「雇用の安定化に関する法律」を公布、労働市場の柔軟化図る
パリ事務所
2013年07月08日
労働市場の柔軟性と雇用の安定化を図る「雇用の安定化に関する法律」が6月16日に公布された。労使間対話型の企業経営を目指し、従業員の取締役会参画を義務付けるとともに、集団解雇の手続きの簡素化、復職権を伴う転職制度の創設などを盛り込んだフランス版フレキシキュリティー。政府は同法の施行により雇用の改善を期待している。
<労使話し合い型の企業経営を目指す>
雇用の安定化に関する法律は、2013年1月11日の雇用の安定化と企業の競争力強化に向けた労使間の合意(2013年1月24日記事参照)に基づいて法制化された。5月14日に元老院(上院)で可決(賛成170対反対33)されたが、野党の国民運動連合(UMP)がその合憲性について憲法評議会に付託していた。憲法評議会は6月13日、ほぼ全ての条項を合憲と判断し、同法は6月16日付の官報で公表された。
同法は、(1)経営参加のための従業員の権利の強化、(2)経済状況に即した雇用、職業能力を確保するための労使の事前交渉の強化、(3)企業の景気調整力の強化、(4)解雇の手続きの簡素化、(5)労働者の雇用安定のための権利強化、を柱としている。
これまでは、企業の経営悪化による工場の閉鎖や合理化計画の際、労使が対立して交渉が進まず、その間にさらに経営が悪化するという悪循環に陥ることが多かった。同法はそれを改善するため、企業の経営状況、方針、戦略などの情報を従業員に与え、さらに3年間に1回は労働時間、職業能力、合理化に対処するための配置転換の地理的条件などを労使間で協議することにより、企業が雇用・労働問題に迅速に対処できるようにした。
<集団解雇の手続きを迅速化>
同時に、企業の経営が悪化した場合の手続きも簡素化した。事前の労使の合意による条件に基づく配置転換を従業員が拒否した場合、当該従業員は経済的理由による個別解雇の対象となる。従業員50人以上の企業が集団解雇する場合、企業は雇用救済策を作成し、企業委員会に諮問しなければならない。これまで企業委員会の回答が得られず交渉が長引くことが多かったが、期限内に回答がない場合の手続きを迅速化し、また、企業委員会の合意がない場合でも行政監督局の認可があれば、解雇が可能となる。
他方、労働者の権利も強化する。従業員が300人以上の企業に対し、復職権付き転職制度を導入する。同制度は、勤続2年以上の従業員が雇用主との合意の下、期限を設けて他の企業で就労できるもの。転職しても期限内であれば以前の企業に復職できる。復職する場合は以前と同等の給与と職位を保証することで、転職しやすくし、労働市場を活性化する。
同法は、官報掲載の翌6月17日からの発効となったが、適用時期が別途規定されている条項もある(表参照)。
ミシェル・サパン労働・雇用・職業教育・労使対話相は「雇用の安定化に関する法律は労使関係の歴史に残る法律で、労働者の権利を強化しつつ、フランスの競争力、雇用の強化に貢献するものだ」と述べた。
(奥山直子)
(フランス)
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