欧州理事会、「成長と雇用」のための具体策を討議−25ヵ国が「財政協定」に署名−

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル発

2012年03月05日

3月1〜2日に開催された欧州理事会(EU首脳会議)では、英国とチェコを除く25ヵ国が財政規律を強化する「財政協定」に署名し、2013年1月の発効を目指すことになったほか、主に具体的な経済成長戦略の実施について議論が行われた。EU各国は財政再建を継続しながら、経済成長を実現することを求められており、そのための具体策が急務となっている。6月の欧州理事会では、具体的な措置が出そろうことが期待されている。

<財政協定に署名、13年1月の発効目指す>
欧州理事会は3月2日午前、12年1月の非公式欧州理事会で英国とチェコを除く25ヵ国が合意した「財政協定」に署名した(2012年1月31日記事参照)。同協定はユーロ圏の財政規律を強化するもので、「経済通貨同盟の安定・協調・ガバナンスに関する条約」が正式な名称。

締約国は、財政均衡を義務付けられる。ただし、構造的財政赤字が名目GDP比0.5%以内であれば、財政均衡を達成していると見なされる。各国は財政均衡目標を同協定発効から1年以内に、憲法または予算審議過程で十分に保証される国内法に盛り込むことが求められる。既に同様の措置である債務ブレーキ制度を導入しているドイツなどを参考にしながら、国内法化を進めていくことになる(J−FILEレポート参照)。

国内法化が達成されているかどうか疑義がある場合は、ほかの加盟国はEU司法裁判所に訴えることができる。

同協定はユーロ圏17ヵ国のうち、12ヵ国が批准した翌月の1日から発効すると規定されており、13年1月の発効を目指す。また、EU条約とEU運営条約との整合性を考慮し、発効から5年以内に導入後の経験を踏まえて見直しを行い、同協定をEUの法的枠組みに統合する。

欧州理事会終了後の記者会見に臨むバローゾ欧州委員会委員長(左)とファンロンパウ欧州理事会常任議長

<財政再建と経済成長戦略が危機脱出の両輪>
また、欧州理事会では、主にEUの経済成長戦略の実施に関して議論した。欧州理事会の総括(PDF)によると、同戦略では、継続的な財政再建と、「成長と雇用」を促進するための確固たる行動の双方を追求する。EUはEU自身を成長と雇用の軌道に戻すために、あらゆる必要な措置を取る。財政安定と財政再建を確保するための措置、ならびに成長と競争力、雇用を促進する行動の両方をカバーする二面的アプローチが求められる。

欧州理事会はこうした認識の下、欧州委員会が12年の年次成長外観で設定した5つの優先課題(2011年11月28日記事参照)を確認した。その5つは、a.各国の事情に応じた成長志向型財政再建の追求、b.資金流動性の回復、c.成長と競争力の促進・強化、d.成長対策と危機の社会的影響への配慮・軽減、e.公共部門の近代化による行政負担の軽減。

これは各国レベルで実施すべきもので、EU加盟国は欧州2020戦略の目標に向けて、より速いペースで前進する必要があり、11年の国別勧告で取り上げた改革(2011年6月10日記事参照)に関する努力を積み上げていかなければならない。加盟各国は、国家改革プログラムや安定・収斂(しゅうれん)プログラムの効果を上げる措置を示すことが求められる。

欧州2020戦略は、欧州の「成長と雇用」戦略で、直面する課題への包括的な回答になる。特に、20年に向けて設定された5つの目標は「成長と雇用」に完全に関連しており、EUと加盟国が雇用を促進し、イノベーションや研究・開発の状況を改善し、気候変動対策とエネルギー目標を達成し、教育レベルを改善し、特に貧困削減を通じて社会的包摂を促進するための道標となり続ける。

しかし、これまでに実施した努力は5つの目標を達成するには不十分で、成長と雇用に短期的な効果をもたらす措置に、特に注意を向けた改革の実施が急務だとしている。そのため欧州理事会は、11年の国別勧告と経済政策協調を目指すユーロプラス協定の下での約束の実施に関し、暫定的な結論とベストプラクティスについて議論した。

<マクロ経済の不均衡是正に向けた新しい手続きを導入>
また、持続可能な成長と雇用は、財政赤字や過剰債務がある状況では、実現できない。ユーロ圏の状況を安定化させる措置こそが成果をもたらす。マクロ経済不均衡の防止と是正に関する新しい手続きの最初の一歩となる欧州委の最近の警告メカニズム報告書は、いくつかの加盟国での特定の課題と潜在的なリスクを指摘している(2012年3月5日記事参照)

