連立政権発足で新局面を迎える日独企業連携−欧州最新ビジネス動向セミナー(3)−
デュッセルドルフ事務所・欧州ロシアCIS課
2013年12月24日
シリーズの3回目は、ジェトロの植田大デュッセルドルフ事務所長の報告。2013年のドイツ経済は緩やかなプラス成長が見込まれるが、ドイツでは貧富の格差や地域間の失業率の格差が問題となっている。また、11月27日に合意した連立政権による今後の再生可能エネルギー(RE)政策の見直しは、ドイツ企業と連携を深める日系企業にも大きな影響を与えそうだ、と指摘した。
<2013年の実質GDPはプラス成長、輸出は微増>
植田所長は「ドイツの経済産業動向と企業の動き」と題する講演の冒頭で、ドイツがEUの中で最大の工業国かつ日本にとっても欧州域内で最大の貿易相手国であること、1,500社以上の日系企業が進出していることを強調した。
また、11月27日にキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が連立政権樹立で合意したことを踏まえ、新政権の発足や連立協定の内容が経済・産業界にも影響を与えるだろうと示唆。最近、欧州委員会は経常収支の黒字化が顕著なドイツを批判している、など最新トピックスを紹介した。
ドイツ政府の秋季経済予測によると、2013年の実質GDP成長率は0.5%、ドイツ経済を牽引する輸出は前年比0.3%増にとどまる見込みだ。2012年第2四半期以来、総固定資本形成は落ち込んでいたが、2013年第2四半期に入りプラス成長となった。
貿易に関しては、世界銀行によると、ドイツの2011年の輸出のGDPに占める割合は50%と他の国・地域よりも比較的高い。2013年上半期に、EU諸国(ユーロ圏)向け輸出は前年同期比2.9%減となった一方、米国やトルコ向け輸出は増加。他方、中国向けは5.9%減となり、ドイツの大手化学メーカーも中国経済の動向を心配しているという。また、2013年上半期の主要輸出品目動向では、医薬品と測定検査機器がプラス成長となった半面、自動車など他の品目ではマイナス成長だった。
2013年1〜10月の自動車輸出は、前年同期比0.3%増と微増だった。ダイムラーやBMW、アウディなどの高級車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)といった上位は好調だが、大衆車メーカーは厳しい状況が続いている。また、ドイツ国内の韓国車の登録台数が拡大しつつあり、2012年は前年比20%増に及んだ。
化学・製薬の輸出・生産は増減を繰り返しており、2013年第3四半期に入り、伸び率が鈍化した。大手化学メーカーによると、欧州債務危機の影響は小さくなってきたが、危機以前の成長水準までには到達していないという。
ドイツ機械工業連盟(VDMA)によると、2013年1〜8月の機械受注は国外からの注文が伸びつつあり、ユーロ圏以外からの伸びが5%増(前年同期比)、ユーロ圏は1%増だった。電気・電子の売上高は減少していたが、2013年9月の受注はプラス成長となり、2013年後半には明るい兆しがみられる。
<失業率は低水準も、広がる貧富格差や地域間格差>
ドイツ経済は、ユーロスタットによる主要欧州諸国のGDP推移比較においても比較的良好だった。この要因には、2000年代のシュレーダー政権の構造改革による労働コスト上昇の抑制や労働の流動性の高まり、貿易面でのユーロによる恩恵、ドイツ経済を支える中小企業の活気などが挙げられる。失業率は、欧州諸国の中でもとりわけ低く、25歳以下でも10%を下回る低い水準を維持している。ドイツ企業が従業員を大切にする背景には、ドイツの品質や技術はヒトによるものが大きく、多少、景気が悪化しても容易に解雇しないといったことがある。また、若年層の就業を支援するデュアルシステムを導入するなどの取り組みも盛んだ。
一方で、派遣労働の拡大や月収450ユーロ以下の労働者は所得税や社会保険料を支払わなくてよいとするミニジョブ制度導入などもあり、貧富の格差は急速に拡大。SPDによる8.5ユーロの最低賃金導入の要求に、反対してきたメルケル首相は、11月27日の連立合意で最終的には要求を受け入れた。最低賃金は2015年1月1日から導入され、2016年12月31日までは労使間の協定に任せるという猶予期間が設けられるが、この期間に労使間で協議し、8.5ユーロに近づけるよう調整することが求められている。
