社会的な課題の解決はビジネス参入の契機−アフリカ・シンポジウム(4)−

(アフリカ)

海外調査部

2013年07月02日

「アフリカ・シンポジウム」の第3部では、「BOPビジネスを通じた日本企業の市場開拓〜付加価値を生むパートナーシップ〜」と題し、厳しいビジネス環境との先入観を持たれがちなアフリカ市場に対して、新しい発想で市場を開拓している日本企業が自社の経験を紹介したほか、アフリカ側からみた日本企業とのパートナーシップへの期待などが示された。シリーズ最終回。

<独自の技術・経営ノウハウでビジネスと支援を両立>
冒頭のあいさつに立った国際金融公社(IFC)のジャン・フィリップ・プロスパー副総裁(サブサハラアフリカ・ラテンアメリカ・カリブ海地域担当)は、アフリカは経済的な低迷期を脱しており、2012年から2017年の間に5〜6%のGDP成長を果たす見込みだとし、アフリカ経済の成長に自信を示した。また、会場に多くの日本企業が詰め掛けていることから「アフリカビジネスへの関心の高さを実感している」と述べ、日本企業からの投資やパートナーシップに期待を表明した。

オーガニック・ソリューションズ・ルワンダの佐藤芳之代表取締役社長は、1974年にケニアでナッツの生産・加工・販売を行うケニア・ナッツ・カンパニーを従業員5人で立ち上げた事業を、約30年後に現地の従業員に委ねる際には4,000人規模にまで拡大させた経歴を持つ。また現在は、前職で有機栽培を行う際に扱っていた微生物に着目し、「ケニアで培養したバクテリアを、衛生管理のために切り花や家畜の生産者向けに販売するビジネスを行っている」と紹介した。同社は2005年の設立後、黒字化に成功し無借金経営を行っており、今後の事業拡大にも自信を示した。

家庭用および業務用洗浄剤・消毒剤・うがい薬などの製造販売を行うサラヤ(本社:大阪市)の更家悠介社長は、ウガンダで手洗い習慣の普及に取り組んでいるプロジェクトについて説明した。同社は設立60周年を迎えた2012年に記念イベントを考えたところ、ユニセフから感染予防のプロジェクト参加の打診を受けサポートを開始した。援助というかたちではなく、ビジネスの観点で進めていくことが継続的な支援につながると考え、熱意を持った青年海外協力隊経験者のプロジェクトへの参画も得たことから、現地に会社を設立した。また、ウガンダでは手洗いに対する理解はあり、ビジネスの基盤は整っていると感じられたことから、国際協力機構(JICA)などの支援を受けながら実証実験を進めた。その結果、アルコール消毒は水がなくてもできると好評だったが、値段が高いことがネックとなったために、パートナー企業と組んで現地生産を開始すると解説した。現在は現地で5人を雇用しており、今後増やしていきたいと話した。

味の素研究開発企画部の取出恭彦専任部長(国際栄養)は、ガーナで取り組んでいる栄養改善プロジェクト(生後6ヵ月から24ヵ月の離乳期における栄養不足の解消)について説明した。ガーナでは離乳期の子どもの主食は、伝統的な発酵コーンを用いた粥(かゆ)が一般的だが、エネルギー、タンパク質、ビタミン、ミネラルといった栄養素が不足しており、子どもの成長遅延を引き起こす原因の1つとなっていると解説した。そこで、味の素グループの持つ食品加工、アミノ酸栄養に関わる技術・ノウハウを生かすことにより、栄養改善への貢献ができると考えたことがプロジェクトの原点となっていると述べた。また、現地企業とのパートナーシップ成功のカギとして、a.社会問題の解決という共通の目的を共有すること、b.それぞれのやり方・立場を尊重すること、c.パートナーとともに価値を創造すること、を挙げた。

<現地企業と連携しウィン・ウィンの関係構築を>
ガーナの食品メーカー、イエデント・アグロ・グループ・オブ・カンパニーズのサミュエル・ンティム=アデュ最高経営責任者(CEO)は、アフリカの人口の8割は低所得者層〔BOP(Base of the Economic Pyramid:経済ピラミッドの底辺)〕で、こうした層にとってトイレや手洗いなどの生活必需品に対するニーズが高いと指摘した。味の素とパートナーシップを組んでいる同社はその経験から、「技術力がある日本企業がアフリカに来てBOP市場を開拓していくためには、現地企業との連携が重要」と強調した。また、アフリカにおけるBOPビジネスを行う上での課題として、a.投資資金の調達、b.バリューチェーンの構築、c.法規制上の透明性、の3点を挙げた上で、「日本企業に大きな需要があるので、リスクを恐れずアフリカに進出してほしい」と呼び掛けた。

米国のNGOテクノサーブ・タンザニアのレベッカ・サボイェ代表は、タンザニアは農業分野で高いポテンシャルを有しているとし、具体的な開発プロジェクトとして、タンザニア政府と多国籍企業が官民合同で進めているタンザニア南部農業成長回廊(SAGCOT)を紹介した。同プロジェクトは、農業の生産性の向上、食の安全性の確保を目標とし、ウィン・ウィンの関係になるように進められており、「40企業が5億ドル以上の投資を約束している」と語った。

<ダイナミックに成長しているアフリカとビジネスを>
パネルディスカッションでは、プレゼンテーションを行った5人をパネリストとして迎え、政策研究大学院大学の大野泉教授がモデレーターになり議論が行われた。佐藤社長は、アフリカでBOPビジネスを成功させる秘訣(ひけつ)について、「既に競争がある分野を避けて新しい道を切り開いていくことの重要性」を強調した。同社長は自身がナッツや微生物を商材として選択したのは、今まで誰も取り扱ってこなかったからだからと説明。その上で、事業を進める際には問題が起こるのは当たり前で、全てを想定内のこととして対応することが必要で、また自分の扱っている商品の将来性を信じることが大切だとの考えを示した。

取出専任部長は、イエデント・アグロ・グループ・オブ・カンパニーズをパートナー企業として選んだ理由について、国連の機関などと栄養改善のために食品を作ってきた実績があり、かつ新しい技術の吸収に熱心だったことを挙げた。また、栄養改善は1社ではできないことが多く、例えば栄養教育は地域のコミュニティーとつながりがある国際的なNGOなどと協力していくことが不可欠だと述べた。

更家社長は、アフリカで小規模な企業や起業家がビジネスを考える際に、ファイナンスが最も大きな課題となると指摘した。また佐藤社長もシード・ファンドが決定的に欠如しているとの見方を示し、アフリカビジネスを支援するファンド設立を提案した。

サミュエルCEOは日本企業の特徴を問われ、多国籍企業での勤務経験や味の素とパートナーシップを組んでプロジェクトを行っている実績を基に、「日本企業は慎重だが、相手の話をしっかりと聞く人が多い」という印象を語った。また、味の素とのプロジェクトを通して多くのことを学んだと説明した。

大野教授は「本日登壇した日本企業は、規模は異なるが社会的な課題を正面から捉えて、いかにビジネスとして取り組んでいくかということを考えている。アフリカへのビジネスのエントリーポイントはさまざまあるが、社会的課題の解決が1つの切り口になる」「アフリカが抱える貧困や衛生などの問題に対して、日本の知識・ノウハウが生かせるのではないか」「現地でビジネスを行っていくためには、ローカルパートナーあるいは国際機関、NGOなどと連携していくことが必要」「ダイナミックに成長しているアフリカは、日本企業にとって魅力的な成長の場になる」などと述べて、セッションを締めくくった。

パネルディスカッションの様子

ビジネス短信 51bacf4b92f90