計画への積極参画を通じ、自らの発展「空間」の拡大を目指す(マカオ)
具体化に向かう広東・香港・マカオグレートベイエリア(粤港澳大湾区)計画(4)

2018年5月22日

マカオは、中国政府が推進する広東・香港・マカオグレートベイエリア(粤港澳大湾区、以下ベイエリア)計画の対象となる3地域の中で、面積、人口規模とも最も小さい。マカオは、ベイエリア計画を、経済発展のための空間を広げる「絶好の機会」と捉えており、積極的な参画を目指している。

ベイエリアと連携し、「一つのセンター、一つのプラットフォーム」構想を推進

国家発展改革委員会、広東省政府、香港特別行政区政府、マカオ特別行政区政府(以下、マカオ政府)の4者が2017年7月に締結した「広東省、香港、マカオの協力の深化、グレートベイエリア建設推進に関する枠組み協定」では、ベイエリア計画においてマカオが果たすべき機能・役割について以下のとおり明記している。

  • 世界的な観光レジャーセンターの建設の推進(一つのセンター)
  • 中国とポルトガル語国家との経済協力サービスプラットフォームの構築(一つのプラットフォーム)
  • 中華文化を中心に、多元的な文化が共存する交流協力基地を建設

マカオ政府は、「一つのセンター、一つのプラットフォーム」としての機能強化を図ることで、ベイエリア域内でのマカオの存在感の向上を図っていく方針だ。

マカオ政府の梁維特経済財政司長は、2018年4月9日に開催された「ボアオ・アジア・フォーラム」のベイエリア計画に関する分科会において、マカオが果たし得る役割について以下のとおり述べている。

  • 中国とポルトガル語圏、欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)などと精度の高いネットワークを構築することができるマカオの優位性を発揮し、ベイエリア域内への海外からの対内直接投資やベイエリア域内からの対外直接投資を支援する。
  • マカオ政府と広東省政府との協力を、マカオのベイエリア計画への参画の一つの切り口とする。具体的にはマカオ・広東省両政府による「粤澳合作発展基金」(後述を参照)の設置を急ぐ。
  • ベイエリア域内との協力を通じ世界的な観光レジャーセンターを構築し、共同で域内の観光サービスレベルの向上を推進する。
  • 「広東マカオ合作漢方薬科技産業園」(後述を参照)の建設を加速させ、ベイエリアの高品質の漢方薬企業・製品のマカオを通じたポルトガル語圏、EU、一帯一路構想沿線国の市場開拓を促進する。
  • ベイエリアと一帯一路構想沿線国・地域、特にポルトガル語圏の国々との文化交流・協力を促進し「中国ポルトガル文化交流センター」を推進する。

ベイエリア内でのマカオの発展「空間」拡大を目指す

マカオでは、香港同様「一国二制度」が適用されるが、土地空間上の制約もあり、マカオ域内のみで新たな発展の流れを創出するのが困難である。マカオの研究者は「経済的にみても、香港は自ら運営できる実体があるが、マカオはそうではない。カジノ以外の産業分野の多様化、土地資源の確保が喫緊の課題となっている」と指摘する。

実際、2017年末時点でマカオの面積は30.8平方キロ(香港は1,106平方キロ)、人口は65万人と、それぞれ香港の約36分の1、約11分の1にすぎない。1平方キロ当たりの人口密度は約2万1,200人と、世界的にも過密とされる香港(6,830人)の3.1倍に達している。マカオの研究者は「香港には(まだ開発の余地がある)新界(ニューテリトリー)地区があるが、マカオは開発できる土地が極めて少ない」と指摘する。

マカオ政府としては、ベイエリア計画や広東省との協力を通じ、同省内を中心にマカオの新たな発展空間を創造していく考えだ。

マカオには、広東省内への「空間」拡大の実績がある。中国の国会に当たる全国人民代表大会常務委員会は2009年6月、マカオに隣接する広東省珠海市横琴島内の1.0平方キロの土地をマカオ政府が2049年12月19日(マカオの中国への返還50年後)まで借り上げ、マカオ大学の新キャンパスを建設し、マカオ政府がマカオの法律に基づき同キャンパスを管理することを承認した。2013年には同大学の新キャンパスが完成し、地理上はマカオ域外の土地に「飛び地」が設けられた。


横琴島内に設置されたマカオ大学新キャンパス(ジェトロ撮影)

また、珠海市横琴新区には、広東省・マカオ政府の協力枠組み協定に基づき、マカオ側・横琴新区側双方が出資する合弁企業が運営する「広東マカオ合作漢方薬科技産業園」の整備も進みつつある。

