失業率高く、待ったなしの雇用改革−欧州最新ビジネス動向セミナー(2)−
欧州ロシアCIS課
2013年12月20日
「欧州最新ビジネス動向セミナー」の2回目は、ジェトロ・パリ事務所の豊國浩治所長の報告。フランスでは失業など雇用問題に対する構造改革が必須となる中、在仏日系企業の分野の多様化や第三国での日仏連携の動きが進んでいる。
<財政赤字の改善は進む>
フランス経済は、欧州債務危機で落ち込んだ後も低成長が続き、マイナス成長から抜け出せていなかった。しかし、最近は底入れの兆しがみられる。2013年の実質GDP成長率は0.1%と予測されており、微増ではあるがマイナスからプラスに好転した。要因は2つある。1点目は、金融面の問題が落ち着いたことだ。その結果として、政府の政策の重点も超緊縮から成長に重点を移している。2点目は大手グローバル企業が人員整理を行った効果がみられつつある。ただ、失業率が依然高いことが問題となっている。10%超えの水準が続いており、改善傾向はまだみられない。オランド大統領の支持率低迷にもつながっている。また、個人消費の回復ペースも弱い。
財政動向について、オランド政権は財政赤字改善に注力している。最悪期は2009〜2010年で財政赤字のGDP比が7%を超える水準だった。2014年に3.0%を切るとの目標は達成できないとみられるが、最悪期に比べると大幅に改善している。
貿易状況については、隣国ドイツと比べると、輸出が伸びないのが悩みの種。フランスの製造業の競争力低下が原因とみられる。これは、自動車産業の変遷が象徴している。2000年代前半には300万台を生産し、貿易黒字に寄与した部門で、大手ルノーやPSAプジョー・シトロエンが稼ぎ頭となりフランス経済を支えていた。しかし、2000年代後半から生産台数が大きく落ち込んで赤字部門となり、経済の足を引っ張っている。これは生産拠点が東欧中心に国外へ移転する動きが加速しているためで、フランス国内での生産は今や非常に少なくなっている。フランスの新車登録台数の9割は輸入車といわれる。
自動車産業では、人員整理の動きが続いている。PSAプジョー・シトロエンはパリ郊外北部のオルネー工場を2014年に閉鎖すると発表し、交渉を進めているが、難航している。フランスは労働規制が厳しく、人員整理を行うのが難しい。そのため、効率が悪くなった工場を閉めて効率性・生産性を上げるという対応が迅速にできない。これが経済活性化を滞らせている原因ではないか。他方、ルノーは人員整理や賃金凍結などを行ったが、その代わり国内生産を現在の53万台から71万台に引き上げるとしており、いい話も聞かれる。ルノーは「マーチ」(欧州名「マイクラ」)の生産拠点をインドからフランス国内に戻すようだ。
日本との貿易関係をみると、フランスにとっての貿易赤字幅が年々縮小傾向にある。これは、日本の対仏輸出は自動車が主要品目として挙げられるが、この現地生産化が進んでいること、また、フランスは医薬品産業が強く、その対日輸出が伸びていることなどが背景にある。
<雇用面での構造改革が急務>
オランド大統領は2012年5月に就任し、現在2年目を迎えている。就任前の選挙公約では財政規律一辺倒ではなく、成長重視の政策を推進するとしていた。また、社会党出身ということもあり、労働者保護も掲げていた。しかし就任当初、経済情勢は芳しくなく、財政も厳しかったため、超緊縮政策を打ち出さざるを得ない状況にあった。現在は、欧州全体で南欧諸国の国債利回りが安定するなど金融面での落ち着きがみられるため、過度の緊縮をやめ、成長・雇用促進に重点を移す政策に本格的に取り組むことができるようになった。
具体的には、2013年5月の就任2年目の施政方針演説の中で、欧州レベルで政策協調の強化を進めること、国内の構造改革を促進すること、を2本の柱とした。失業率の問題もあり、現政権の喫緊の課題は国内構造改革の推進で、経済面でいうと労働市場の柔軟化と雇用の確保が焦点だ。2013年6月に公布した雇用の安定化に関する法律(2013年7月8日記事参照)の効果が期待されるが、まだ不十分と思われる部分もある。もう1つ、中小企業のイノベーション支援にも力を入れている。フランスの企業は、ドイツの中小企業に比べ力が弱い面がある。エアバスなど大企業の力は強いが、それらを支える中小企業が少ない。その育成を図るための公的投資銀行(2012年10月29日記事参照)の創設などに取り組んでいる。
<進出日系企業が多様化、第三国での日仏連携も>
日系企業の現地での動きとしては、従来の自動車のほかに、食品やIT、また新たなビジネスモデルを展開する企業の例もみられる。自動車分野では2013年、トヨタがバランシエンヌ工場で生産しているハイブリッド車「ヤリス」がフランス原産保証(Origine France Garantie)ラベルを取得し、北米向けの輸出を開始した。また、製造業の中には、研究開発(R&D)拠点をフランスに設置する企業も増えている。食品分野では、サントリーによる清涼飲料オランジーナ・シュウェップス・グループ買収や、ニチレイの低音物流事業会社買収およびリヨンにおける物流センター稼働などがある。また新たなビジネスモデルとして、ファーストリテイリングによる女性向け衣料ブランド「コントワー・デ・コトニエ」を展開するクリエーション・ネルソンの経営権取得やパリでの店舗展開、楽天の電子商取引サイト運営プライスミニスターおよび物流アルファ・ダイレクト・サービスの買収による電子商取引ビジネスの強化、などがある。
また、フランス企業の日本での動きとしては、自動車部品フォルシアが豊和繊維工業と協力して自動車用インテリア・システム開発のR&D施設を神奈川県に設立すると発表。医薬品大手サノフィ・グループはアジア地域統括拠点を東京都に設置した。対日輸出としては、鉄道分野で日本側がフランスから調達する例がみられる。例えば、JR東日本は常磐線の無線列車制御システム導入に際し、フランスのアルストムとタレスを候補として選定したと発表。今後、どちらか1社に絞り込むとしている。また、日本航空がエアバスに機体を31機発注すると発表などといった動きもみられ、欧州企業にとっては急速にビジネスが広がっている。
最近の潮流として見受けられるのが、日仏企業が協力して第三国市場を開拓するという例だ。例えば、豊田通商は商社セーファーオー(CFAO)を子会社化し、CFAOが強みを持つアフリカ市場の販路拡大を目指すという。歴史的背景などから、フランス企業は元来アフリカ市場とのつながりが深く、そういった企業と協力関係を構築し、第三国の市場を開拓するのは有効とみられる。
フランス市場は既に飽和状態であるため今後の需要拡大はあまり期待できず、また既存の地場企業に支配されているというイメージが強い。また、賃金水準の高さや労務問題などもあり、ハードルの高さを感じる企業は多いかもしれない。しかし、地理的にもフランスから欧州全体への市場開拓の可能性は広がっており、アフリカ進出の足掛かりともなり得る。また、電子商取引やコンテンツ産業、外食産業など比較的新しい産業分野での需要発掘の動きもあり、日本の高品質・低価格の製品やサービスは受け入れられる余地がある。ジェトロとしても、フランス側のカウンターパートである輸出振興機関(ユビフランス)および対仏投資庁(AFII)と覚書(MOU)を締結し、両機関の連携を強化することで合意している。
(水野嘉那子)
(フランス)
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