四半期にリセッションを脱したところで、スペインやイタリアは2013年下半期にリセッションから脱することが見込まれている。

<失業率の改善は2015年以降に>
雇用市場をみると、失業率は過去半年間、高止まりを継続しているが、製造業やサービス業では雇用に対する期待感が上向き始めている。

しかし、労働市場の早期転換は期待できないとしている。むしろ、雇用はGDP成長の回復にやや遅れて続くもので、新規スタッフを雇用する前に労働時間の延長などが行われると分析する。

その結果、EUとユーロ圏で2014年に雇用拡大が見込まれるが、高い失業率を引き下げるには十分ではなく、EUで失業率は11.0%、ユーロ圏で12.2%と予測している。2015年にようやく雇用が増え始め、失業率もわずかに低下し、EUで10.7%、ユーロ圏で11.8%になるとみている(表3参照)。

表3各国の失業率予測

<消費者物価上昇率は1%台で安定>
2013年の消費者物価上昇率は、エネルギー価格の低下が主因で低下し続け、第3四半期はEUで1.5%、ユーロ圏で1.3%となった。

エネルギーと未加工食品を除くコア・インフレ率も、弱い国内需要を反映して下がり続けており、2014年も安定したものになると見込んでいる。

過去に引き上げた税金や行政費用の物価への影響は、今後数四半期の間に消えてなくなると予測している。

原油価格が緩やかに上昇し、為替レートに変化がないという想定の下で、消費者物価上昇率は2015年まで現行の低いレベルを維持するとみている。その結果として、2014年の消費者物価上昇率はEUとユーロ圏それぞれで1.6%、1.5%となり、2015年はそれぞれ1.6%、1.4%になると予測している(表4参照)。

表4各国の消費者物価上昇率予測

<財政赤字は2014年にようやく減少へ>
2014年の財政赤字は、EUとユーロ圏それぞれでGDP比2.7%、2.5%と予測し、2011年と2012年の財政再建に続いて行われた財政調整により、財政赤字がようやく減り始めると分析する。2013年5月の予測値と比べ、EUとユーロ圏でそれぞれ0.5ポイントと0.3ポイント、財政赤字が減る予測となった。

2015年には、一時的な税の引き上げの失効や、計画されている税の削減、歳出の循環的な削減などが組み合わさり、公共財政が改善に向かうと見込んでいる。

公的債務残高は財政赤字が低下していくという展望の中で、2014年がピークになるとしており、EUでGDP比90.2%、ユーロ圏で95.9%と予測している。2015年にはこれがEUで90.0%、ユーロ圏で95.4%に低下するとしている。

(注)欧州委は現在、春季(5月)、秋季(11月)、冬季(2月)の年3回、経済予測値を発表している。

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

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