「最後のフロンティア」に多くの商機−アフリカ・シンポジウム(2)−
海外調査部
2013年06月28日
「アフリカ・シンポジウム」の第1部では、日本、アフリカ双方の経済界を代表する財界要人がスピーチを行った。日本側は、成長余地が大きいアフリカの高いポテンシャルに期待するとともに、不十分なインフラを継続的に整備していく必要性を強調した。アフリカ側は、BRICSなど他国企業の影響力が増していることを挙げ、日本企業のより積極的な姿勢に期待するという声を上げた。
<官民連携によるインフラ整備が重要>
日本経団連の加瀬豊サブサハラ地域委員長は、名目GDPが過去10年間で約3倍に拡大し、今後も安定的な成長を続けるとみられているアフリカを、日本のビジネス界は「最後のフロンティア」と捉えているとした。また中間層の拡大による市場の魅力と豊富な資源・食料供給地としての魅力を兼ね備えているアフリカに対し、各国の発展段階に応じた協力が必要だとし、経団連としてもアフリカのビジネス環境改善に協力していく意向を表明した。その上で、a.インフラ整備、b.ビジネス環境整備、c.農業開発、の3つの重要な政策における経団連としての見解を表明した。
インフラ整備では、国際協力機構(JICA)などを通じた日本政府の資金協力を活用して、日本の民間企業が積極的にインフラプロジェクトにかかわっていくことの重要性に触れ、そのためには「日本の優れた技術が正当に評価される法的枠組みをアフリカ側も整備する必要がある」と語った。ビジネス環境整備については、外資規制、ローカルコンテンツ要求などを廃止し、外資系企業がビジネスをしやすい環境を整備すべきで、そのために日本政府として2国間投資協定(BIT)の締結を引き続き進めていくべきだとした。国内法の不透明な運用や知的財産権の問題などについては、「官民合同政策対話のメカニズムが必要だ」と主張した。農業開発については、安定した農業生産の拡大が雇用や社会の安定という側面からも重要だとし、灌漑やポストハーベスト(作物収穫後)技術などの面で日本が積極的に協力していくべきだと提案した。
三菱商事の小島順彦会長は、前回のTICAD IV(2008年)以降、日本とアフリカの交流は着実に増しており、日本のODAや民間企業の直接投資が大きく拡大し、青年海外協力隊など草の根の協力も強化してきたことを挙げ、「日本は着実にアフリカに対する約束を守ってきた」と語った。
また、5年前と比較するとアフリカには経済成長や資源開発の加速化、中間層の拡大など大きな変化がみられるが、「圧倒的なインフラ不足」は変わっていないと指摘。その上で、インフラ整備に日本企業がより参画しやすいように、日本政府の資金協力の弾力的な運用が必要だとした。加えて、治安・安全の確保は社員派遣の大前提だとして、この面でのアフリカ側の努力を訴えた。
<市場特性に合わせた商品開発が必要>
日産自動車の志賀俊之最高執行責任者(COO)によると、アフリカ全土の自動車販売台数は約140万台、グローバル全体における占有率は2%に満たないが、10億人超の人口と昨今の高い経済成長率を考慮すると、成長の余地が大きい市場と捉えているという。自動車産業は多くの製造部品など広く産業集積の裾野を必要とするため、一般的に市場規模が100万台を超えると地産地消型の製造投資が活性化する。。アフリカの新車自動車市場(2011年度時点)は最も大きな南アフリカ共和国が48万4,000台、エジプトが17万台、モロッコが11万6,000台、ケニアが1万2,000台などと、まだ一国単位では旺盛な製造投資を呼び込む水準にまで達していないと指摘した。
