急増する追加関税措置、2016年以降で計8回105品目

(トルコ)

イスタンブール発

2017年02月23日

 政府が国内産業の保護や貿易赤字縮小を目的に実施してきた追加関税措置が、最近急増している。2016年はゴム・プラスチック製品や繊維製品、軽工業品を中心に合計6回88品目、2017年に入っても機械、電気機器などにおいて2回17品目の追加関税措置が実施された。

<保護主義の一例、通貨安に伴い税収増狙いか>

 2016年のトルコ経済は、クーデター未遂事件、シリア情勢、テロ事件といった治安情勢の悪化に加え、実権型大統領制度導入の試みという政治不安などを要因に、内需の冷え込みがみられるようになり、海外依存の大きい資金調達や生産活動のもろさが懸念されるようになった。また原油価格の上昇傾向は、貿易赤字、経常赤字の拡大につながり、貿易の保護主義が垣間見られるようになっている。その一例として、急増する追加関税措置が挙げられる(過去の措置は2012年1月25日記事2015年8月11日記事参照)。

 

 2016年から2017年1月までに、追加関税措置は8回、105品目を対象に実施された(注1)。対象となった品目は、プラスチック製品、木材製品、紙・板紙、陶磁製品、ガラス製品、食卓用品、卑金属製品、時計、書画、絵の具、接着剤、写真用フィルム、印刷物、文房具(雑品)、鋼管、機械類(エンジン、ポンプ)、電気機器(発電機)、トラクター・同部品など多岐にわたり、その多くに20~30%程度、最大で50%の追加関税が課されることとなった(添付資料参照)。国内産業保護や貿易赤字の縮小という従来からの目的に加え、通貨リラの下落に伴い税収増を迫られていることも背景にあるようだ。

 

<日本企業の輸出への影響は不可避>

 追加関税は原則全ての国を対象とした措置だが、トルコと関税同盟を有するEU諸国や自由貿易協定(FTA)を締結する韓国、マレーシアなどの国・地域については対象外となる。日本は経済連携協定(EPA)締結に向けて交渉中だが、未締結の現時点では本追加関税措置の対象となる。

 

 一連の措置は、WTO加盟国に義務付けられている譲許表の範囲内での関税措置、または上限の設定されていない非譲許品目に関する関税措置とされているが、日本企業のトルコ向け輸出への影響は無視できない。2016年9月に実施されたタイヤに関する追加関税措置(HS4011、追加関税率21.8%)を例に取ると、2015年のトルコ向け輸出の上位はEU諸国、日本(4位)、中国(5位)、韓国(8位)、タイ(11位)、インド(13位)などだが、この中でEU諸国と韓国は追加関税措置を受けていない。一方、日本企業は日本の生産拠点から輸出しても、中国や東南アジアの生産拠点から輸出しても21.8%と高率の追加関税が課されることになり、ビジネスへの悪影響が懸念される。実際、日本の2016年のタイヤ輸出額は前年比10.6%減となり、順位も8位に下がっている(表参照)。

表 トルコの国別タイヤ輸入額(上位20ヵ国、HSコード4011)

 なお、特別な追加関税措置とは別に、一部の品目に関しては例年行われている輸入規制の改正措置に伴い、2017年1月1日から通常の関税率も上昇したことが確認されている〔1月1日付官報(2016/9611)参照〕。

 

<即日発効のため対策が困難>

 追加関税は事前通告がないまま官報(トルコ語)で発表され、即日発効となることから、時宜を得た対策を取ることが難しい。「急にトルコの関税が25%上がったという話があるか本当か」「代理店から関税率引き上げ情報が入った。事実確認をしたい」という相談が複数寄せられ、ジェトロも事後的に状況を把握するケースがある。

 

 特に代理店を通じて商品を販売している企業にとっては、直接官報などの情報源にアクセスすることが難しく、困惑するケースがみられた。この事態に対し、トルコ日本人商工会連絡協議会(注2)は、トルコ経済省やトルコ投資促進機関(ISPAT)との協議の場で追加関税の撤廃を申し入れているが、現状では日本・トルコのEPA交渉を急ぐ以外、具体的な解決策が見当たらないのが実情だ。

 

 追加関税措置やアンチダンピング課税といったトルコの貿易対策は、入超が著しい中国の品目がターゲットにされる傾向が強い。2016年の貿易赤字額でも、中国は一国で赤字総額の40%を超えていることから問題視されており、このような背景の中で結果的に、日本を含む東アジア全体を対象とした対策がなされている。

 

 中長期的にみれば、トルコの持つ大きな内需や地理的な優位性は変わらず、一定の魅力を持つ市場といえるが、今後も生じ得るトルコビジネスのリスクとして、追加関税措置を頭に入れておく必要があるだろう。

 

(注1)HSコード4桁単位で集計。ただし、各品目をHSコード6桁で見た場合に適用外となる品目もある。追加関税措置の対象となるHSコードについては添付資料参照。

(注2)イスタンブール日本人会商工部会、アンカラ日本人会商工会、イズミル日本人会商工会で構成される協議会。

 

(中村誠、中島敏博)

(トルコ)

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