FRB、0.5ポイントの追加利下げ−景気下振れへの警戒姿勢を継続−
ニューヨーク発
2008年10月31日
連邦準備制度理事会(FRB)は10月29日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、フェデラル・ファンド・レート(FFレート)の誘導目標値を1.5%から1%に引き下げることを決めた。政策金利は過去最低水準に達したものの、景気下振れへの警戒姿勢を緩めていない。金融危機対応策の実施を受けて、短期金融市場は緩やかに改善しているが、正常化にはほど遠い状況。当面の金融政策の景気刺激効果はあまり期待できないため、焦点は第2次景気対策に移りつつある。
<追加利下げの余地を残す>
今回は10月8日に実施した主要国との緊急協調利下げに続く利下げで、政策金利の誘導目標水準は1%と過去最低水準に達した(図1参照)。3週間で2回、合計1ポイントの利下げは、2008年1月(9日間で合計1.25ポイント)以来の異例の対応となる。1%の政策金利は、ITバブル崩壊後のデフレ懸念の高まりを受けて03年6月から約1年間実施されて以来。
政策金利は最低水準に達したものの、声明文は「景気の下振れリスクが残る」との判断を示し、追加利下げの余地を残している(表参照)。一方、前回まであったインフレリスクに関する記述は完全に消えた。
9月15日の投資銀行大手リーマン・ブラザーズ破綻の翌日(9月16日)に開催された前回の定例FOMCでは、政策金利を2%に据え置くとともに、景気とインフレリスクはバランスしたとの判断を示していた。同行の破綻を機に一気に高まった金融危機は、1ヵ月半でFRBが直面するリスクを大きく変えてしまった。
景気の現状認識の悪化は著しい。個人消費の減少(減速ではない)を最も重要な景気減速の要因としたほか、企業の設備投資や鉱工業生産が最近数カ月で弱まったこと、多くの国の景気減速を受けて米国の輸出見通しが悪化したことを指摘している。GDPの約7割を占める個人消費の減少で、FOMCメンバーがマイナス成長入りを意識していることがうかがえる。
<実行段階に入った金融危機対応策>
10月14日に発表された金融危機対応策(2008年10月16日記事参照)は次々に実施されている。発表と同時に始まった連邦預金保険公社(FDIC)による銀行債務の保証(注)を受けて、短期金融市場の緊張度を表すロンドン銀行間取引金利(LIBOR)と安全資産である財務省証券との利回りの差は縮小し始めた(図2参照)。
金融危機対応策の目玉である公的資本注入は、10月28日に最初の資金注入が行われた模様だ。ライアン財務次官代行はニューヨークで講演し、大手9行に対する1,250億ドルの資本注入について、10月28日から資金受渡しを開始すると述べた。さらに、地方銀行数行とも資本注入について暫定合意に達したとしている。各種報道によると、少なくとも地方銀行19行が350億ドルの資本受け入れを表明している(申請は11月14日が締め切り)。
10月27日にはFRBが特別目的会社を通じたコマーシャル・ペーパー(CP)の買い取りを開始した。期間80日以上のCPの発行額、発行件数は9月15日以降、大きく落ち込んでいたが、買い取り初日の27日に大幅に増加した(図3参照)。
金融市場は政策効果を受けて、9月中旬以降の極度の緊張状態が徐々に和らぎつつあるが、正常化にはほど遠い状況にある。今回の利下げ後も、政策金利の先物市場は、さらに年末までのもう一段の利下げを見込んでいる(図4参照)。
<当面の焦点は第2次景気対策へ>
金融市場の緊張が続いているため、利下げによる当面の景気刺激効果はほとんど期待できない状況だ。金融機関の信用リスク見直しを受けて、実体経済の刺激に重要な住宅金利や社債利回りなどの長期金利は高止まり、または上昇している。
このため、当面の政策対応として景気対策への関心が高まっている。下院のペロシ議長は10月27日、「ブッシュ大統領と話した結果、景気対策について超党派での合意が得られるよう努力することで合意した」との声明を発表している。バーナンキFRB議長による「議会による景気対策の検討は適当」との異例の議会証言(10月20日)で、第2次景気対策に慎重だった政権も態度を変えている。
下院は第2次景気対策をもくろんで、「2008年雇用創出・失業救済法(H.R.7110:Job Creation and Unemployment Relief Act of 2008)」を9月26日に通過させている。同法の柱は、a.インフラ整備、b.メディケイド(州政府が運営する低所得者を対象とする医療保険制度で連邦政府は一定割合を補助)における州政府への補助率の一時的引き上げ、c.職業訓練と失業給付の拡充、d.フードスタンプ(貧困層に食料と引き換え可能なクーポン券を支給する制度)、の4本だ。
議会予算局によると、同法の歳出規模は582億ドル(GDP比0.4%)で、戻し減税を中心とした第1次景気対策(2008年2月14日記事参照)の規模のほぼ3分の1にとどまる。ペロシ下院議長はこの法案が上院審議のよい出発点になるはずだと述べる一方で、法案通過時よりも景気が一層悪化したことも指摘しており、上院に対し規模の上積みを求めるとみられる。議会情報誌によると、議会は大統領選後の11月17日からレームダック会期を開始する。
(注)銀行の債務保証プログラムに関する情報はFDICのサイトで総合的に提供されている。
(水田豊)
(米国)
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