さらに、広東省との間では、マカオ政府の財政備蓄を活用し、「適格海外投資事業有限責任組合(QFLP)」を通じて、広東省のインフラプロジェクトを中心に投資を行うための「粤澳合作発展基金」の設立準備を進めている。これを通じてベイエリア地域内のインフラ建設を促進し、マカオとベイエリア域内の連結性を一層高めたい考えだ。

その他、2018年半ばに予定されている港珠澳大橋の開通も踏まえ、マカオ政府は、マカオ住民の中国における移動面の利便性向上を目指し、中国政府との間で、マカオと中国の運転免許証の相互認証に向けた協議も進めている。

「ポルトガル語圏へのゲートウェイ」としての役割の発揮、「特色金融」を通じた発展空間を模索

カジノ偏重型の産業構造の転換は、マカオにとって大きな課題である。マカオの産業構造(2016年)をみると、国内総生産(GDP)全体に占めるカジノ産業の比率は47.2%を占めている(図参照)。雇用面では、就業人口(38万人:2017年)のうち、カジノおよびカジノ仲介業の雇用者数は8万人に達している(注)。

在マカオの研究者は「香港は国際金融センターとしての確固たる地位を築いている。マカオが香港と同じ方向を目指しても仕方がない。香港が対象としていない分野での発展チャンスを模索している」と述べる。

図:マカオのGDP構成比 (2016年)
マカオのGDPの構成比をみると、大きい順からカジノが47.2%、不動産が10.6%、公共行政・教育・医療・衛生が10.5%などとなっている。
出所:
マカオ政府統計・センサス局

香港とは異なる役割の追求として、マカオは、前述の漢方薬分野に加え、「MICE」(会議、インセンティブ旅行、国際会議、展示会・見本市、イベント)産業、香港とは重複しない独自の金融分野を指す「特色金融」の発展を目指している。

「特色金融」について、マカオが目指す主な発展分野は「ファイナンシング・リーシング業」「資産管理」「中国とポルトガル語圏の人民元決済プラットフォーム」である。2017年12月には、マカオ金融管理局が中国銀行業監督管理委員会との間で「マカオにおける特色金融の発展に向けた協力覚書」を取り交わした。中国のファイナンシング・リーシング企業のマカオへの進出、中国の金融機関のマカオでの資産管理業務の展開、マカオにおける中国とポルトガル語圏の人民元による決済プラットフォームの発展などが盛り込まれた。

在マカオの有識者はファイナンシング・リーシング業については、「中国における生産能力過剰問題の解決やサプライサイド改革にも資すべく、中国国内で生じた巨大な生産過剰を、リースという方法を活用して、マカオを通じて外に『輸出』することを想定している。その中でマカオが金融面での役割を担う」と話し、人民元決済プラットフォームについては「ポルトガル語圏国家に対する中国の日用品、工業品の輸出、ポルトガル語圏からの資源の輸入などを人民元にて決済できるプラットフォーム作りを目指している」という。

その他、中国企業の対外投資促進に向けて、マカオ政府は、中国国家開発銀行と連携して2017年6月、「中国ポルトガル合作発展基金」を設置。ポルトガル語圏に向けた中国企業の投資などについて、出資・融資などを行うプラットフォームとしての機能発揮を目指している。

ポルトガル語圏と中国とのビジネスマッチングの拡大も目指している。マカオの貿易投資促進機関である「マカオ貿易投資促進局」は、ポルトガル語圏とマカオとのパイプを中国とのビジネス連携拡大にも活用すべく、2017年から広東省をはじめとする中国各地で「ポルトガル語国家製品ビジネス商談会」を開催している。

香港にはない「ポルトガル語圏とのネットワーク」を活用し、香港と重複しない分野の発展を目指しつつ、陸続きで隣接する広東省との融合による発展を目指すのが、ベイエリア計画の中におけるマカオの当面の発展の方向性といえそうだ。

なお、マカオ政府統計・センサス局は2018年3月、ウェブサイト内に、ベイエリアに関する統計特集統計ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を設けた。参照されたい。


注1:
在マカオの有識者によると、間接雇用を含めるとカジノ産業の就業者は25万人に達しているという。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所 次長
中井 邦尚(なかい くにひさ)
1996年、ジェトロ入構。清華大学留学(2000~2001年)、ジェトロ・北京事務所経済信息部長(2002~2008年)、本部海外調査部中国北アジア課課長代理(2008~2012年)、ジェトロ・成都事務所長(2014~2015年)などを経て、2015年9月より現職。