海外における日本産食材サポーター店認定制度

日本産食材サポーター店インタビュー 露結

ロンドンの本流懐石料理。
料理を通して日本の真髄を発信

所在地:ロンドン(英国)

大将の夢を叶えるために海外へ

オーナーシェフの林氏は、ユネスコ無形文化財遺産登録にも尽力された京都の料亭「菊乃井」3代目村田氏のもとで修行、菊乃井赤坂店の新規開店時に副料理長を務めた。2008年には北海道洞爺湖G8サミットにおける日本料理の責任者として従事した際に海外での話を持ち掛けられ、村田氏に相談したところ「これから日本料理は世界に行くときやから、お前は海外に行ってこい」と、師匠の夢を叶えるということもあり、和食文化の普及と教育をミッションに海外での挑戦を決意した。その他、JAL欧米発のビジネスクラス、ファーストクラスの機内食を監督、2020年には農林水産省より日本食普及の特別親善大使に任命された。
2021年にロンドンの中心部にオープンした露結は、内装においても本物を伝えるために数奇屋づくりの設計で世界的に有名な中村外二氏のご子息の会社に依頼、京都で100年以上保存されてきた日本産の檜や様々な木材を利用し、日本から職人さんに来てもらい施工した。入口に掛けられた「京料理」の看板は、菊乃井本店で使用していたものを村田氏から譲り受けた。

ほんまもんで勝負

メニューが月ごとに変わる懐石コース料理を楽しみに毎月来店する客もいるそうだ。「客の人種はそれぞれです。アメリカなどからも来ます。客の9割が日本へ行ったことがあるなどで日本料理をよく知っている人なので、日本で提供されている料理と同等のレベルを期待されています。だからこそ手が抜けないというか、そのやり方が当たっています。最初は正直本流の京料理が受けいれられるか不安でしたが、日本と同じレベルのものを求められていることがわかりました。いらっしゃるお客さんもハイクラスの方ばかりなので、やっぱり良いものを見ているでしょうし。本物の価値をわかってもらえている。やるからには一流の方とやらせていただきたいと思いますし、自分自身もそのようにやっているので高みを目指さなければいけない、自分に対して節制をしてそういう柱みたいなものをもってやっています。」と林氏。現地客の好みに合わせることはなく、本物を伝えるため、定式をきっちり守り器も日本から取り寄せたものを使用している。苦労ばかりだったが、日本食文化をちゃんとした形で提供するミッションをもち、あきらめずにやってきたから今があるという。

手に入らない食材があってもどうやったらできるかを考える

料理は科学なので、どこの国でも素材があれば作れるという。「何がないから作れないということはなく、考え方なんです。できないことは「あかん」なのですよ。」と、林氏。例えば醤油がなかったら醤油の代わりに何を使うか、今何ができるかを考えるマインドは修行時代から培った。
出汁はたくさん使うので、昆布は菊乃井から、鰹節は日本から輸入できないのでスペイン産の日本の鰹節を使用。野菜については今月(インタビューを実施した8月)で言えば、みょうが、木の芽、青ゆず、もずくなどを空輸で日本から仕入れた。ヨーロッパ産の野菜を使うことも多い。魚は日本の方が種類はあるが、鮮度が命なのと、日本から輸入する場合、HACCP対応の養殖のものになってしまうこともあり現地で仕入れているそうだ。

日本酒とのペアリング

林氏いわく、「大吟醸と吟醸の違いも分かっているような顧客が多く、日本料理には日本酒というイメージがあるのかと思う。ウィスキー等もあるが断然日本酒が多いです」。同レストランにはソムリエが常駐しており料理とのペアリングもやっている。アルコール飲料のメニューにリストアップされている日本酒の種類は約60種類、ワインは約500銘柄。古くからワインの一消費大国であるイギリスでは日本食レストランにおいても比較的ワインが良く飲まれるが、露結においては日本酒を希望する客が多い。

日本食のすばらしさを食育でつなぐ

イギリスでは、成人の4人に1人以上が肥満であり、子どもの頃から取り組むべき社会問題とみなされている。過去、林氏は在英日本大使館のプロジェクトの一環としてパブリックスクール(全寮制私立中高一貫校)で、食育のワークショップや講義を実施した。林氏にはレストラン一店舗の運営だけでなく、学校給食に和食を入れたいという夢がある。ブランドを確立して学生や子供向けの食堂を展開するため、今は一歩ずつやっているそうだ。「舌の感覚は小さいころできあがるので、食べるものってとても重要だと思います。日本食は、欧米料理に比べたら使っている食材の数も断然に多く、バターもクリームも使わなくてもできるんです。揚げ物なくしたらカロリーは更に低くなります。その上、うま味を軸として料理が構成されているため、塩や油でカバーしなくても満足感を得られる料理で、これほど体にいい料理はないんです」。それに加えて、一汁三菜というヘルシーで理にかなっている日本食の形態をイギリスの給食に入れることを目標に、まずはハイエンドの層から攻めるべく、大使館とタッグを組み普及活動に励んでいる。

懐石を通して伝えたいこと

懐石料理にある節句の要素で季節を味わってもらい、日本の文化や風習を感じてもらうのが林氏のミッションだという。「日本食には味や視覚要素以外にも文化や風習的な要素も大きな意味があり、それを表現するためには懐石料理が必要でなんです。レストランってアミューズメントパークと言いますか、食事だけではなく、器も、サービスも、全体なんです。そして日本の食文化って精神的なものが往往にしてある。食べるということの概念が外国とは違いますから。まず食材は神様からの頂きものというものが全体にあり、神様からいただいたものに極力手を加えずに素材を生かすという観念がある。食べ物に対する感謝の気持ちなどを含めて、このような話は興味がある人には説明しています。」と林氏。例えば、6月には初夏を感じてもらうよう、日本から仕入れた青梅をワインで炊いて先付を出し、9月の重陽の節句では菊を使った料理を出した。京料理の素晴らしさやおもてなしの心で訪れる客を魅了することに加え、懐石料理の心を通して日本の精神を伝えている。