しかし、ASEANのタイも国内市場が58万9,000台だった1996年当時は約56万台の国内生産台数にとどまっていたがが、2012年には国内市場が143万4,000台、国内生産台数は240万台を超える水準まで拡大している。広域経済圏のASEANとして統合が進んだことが成功の要因であり、アフリカでも南部アフリカ開発共同体(SADC)や多国間のアガディール協定などの地域経済統合が深化していけば、地域製造拠点としての自動車産業の投資拡大が進むことが考えられると語った。日産は初めて車を手に入れる人が多いアフリカ市場に求められる商品の特徴として、a.手ごろな価格、b.耐久性(壊れない)、c.快適で安全の3つを挙げており、これらを満たす「ダットサン」(Datsun)ブランドの商品を2014年に南アフリカ市場へ投入することを計画している。
ヤマハ発動機の柳弘之社長も、市場密着型ソリューションの重要性について語った。同社はアフリカ51ヵ国で3S(販売、サービス、補修部品)政策をバックボーンに事業を展開している。マリン事業(船外機など)では、「フィッシャリー・ジャーナル(Fishery Journal)」という冊子の配布を通じ、ユーザーの立場に立った漁業ノウハウ(漁法・保存方法・加工方法)の普及に努めてきた。また、現地の用途に合わせたボートとエンジンの最適化を進めることや、定期的なサービス、キャンペーンの実施で圧倒的な信頼感を獲得しているという。
二輪車事業では、100人当たりの二輪車普及が1台に満たない(ASEANは21台、中
国は8台、インドは5台)ことから、今後の拡大ポテンシャルを3,500万台と見通してお
り、地域に魅力的な商品を提供することで販売を強化する計画だ。また、社会提案活動として、小規模投資でメンテナンスが容易な小型浄水装置を導入するなど、共生を通じた豊かな生活の提供を目指していると説明した。
<成長の速いアフリカの「今」を逃すな>
アフリカのビジネス界からは、日本の優れた革新的技術に対する期待に加え、日本企業がアフリカビジネスにより積極的に乗り出すことを期待するとの声があった。
商社や鉄鋼メーカーなど日本企業とのビジネスを1963年から行っているケニア鉄鋼大手のマバティ・ローリングミルズのマヌ・チャンダリア会長は、日本の薄板鋼板製造技術が屋根材の供給を通じてアフリカの社会開発に役立った事例を紹介したが、「今の日本のアフリカにおけるプレゼンスは他国に比べて相対的に低い」と指摘。「日本の1960年代の海外市場開拓意欲を呼び起こし、待ちの姿勢ではなく、日本の方からアフリカに乗り込んできてほしい」と注文を付けた。
南アの経済団体ビジネス・リーダーシップ・サウス・アフリカ(BLSA)のテロ・セティロアネCOOも、未曾有の経済発展期を迎えているアフリカにおけるビジネス機会を逸すべきではないと指摘し、「アフリカは急速に動いており、立ち止まって考えている余裕はない」とした。同COOは、南アでは3,300億ドルのインフラ投資が進行中、あるいは検討中で、「日本企業とアフリカ企業の間の連携、提携は可能だ」と指摘。日本企業の中でも関西ペイントやNTTなどM&Aを通じた積極的な市場参入事例がみられるため、「より多くの企業がアフリカに目を向けることを期待する」と語った。
サブサハラ33ヵ国で金融業を展開するエコバンクグループのティエリー・タノー代表取締役は、都市部の人口が増加して消費財需要が拡大していること、インフラ投資の必要性からODA以上に民間資本が入ってきていること、BRICS諸国との貿易取引が全体の20%を占めることなど、アフリカの変化を紹介した。また、アフリカでは適切な現地パートナーと組むことが必要だが、日本企業は他国企業に比べてあまり積極性を感じないとし、「中国やインドネシアでビジネスをするのとは異なる」と指摘。「BRICS諸国の動きは速い。日本企業も今、その一歩を踏み出すべきだ」と語った。タノー代表取締役は日本国内のインフラ水準の高さに触れ、「アフリカのインフラビジネスで、日本企業の商機はある」と述べた。
(中畑貴雄)
(アフリカ)
日本企業の投資・活動の拡大に期待−アフリカ・シンポジウム(1)−
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