サービス産業に景気回復の兆し−欧州最新ビジネス動向セミナー(1)−

(英国)

ロンドン事務所・欧州ロシアCIS課

2013年12月19日

ジェトロは11月28日、東京で「欧州最新ビジネス動向セミナー」を開催した。セミナーには150人余りが参加し、ジェトロのロンドン、パリ、デュッセルドルフ、マドリード事務所の各所長が、各国の経済・社会情勢、貿易投資動向、進出日系企業の現状と展望などについて講演した。4回シリーズの1回目は、ロンドン事務所の有馬純所長の報告について。英国では住宅市場を中心に景気回復がみられ、日本との経済関係もより一層深まる。

<好調な住宅市場が牽引役に>
ジェトロ・ロンドンの有馬所長は英国のビジネス動向について、英国の経済・ビジネス環境、貿易投資動向、エネルギー動向、EU離脱をめぐる動き、日英経済関係の5つの観点から解説した。

まず、英国の経済・ビジネス環境では、GDP、貿易、失業率、財政・金融政策などを取り上げた。英国と日本の産業別GDP内訳の比較(注1)では、英国では金融・保険と不動産の割合が33.4%と最も高く、日本の16.9%の約2倍に及ぶ。一方、製造業のシェアは11.4%と日本の19.5%よりも低く、英国の産業構造は金融・保険、不動産を中心にサービス業への依存度が高い。

英国国民統計局(ONS)のデータによると、リーマン・ショックの影響で2008年第2四半期以降に景気後退が始まり、欧州債務危機によって低迷が続いた。しかし2013年に入ると、景気が上向き始め、2013年第3四半期の実質GDP成長率は前期比0.8%増、前年同期比1.5%増だった。産業別にみると、サービス部門がプラス成長を続け、牽引役となっている。

経常収支は、サービス収支で黒字化が進むものの、貿易収支は製品を中心に赤字化が顕著にみられ、不均衡の是正は停滞状態にある。国・地域別にみると、サービスを中心に非EU諸国向けの輸出の割合が高まっている。

2013年は特に住宅市場が好調で、ロンドンを中心に住宅価格が上昇傾向にある。この要因には、2012年7月から始まった銀行の貸出促進制度や2013年4月から始まった住宅購入促進策の2つが挙げられる。

<欧州一のビジネス環境を目指す経済成長戦略>
英国産業連盟(CBI)や英国商業会議所(BCC)、欧州委員会、IMF、OECDによる2013年の英国経済見通しでは、それぞれ0.1ポイントから0.7ポイントの上方修正が行われた。雇用情勢については、2010年のキャメロン首相が率いる保守党と自由民主党の連立政権発足以降、失業率が8%前後で推移しているが、若年層は20%近くに達し、問題視されている。

金融政策では、量的緩和や0.5%の低い政策金利を維持し、イングランド銀行初の外国人総裁として前カナダ中央銀行総裁のマーク・カ―ニー氏を登用、フォワードガイダンス(金融政策の先行きを示す方針)の導入などにより改革が進む。ジョージ・オズボーン財務相による予算削減や付加価値税(VAT)率の17.5%から20.0%への引き上げは一定の効果を出しているとの見方が強く、10年国債の金利は2.44%(2013年9月時点)とドイツに次いで2番目に低い水準だ。

さらに、金融政策と財政政策だけでは不十分とし、経済成長戦略に意欲的だ。欧州一のビジネス環境を目指す英国は、(1)インフラ整備、(2)ビジネス環境の構築〔2015年までに法人税率を20%に引き下げ、パテントボックス税制(特許などの所得に対する軽減税率10%の適用)や研究開発税制など〕、(3)投資・輸出の促進、(4)規制改革・緩和を経済成長戦略に掲げ、日本の成長戦略とも類似する内容となっている。