州ごとの失業率をみると、地域間格差が大きい。大企業の本社が立地する西部や南部で1桁台の州が多いが、東部では10%を超える州もあり、最低賃金を引き上げるとさらに上昇するのではないかという声もある。また、各州の失業率は、投資先を選ぶ際の雇用面における重要な基準の1つになるため、今後の動きに注目が集まる。
<技術協力や地域間交流などで連携を図る日独企業>
近年、日系企業によるドイツ企業のM&Aは増加傾向にある。最大案件としては2013年9月に、水栓金具事業拡大を目的にLIXILグループが4,000億円でグローエを買収。現地では歓迎され、アジア市場を狙う。一方、中国企業によるドイツ企業のM&Aも概して好意的に受け入れられているようだ。ドイツ企業の買収後も、経営と雇用をそのままにし、ドイツ企業側に広大な中国市場での販売を認めるなどの条件を示しているのがその理由だ。
日本とドイツの企業はよくライバルとして捉えられるが、協力関係も築いている。例えば、大企業間ではトヨタとBMWがハイブリッドと高性能のディーゼルの技術交流、次世代のリチウムイオン電池と燃料電池車の共同開発などを行っている。また、TOTOは、ドイツで高級トイレシステムを手掛けるビレロイ&ボッホと、温水洗浄便座の技術提携を開始した。
世界市場に向けた日本とドイツ間の企業連携として、工作機械のギルデマイスターとDMG森精機は、生産、販売、サービスの拠点の共有化を図り、共通ロゴを用いて展示会に共同出展するなど蜜月関係を築いている。ブレーキ大手のクノール・ブレムセは、日立が英国で受注した高速鉄道向けのブレーキを納入する。医療機器向けなどのキャスターを製造する中堅のテンテは、雑菌が付かないことやきちんとブレーキがかかるなどの高品質製品を手掛け、ベッドメーカーのパラマウントベッドに採用され、インドネシアに進出した。同様に日本の中小企業がドイツの大手企業とのビジネスを通じて、第三国市場に進出できる可能性もあるという。
日独の地域間の経済交流も活発化しており、金属加工メーカーが多数立地するさいたま市は、バイエルン州のメカトロニクス(機械・電子技術)や医療機器の産業界と3年前から交流を図り、ミッション派遣やセミナー、商談会を実施している。また、オリンパスなどの医療機器産業が集積する福島県は、知事が2012年にドイツを訪問し、ノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州との交流を深めている。NRW州では2013年11月20〜23日、欧州最大の医療機器展示会である「メディカ」が開催された。メディカのジャパンパビリオンに福島県の企業も出展し、商談に参加した。また同州の地元企業は2014年2月に経済相に率いられ、福島県を訪問する予定だ。
<RE政策の見直しは日系企業にも影響か>
最後に、ドイツ国内で普及が進むREに関して、コスト面などで問題が起きている。ドイツ国内の総電力に占めるREの割合は約25%といわれ、風力、バイオマス、太陽光、水力の順に多い。固定価格買い取り制度(FIT)が導入されて以来、REに対する投資が過熱し、発電量とそれに伴う買い取り額が増加。買い取り額は電力料金に上乗せされ、ユーザーに転嫁される。家庭用、産業用ともに電力価格は上昇傾向にあり、特に製造業はコスト上昇に苦しんでいる。
そのほか、ドイツ北部で風力により発電される電力を、産業の中心である西部と南部に送電する必要があるが、地元住民の反対で送電網の拡充が進んでいない。さらに、REは気候によって発電量に波があり、供給が安定しないという問題もある。電力供給の安定化には従来型の発電施設も重要となるが、REの台頭による稼働率の低下や電力の市場価格下落により、通常の火力発電の採算が取れなくなり、運転を停止したり、従業員を解雇したりするケースもある。
11月27日に合意された新政権の連立協定では、2014年春までに風力発電の固定買い取り価格の引き下げや、上乗せ分を免除されている大口需要家(企業)に対する適用基準の厳格化、電力安定化のための蓄電、南北を結ぶ送電網の構築など、エネルギー政策の大幅な見直し案を作成し、2014年夏までに実施する予定だ。植田所長は、REに関する動きは、今後ドイツでビジネスを展開する日系企業にも大きな影響を与えるだろうと結論付けた。
(福井崇泰、小菅宏幸)
(ドイツ)
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