同報告書は、加盟国間のマクロ経済不均衡を是正するために導入された手続きの端緒となるもので、EU閣僚理事会(理事会)はこの報告書を厳密に精査する予定。欧州理事会は、理事会と欧州委に対して、手続きの実施を効果的かつ速やかに行うよう要請するとともに、加盟国にはそれに応じた行動を取るよう要請した。

財政再建は高い成長と雇用に戻るための必須条件で、加盟国の状況に応じたものでなければならない。すべての加盟国は安定・成長協定の規則に沿った約束を尊重し続けるべきで、特に教育と研究、イノベーションを重視しながら、将来の成長への投資となる支出を優先すべきだとした。

さらに、税制が財政再建と成長に貢献できるとし、欧州理事会は2月21日の理事会の結論(PDF)に沿って、加盟国に対して、税制をより実効的かつ効率的なものとすること、正当とはいえない例外の除去、課税ベースの拡大、労働に対する課税からの移行、税の徴収の効率性の改善、脱税への取り組みなどを目的に、各国税制を見直すよう要請した。欧州理事会は税制が加盟国の権限であることに留意しつつ、これまでEUレベルでの協力が必ずしも進んでこなかった税制でも改革を求めている。また、理事会と欧州委に対して、第三国に関連したものも含む脱税などへの改善に向けた方策を速やかに具体化し、12年6月までに報告するよう要請した。

<単一市場の完成を目指す>
欧州理事会はまた、対内、対外の双方からあらゆる側面で単一市場の完成を進め、イノベーションと研究の促進を後押しする、EUレベルでの必要な行動を議論した。

欧州理事会は11年10月と12月の会合で、一連の成長を強化する提案に関する枠組みを設定した。1月30日の非公式欧州理事会は特に緊急課題を取り上げ、理事会に対し、6月にこれに関する措置について報告するよう要請した。

EUレベルでの特に必要な努力は以下のとおり。

(1)ガバナンスを強化し、実施・施行を改善することで単一市場を新たな発展の段階に導く。欧州委に対して、単一市場に関するコミュニケーション(指針)とサービス指令に関する報告書、分野別パフォーマンスの成果に関する報告書の発表を要請した。
(2)15年までにデジタル単一市場を完成させる。特に電子商取引の信頼性を促進させる措置を採用し、高速ブロードバンド・インフラの費用を低減することを含め、より広範に進めて行く。欧州理事会は欧州委による著作権に関する今後の提案に期待する。
(3)EUおよび加盟国レベルで、行政と規制上の負担を軽減する。欧州理事会は、零細企業を支援する措置を含め、規制上の負担の最小化を進めるコミュニケーション(指針)を発表しようとする欧州委の意向を歓迎する。
(4)11年10月の議長総括と12年1月の声明に沿って、貿易障壁を除去し、より良い市場アクセスと投資条件を確保する。欧州理事会は、欧州委の貿易・投資障壁に関する報告書を歓迎し、6月に進捗を検証した上で、EUが主要パートナーとの貿易・投資関係をどのように深めていくかを議論する。

また、欧州理事会は資源効率的で、環境に易しく、より競争力のある経済が決定的に重要であるとしたほか、6月までにエネルギー効率化指令(2011年7月5日記事参照)に関して合意するよう呼び掛けた。これは、低炭素2050戦略と資源効率化ロードマップの実施に関する速やかな進展を呼び掛けるものだ。

イノベーションと研究は欧州2020戦略の中心となる。欧州は強い科学基盤を持つが、研究を市場の需要ニーズに向けた新たなイノベーションに転換する能力を改善すべきだとした。具体的には、欧州研究領域(ERA)の14年までの完成や、研究者の域内移動やキャリアパスの改善、欧州特許制度の先行統合の12年6月までの最終合意などを確認した。

欧州理事会はさらに、欧州委が域内エネルギー市場の自由化レベルと統合の評価に関する政策指針を6月までに用意することへの期待感を示した。

そのほか、欧州理事会はセルビアをEU加盟候補国とした。また、ブルガリアとルーマニアのシェンゲン協定への加盟決定については9月に先送りした。

<EFSF/ESMの融資能力上限引き上げは先送りに>
なお、3月2日に開催されたユーロ圏首脳会議(PDF)は、ギリシャ支援に関する欧州委の将来的な行動に加えて、ギリシャ首相と欧州委委員長が概要を示した成長を強化するための具体的、かつ特別な措置を支持するとした。

欧州金融安定化ファシリティー(EFSF)と欧州安定メカニズム(ESM)の融資能力上限に関する再評価については、3月末までに行うことを確認した。EFSFとESMの上限は現在5,000億ユーロとされているが、その引き上げが問題となっている。さらに、各国の国会手続きを十分に尊重しながら、12年中に2回行われるESMへの払込資本の支払いを加速することで合意した。

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

ビジネス短信 4f542b8c153d8