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日本と中国の援助から見るカンボジア

2017年12月4日

中国はハードインフラを中心に対カンボジア援助を積極的に展開しており、カンボジア産業政策も中国の援助に大きく依存している。一方、日本はハードインフラだけでなく、ソフトインフラにも援助を供与している。背景には日系企業が抱える投資環境の課題がある。

高まる中国の存在感

中国の対カンボジア援助が存在感を増している。経済協力開発機構(OECD)によると、依然として日本が二国間援助で最大のドナー国となっているが、カンボジア開発評議会(CDC)の政府開発援助(ODA)データベースによれば、OECDに援助拠出額の報告義務が無い中国の対カンボジア援助は2010年に約1億5,400万ドルと、日本の1億4,000万ドルを抜いて1位となっている(図参照)。中国は2010年以降、日本の約2~3倍の援助額を毎年供与している。2012年を境に減少傾向にあるものの、中国の援助額は飛び抜けて大きい。なお2017年10月現在で進行中の案件登録数は、日本が93件、中国が32件となっているが、案件数と援助額が比していないのは中国が道路、港湾などのインフラ整備・開発など大型案件を中心とした支援が多いためだ。

図:日中の対カンボジア援助実施額 (支出額ベース) (単位:100万USD)
中国の援助実施額は、2009年が1億1470万ドル、2010年が1億5410万ドル、2011年が3億3200万ドル、2012年が4億6070万ドル、2013年が4億3660万ドル、2014年が3億4780万ドル、2015年が3億3940万ドル、2016年が2億6530万ドルとなっている。一方日本は、2009年が1億3400万ドル、2010年が1億4000万ドル、2011年が1億1440万ドル、2012年が1億7230万ドル、2013年が1億3080万ドル、2014年が1億1140万ドル、2015年が1億1040万ドル、2016年が1億1970万ドルとなっている。

出所:カンボジア開発評議会 (CDC)

中国の対外援助戦略は三位一体モデルとも呼ばれ、援助が投資や貿易と密接に結びついている。中国援助はタイド、つまり自国の財やサービスの購入と援助が結びついている事例がほとんどで、中国の援助で建設されるインフラ設備は中国企業または中国企業と現地企業の合弁会社が請け負い、労働者も含め資機材、設備、技術、サービスなどの50%以上が中国から調達されている(注1)。

貿易統計を扱うデータベースGlobal Trade Atlas(GTA)でカンボジアの貿易総額を見ると、2000年以降増加を続け、2016年には2010年の約2.1倍となる224億4,000万ドルとなった。対中輸入額が2010年の11億8,600万ドルから2016年には45億5,100万ドルと約4.1倍に急増したことが原因だ。対内直接投資でも中国のプレゼンスは高い。カンボジア投資委員会(CIB)によると、経済特別区(SEZ)外での2016年の国別対内直接投資額(投資適格案件(QIP)認可ベース)では、中国が7億3,100万ドルと31.7%を占める。また、中国の投資累計額(1994~2016年)は、118億8,100万ドルと最も大きい。

増加する中国援助に反比例して、欧米ドナーの存在感は薄まりつつある。カンボジア政府の「開発協力とパートナーシップ報告書」によると、2007年から2014年のドナー地域別の援助額比率で、中国は11.9%から23.8%と大きく拡大する一方で、欧米ドナーは27.2%から20.9%と縮小している。

これに呼応する様に、カンボジアの欧米に対する外交戦略は強気な姿勢が目立つようになった。現地報道によると、フン・セン首相が欧米ドナーに対し「民主主義と人権の名の下にカンボジアに内政干渉している」などと発言している。さらに、カンボジア外務省が2017年4月に公表したレポート「To Tell the Truth」には、アメリカなど諸外国が援助をかさにカンボジア国内の人権問題や環境問題などを批判し、そのためにカンボジアの実態や歴史が歪曲(わいきょく)して国際社会に伝えられ、誤ったカンボジアのイメージを植え付けることに対する強い抗議が記されている。

産業政策も中国資金に依存

中国による援助はカンボジアの政策にも大きく関わっている。2015年3月に策定された「カンボジア産業開発政策2015-2025(IDP)」は、国の産業開発を促進するための政策フレームワークであり、経済の多様化、競争力強化、生産性向上を通して持続可能で包括的な経済成長を維持することを目的としている。IDPでは、投資環境を整えることで外資を積極的に受け入れること、中小企業やそれを支える人材を育成していくことで国内経済により大きな裨益(ひえき)が見込めるような産業開発を目指すことが強調されている。

