欧州委、「銀行同盟」の実現へ破綻処理メカニズムを提案
ブリュッセル事務所
2013年07月12日
欧州委員会は7月10日、「銀行同盟」の進展に向けて、銀行の単一監督メカニズム(SSM)を補完する単一破綻処理メカニズム(SRM)の具体案を発表した。危機的状況にある銀行の対応を協議する単一破綻処理委員会の設置に加え、約550億ユーロに及ぶ破綻処理基金の創設を提案している。2015年1月からの本格稼働を目指す。
<SRMを立ち上げ、SSMを補完>
欧州委は7月10日、6月下旬のEU経済・財務相(ECOFIN)理事会での、銀行破綻処理ルールの調和に関する合意を受け、銀行同盟に向けたSRMに関する具体案を提案した。SRMは、準備が先行しているユーロ圏および銀行同盟への参加を希望する非ユーロ圏のEU加盟国の銀行を対象とするSSMを補完するもの(2012年12月17日記事参照)。
SSMの準備は、欧州中央銀行(ECB)が2014年末までに対象となるEU域内の銀行を直接、監督する方向で進められている。SRMはSSMの対象となる銀行が深刻な状況に直面した場合に、効果的かつ納税者や実体経済への費用負担が最小限になるようなかたちで解決策を講じるための仕組みとなる。
SSMの強化された監督の枠組みと健全性の要件により、銀行の安全性が高められる。しかし、特定の銀行が流動性、あるいは支払い能力の深刻な問題に直面する事態が全く起こらないとは限らない。銀行監督と破綻処理は、不確実性を減らし、取り付け騒ぎやユーロ圏の他国への波及を防ぐために、同一の統一レベルで調整、運用されることが必要だとしている。
<単一破綻処理委員会と破綻処理基金を創設>
具体的には、対象銀行が危機的状況の際に、効果的かつ速やかに対処するために、対応を協議する「単一破綻処理委員会(Single Resolution Board)」を創設。単一破綻処理委員会は、ECB、欧州委、SRM参加国からの代表者により構成される。同委員会の提案に基づき、欧州委が当該銀行に破綻処理を講じるかどうか、および処理の実行時期について決定するとしている。
銀行の負債や資産を整理するための破綻処理費用として、対象となる銀行預金額の1%に相当する約550億ユーロの破綻処理基金を創設することも提案している。基金の規模は銀行産業が成長すれば、それに応じて引き上げられるとしている。基金は10年かけて構築する見通しで、仮に基金目標額の半分を超える額が支出された場合には、構築期間を14年に延長する。個々の銀行の負担額は、それぞれの銀行のリスクの度合いに応じて、欧州委が決めるとしている。
今回の提案は欧州議会とEU閣僚理事会(理事会)に送付される。欧州理事会(EU首脳会議)は理事会に対し、2013年内に立場を固め、現行の欧州議会の任期中、2014年前半の数ヵ月のうちに、欧州議会との合意を形成することを求めている(2013年7月1日記事参照)。欧州委は最終的に、2015年1月からのSRM設置と再建・破綻処理指令の完全実施を求めている。
<バローゾ委員長は銀行の責任を強調>
欧州委のバローゾ委員長は「今回の提案により、銀行分野の土台をより健全なものにし、信頼を回復させ、金融市場の崩壊を乗り切るための銀行同盟に向けた全ての要素をテーブルに出した」と指摘。「将来の銀行倒産のリスクを排除することはできないが、SRMと破綻処理基金により、将来の損失負担の責任を担うべきは欧州の納税者ではなく、銀行自身であるべきだ」と強調した。
また、欧州委のミシェル・バルニエ委員(域内市場・サービス担当)は「われわれは、(政府)財政への影響を避け、速やかに効果的に決定できるシステムと、市場に確実性を創出するルールを必要としている。これが今日提案した単一破綻処理メカニズムのポイントだ」と説明した。
他方、9月22日に連邦議会選挙を控えるドイツは、自国民への負担が増えるような印象を与えたくないこともあり、銀行同盟の進展について慎重な対応を続けている。9月13〜14日に、EU議長国であるリトアニアの首都ビリニュスで、非公式のECOFIN理事会会合が予定されているが、SRMに関する理事会での本格的な意見調整が進むのは、ドイツの議会選挙以降になるものとみられる。
(田中晋)
(EU・ユーロ圏)
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