<EU依存から脱却しつつある自動車輸出>
次に、貿易動向については、2012年の英国の国・地域別貿易は輸出入ともにEU依存が51%だった。英国にとって日本は15番目の輸出先であり、14番目の輸入先だ。自動車を中心に英国はEU依存からの脱却を目指している。英国自動車製造販売者協会(SMMT)によると、英国のEU向け自動車輸出は2008年に全体の60.3%だったのに対し、2012年は51.0%に低下。一方、同期間の中国向けは1.4%から8.1%に拡大した。

投資動向をみると、英国の国・地域別の対内直接投資〔100万ポンド(約1億6,800万円、1ポンド=約168円)超のクロスボーダーM&A〕は米国やカナダなど米州からの投資が全体の50%を占め、発電、リース、情報通信技術(ICT)で大規模な案件があった。また、日本からの直接投資では、三井住友フィナンシャルグループと住友商事による英ロイヤルバンク・オブ・スコットランドのアイルランドにおける航空機リース事業の買収(73億ドル)が目立った。

他方、国・地域別の対外直接投資(100万ポンド超のクロスボーダーM&A)ではEU向け投資が全体の51%と最も高く、資源や医療、バイオ分野に対する大規模投資が行われている。

エネルギー動向については、野心的な気候変動対策として2025年までに温室効果ガス排出量を1990年比で50%削減するという法律上の目標があるほか、エネルギー関係企業大手6社によるガス・電気料金の値上げなどを課題としている。2013年末成立予定のエネルギー法案では、安定供給、低炭素化、手ごろな料金の実現を目指し、再生可能エネルギーのみならず原子力発電など低炭素電源も対象としたコントラクト・フォー・ディファレンス(CfD)方式の固定価格買い取り制度(FiT−CfD)の導入を検討している(注2)。

<産業界はEU残留を支持、協力深まる日英経済関係>
英国では近年、景気悪化や欧州債務危機の影響もあり、「EU離脱」が論争になっている一方、産業界では全産業の78%がEU残留を支持している。その理由として、依然として英国の総輸出の過半はEU向けであるなどEU単一市場へのアクセスの重要性が高いことや、EUから離脱した場合、自由貿易協定(FTA)や原産地規則を見直さなければならないこと、対内直接投資に影響を与えることなどがある。また、英国は伝統的に自由貿易主義だが、離脱すれば、保護貿易主義化する可能性があることが懸念材料だ。また、英国がEUから離脱すると、親EU傾向のあるスコットランドが英国から離脱する可能性も否定できない。

最後に、日英経済関係に関して、日本から英国への海外直接投資残高(2011年)は、3兆5,000億円を上回り、在英日系企業数は933社、研究開発・デザインセンターも148拠点ある(注3)。

日英政府間経済協力では、アフリカ開発での連携、原子力協力、インフラ協力、安全保障・防衛協力の4点が合意され、両政府間の密接な経済関係の強化が期待される。さらに、英国で生産される自動車の半数以上は、日産、トヨタ、ホンダによるもので、各社が生産体制を再構築している。2013年は両国にとって、徳川家康の時代に始まった交流から400周年、長州ファイブ(注4)の派遣から150周年と記念すべき年だった。有馬所長は、「EUにおける英国」は日本にとって非常に重要な存在だとし、講演を締めくくった。

(注1)出所はONSおよび日本の総務省の2010年時点のデータ。
(注2)CfDとは、発電事業者に対して長期の固定価格による売電を保証することで、低炭素電源への投資を促進させることを目的とするもの。卸売電力市場で電力価格が固定価格を下回った場合はその差額を発電事業者が受け取り、逆に電力価格が固定価格を上回った場合は差額を消費者に返す仕組み。
(注3)日系企業数は外務省「海外在留邦人統計」、研究開発は英国貿易投資総省(UKTI)のデータ。
(注4)幕末期に長州藩から英国に派遣され、留学した長州藩士の伊藤俊輔(博文)、井上聞多(馨)、山尾庸三、野村弥吉(井上勝)、遠藤謹助の5人を指す。

(村上久、小菅宏幸)

(英国)

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