M&Aで戦略的に市場参入−アフリカ・シンポジウム(3)−

(アフリカ)

海外調査部

2013年07月01日

シンポジウムの第2部では「アフリカ・ビジネス最前線〜グローバル化と企業間連携の新しいカタチ〜」をテーマとした講演とパネルディスカッションが行われ、2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)以降の日本企業の対アフリカビジネスの特徴ともいえるM&Aの事例が紹介された。

<経営陣にアフリカ出身者を登用>
関西ペイントの石野博社長は、2011年に同社が行った南アフリカ共和国の地場塗料大手フリーワールド・コーティングス買収の理由を紹介した。新興国の中間層、いわゆる新中間層向け市場が急速に拡大している中、同社が日本、アジアで売上高トップを占める自動車用塗料だけでは、同市場に浸透することは難しいと判断。「自動車プラス・ワン」の事業展開が必要と考え、既に南アでブランドを確立していた汎用(はんよう)塗料企業を買収し、南アからアフリカを攻める戦略を取ったことが売り上げの拡大に効果的だったと説明した。

豊田通商の服部孝常務取締役からは、2012年に同社が行ったフランス上場企業CFAOのM&Aの狙いと、今後同社が目指す「VISION」が紹介された。まず、CFAO買収以前の同社事業について、具体的に次の3点に言及した。

○アフリカを北・東・南地域に分けて統括拠点を設置していること。
○主力事業であり、東・南部を中心に拡大してきた自動車事業は、2001年に英国の商社ロンローから代理店を買収し、完成車のシッパー・輸出業務から、直接出資による事業体経営に軸を移したことが大きな転換点となったこと。買収後も人材育成の強化にこだわり、経営ポジションにアフリカ出身者を登用するなど現地スタッフの活用を進めていること。
○主力の自動車事業で培ったネットワークを生かし、自動車以外の分野にも積極的に事業展開をしていること。

また、北・西アフリカ全域でネットワークを持ち、125年の歴史を有するCFAOのM&Aの効果として、a.従来ほとんど手を付けられていなかったフランス語圏・西アフリカでの事業展開が可能となったこと、b.同社の注力分野の1つである医薬品事業で、アフリカ最大の事業ネットワークを手に入れられたことを挙げた。

今回のM&Aにより、同社グループはアフリカ54ヵ国中、53ヵ国で事業を展開し、1万人を超える従業員を擁することになる。同氏は「アフリカ各国の地域社会にしっかりと貢献することも重要なミッションであり、従来型の社会的責任(CSR)の概念を越えた視点・仕組みを意識した企業活動を今後も行っていきたい」と語った。

日本たばこ産業(JT)の福地淳一執行役員は、2009年からの4年間で3件のM&Aを行い、事業を拡大してきたことを紹介した。アフリカ諸国はたばこの製造、販売拠点であると同時に、葉タバコの産地、原料加工拠点でもあることから、植林や灌漑など事業環境の安定につながるような企業のCSR活動に積極的に取り組んでいることを強調した。

<ケニアでモバイルバンキングに成功>
日本からアフリカへの最大の投資案件としてNTTが買収した、ディメンションデータ・ミドルイースト・アンド・アフリカのアンディレ・ングカバ取締役会長は、両社の成功している取り組みとして、販売の拡大、共同研究開発の機会の増加、オペレーションの統合などを紹介した。CSR活動の一環として、教育への投資に力を入れており、長期的視点に立った人材育成に取り組む姿勢を強調した。

パネルディスカッションで発言する、ディメンションデータ・ミドルイースト・アンド・アフリカのアンディレ・ングカバ取締役会長

サファリコムのジョセフ・オグトゥ戦略・技術担当取締役は、同社が2000年にケニア政府と英国ボーダフォンによる合弁会社(株式保有割合は6対4)として設立されたことを紹介した(現在の保有割合はボーダフォン40%、ケニア政府35%、一般投資家25%)。同社の先進的なモバイルバンキング事業であるM−Pesa(エム・ペサ)の成功の理由として、効果的な流通網を張り巡らし、銀行口座を持たない大多数の国民を取り込めたことを挙げた。アフリカにおけるモバイル事業は成長が著しいとして、日本企業による投資を呼び掛けた。

<経営陣に求められるスピード感>
モデレーターのジェトロ・アジア経済研究所の平野克己上席主任調査研究員による、グローバル化に乗り出す際のリーダーシップに係る質問に対し、日本たばこ産業の福地執行役員は、1999年に英国RJRのたばこ部門を買収する際、「今、出て行かないとガラパゴス化してしまう」と経営陣の意識が強かった点を紹介した。この案件がきっかけとなり、海外事業展開が加速したという。

関西ペイントの石野社長は、1980年代のインド進出当時から、現地のパートナーにマネジメントを任せることで信頼関係を構築してきた点を強調。「少ないリソースをどのように使っていくか、経験を積み重ねることが必要」と述べた。また、汎用塗料事業では技術、品質だけでは世界と肩を並べることは難しく、経営陣がコスト意識、スピード感、ビジネスモデルを徹底することが求められると指摘した。豊田通商の服部常務取締役も、CFAOの社名、マネジメントを前面に出してブランドバリューを継承するという多国籍集団のマネジメント手法が、アフリカ事業にプラスに働いているとの考えを示した。

パネルディスカッションに参加した、関西ペイントの石野社長、豊田通商の服部常務、日本たばこ産業の福地執行役員

<「アフリカを何も知らないリスク」もある>
世界銀行グループ多数国間投資保証機関(MIGA)の小林いずみ長官は、同機関が金銭的な保証だけではなく、政府と民間企業の間に積極的に介入し、アフリカに投資する民間企業の事業継続を支援していることを紹介した。アフリカへの投資には、戦争、テロ、契約不履行といった実際のリスク、予見されるリスクのほかに、「何も知らないリスク」があり、日本企業のアフリカ投資への姿勢は3点目の側面が強いと指摘。「世界銀行の機能を理解して、積極的に利用してほしい」と訴えた。

モデレーターの平野上席主任調査研究員は、TICAD IVで日本政府が打ち出した対アフリカの民間投資倍増の実現は、今回紹介されたような民間企業によるM&Aがなければ達成されなかったものだと指摘。「アフリカ発の多国籍企業は想像以上に多く、ビジネス環境が進化していることを認識してほしい」と呼び掛けた。

(伊藤実佐子)

(アフリカ)

日本企業の投資・活動の拡大に期待−アフリカ・シンポジウム(1)−
「最後のフロンティア」に多くの商機−アフリカ・シンポジウム(2)−
社会的な課題の解決はビジネス参入の契機−アフリカ・シンポジウム(4)−

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