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【中国・潮流】工場労働者の減少が意味するもの

2018年6月7日

中国は、世界で最も魅力的な投資先の1つだ。その中国でも、内陸部に位置する武漢は、日本企業からの投資が増え続けている都市の1つとして知られている。

投資先として武漢を選ぶ理由は、武漢の持つ将来性に加え、人件費などのコストが沿海部よりも相対的に低いためだ。だが、その人件費が武漢に影を落とし始めている。

ジェトロ武漢事務所の2017年度調査によると、当地の日系企業の一般労働者向け給与の引き上げ率について、「前年度比10%以上」との回答が全体の30%に達した。さらに「15%以上」との回答も4%となるなど、人件費の上昇傾向があらためて浮き彫りとなった。

もっとも、給与の上昇分がもたらす影響は、限定的だ。なぜなら、好調な企業業績に加え、中国では工場労働者の退職が一定程度あるため、この退職が給与総額の上昇を結果として抑制しているからだ。

ところが最近、退職率がとみに上昇している。また、条件の悪い工場などの場合、人を募集しても集まらなくなりつつある。人が集まらないのに人が辞めていくため、工場の操業に最低限必要な労働力の確保に苦しむ企業が増えている。

例えば、当地紙の「湖北日報」は2018年4月3日付の記事で、以下の3社の事例を紹介している。

  1. 中堅企業(電気電子部品)A社では、求人を何度も行っているが、人が集まらない。苦労して採用しても、2週間以内に退職する者が相次ぐという事態に陥っている。毎月の退職率は20%を超え、人事担当者は嘆息し、工場操業にも支障が出ている。
  2. レノボ(電気電子)の武漢工場では、求人コストが過去4年で9倍に上昇。武漢では求人募集にもはや十分な労働者が確保できないため、採用担当者は遠隔地まで人集めに奔走している。
  3. フォックスコン(電気電子)の武漢工場では、2018年3月に採用された社員140人のうち、半数が採用後20日以内に退職。退職理由は「残業が続き、嫌になったから」。退職した若者の1人が転職先として選んだのは、武漢市内の不動産会社の営業職だった。

ここで、浮き彫りになってきたのは、以下の点だ。

  • 工場など、きつい現場仕事は敬遠。
  • 条件が少しでもよいところがあれば、ちゅうちょなく転職。
  • 手当の増加だけでは、人を引き留めることが難しくなっていること。

求人しても人は集まらず、採用しても、手から砂がこぼれ落ちるように人が辞めていく。このような労働環境では、人手不足が慢性化するため、残業が増えることとなる。それが退職率を引き上げ、残されたスタッフの残業がさらに増えるといった悪循環に陥りやすい。 こうした悪循環を断ち切るのは容易ではないだろう。なぜなら、これらの背景には、経済発展に伴う人々の価値観の変化もあるからだ。

前述のフォックスコンの若者のように、働く人の願いは、今や単なる収入のアップではない。彼ら彼女らが求めているのは、家族や友人と過ごすかけがえのない時間であって、ささやかではあるが決してお金では買えない、人間的な幸せである。

中国の経済の発展とともに人々の価値観も変わりゆく中、企業も働き方に対する考え方を変えていく必要があるだろう。働く人の視点に立った「働き方改革」が、当地でも求められようとしている。

執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所 所長
古谷 寿之(こや としゆき)
1993年、通商産業省入省。経済産業省商取引消費経済政策課市場監視官、同大臣官房広報室海外報道班長を経て2015年7月から現職。

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