CDCによると、IDPに対する2015年の国別拠出額で中国は約4,510万ドル、日本は約1,512万ドルとなっている。全体総額の約47.7%を中国からの資金が占めており、その貢献度は他ドナーと比べて抜きんでており、IDPは従来の欧米ドナーではなく、中国援助に大きく依存したものであることが見て取れる。実際、フン・セン首相はシアヌークビル周辺の経済特区への投資拡大を2015年5月に中国に要請。さらに2017年5月、中国は学校建設や農村地域の電気通信網整備資金を名目として総額約2億4000万ドルの支援を表明している。カンボジア経済に果たす中国の役割は非常に大きいといえる。

表:中国援助の事例(2017年:報道順)
4月 新サッカースタジアム建設
5月 経済・技術協力
東部での第2期高圧送電線敷設への融資
物流関連の能力開発への協力
インフラ整備と行動計画策定で協力
観光産業での協力
プレアケットメリア軍病院の能力拡張
7月 道路インフラ整備の建機・車両等供与
出所:
各種報道を基にジェトロ作成

ハード・ソフト両面のインフラ改善を

日本は国道1号線や5号線、シアヌークビル港などハードインフラの整備を進めてきたが、近年はソフトインフラの整備を重点分野の一つとしている。民法・民事訴訟法普及プロジェクトに代表される法整備支援や租税総局能力強化プロジェクト、関税政策・行政アドバイザー派遣、産業人材育成などが挙げられる。

背景には進出日系企業が抱える投資環境上の課題がある。例えば日系企業が多いカンボジア南部のベトナム国境の町バベットでは、通関費用が税関職員の裁量に左右されるところが大きい。そのため不透明な通関費用の計上が発生し、想定よりコスト高になることがしばしば起こる。国際協力機構(JICA)は、2021年までに貨物到着から引き取りまでを含む税関手続きの完全電子化の運用を目指している。ペーパーレスを実現し人が介在する機会を減らすことで、不透明な費用の発生を防ぐ狙いだ。

さらにJICAはカンボジアとベトナム両国の税関と協力し、対話の機会も増やしていく。筆者が2017年10月にヒアリングした日系企業は口をそろえて国境の交通渋滞を指摘した。カンボジア側国境は朝6時から午後9時半まで開いているが、渋滞が発生するのは夕方から翌日朝にかけて、ベトナムからカンボジアに向かう方面だ。朝6時~7時頃にベトナム側にトラックが国境に到着しても、バベット側に入ってくるのは夕方以降となる。カンボジア税関は「昼過ぎから急に車両数が増える」と主張するが、ベトナム税関は「朝と昼で通過車両数に差を設けているわけではない」とし、両者の主張は平行線をたどり、何も進展がない。両税関の対話の機会を増やすことで相互理解を促進し、渋滞の解決を目指す。

他方、自動車関連部品を製造する企業は、「ワーカーレベルはいても、スタッフレベルがいない」と指摘する。カンボジアにおいては人材育成も大きな課題だ。JICAは「産業界のニーズに応える職業訓練の質向上プロジェクト」など、現時点で6つの「教育の質の改善プロジェクト」を行っている。背景には上昇が止まらない人件費がある。2013年に80ドルだった最低賃金は2017年には153ドル、2018年には170ドルとなる予定だ。加えて電気料金の値上げなど、固定費の急激な上昇はチャイナ・プラス・ワンで進出した企業にとって頭を抱える問題のため、それに見合った人材の生産性向上が求められている。

中国を主とした諸外国の援助によって、道路・港湾などのハードインフラの整備はさらに進んでいるが、同時にそれを支える人や制度などソフトインフラの整備も必要だ。ハードインフラはもちろん、ソフトインフラの改善は、カンボジアでの活発なビジネス環境づくりの一助となるだろう。


注1:
下村恭民、大橋英夫、日本国際問題研究所編. (2013).「中国の対外援助」日本経済評論社.

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2017年12月7日)
2段落目
(誤)中国の対カンボジア援助額が増加している。
(正)中国の対カンボジア援助が存在感を増している。
10段落目
(誤)例えば日系企業が多いカンボジア南部のベトナム国境の町にあるバベットでは、通関費用が税関職員の裁量に左右されるところが大きい。
(正)例えば日系企業が多いカンボジア南部のベトナム国境の町バベットでは、通関費用が税関職員の裁量に左右されるところが大きい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。

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