海外における日本産食材サポーター店認定制度

日本食材サポーター店インタビュー Premium Japanese

究極の和食には究極の調味料

所在地:ブタペスト(ハンガリー)

究極の和食には究極の調味料を

欧州の舌の肥えた富裕層に、最高の日本食を提供するには何が必要だろうか。まず、季節に合わせた新鮮で質の高い食材なしでは語れない。シェフの調理技術の高さや美的感覚ももちろん必要だ。では、調味料はどうだろう。

欧州で手に入る食材の種類は、ここ10年ほどで格段に増えた。和食調理技術を学ぶ人も増えてきた。しかし醤油など伝統的な調味料に関しては、まだまだ発展途上だ。

本職はシェフであるシャームション・バコニ氏とビジネスパートナーのダーニエル・セーケィ氏は、そこに風穴を開けることこそが商機につながると考え、Premium Japanese Food Trading Co.(プレミアム・ジャパニーズ・フード・トレーディング)を2023年に共同で立ち上げた。

国内外の高級レストランで経験を積んだバコニ氏は、立ち上げに至った経緯をこう語る。「ヨーロッパには、オリーブオイルだったらものすごく沢山の種類があります。なのに醤油となれば、手に入るのはわずか数種類で大衆向けのものだけ。私たちは、スーパーでは手に入らない、伝統ある日本の製造業者から調達した調味料を提供したいと考えています」。

8種類の必要不可欠な調味料

こうした考えに基づき、Premium Japaneseは厳選された調味料を“The Ultimate Japanese Pantry Box (究極の和食調味料ボックス)”という名の箱に詰めて販売することを計画している。ボックスの価格は付加価値税およびEU域内輸送料を含めて499ユーロ で、次の8種類から成る:

  • 濃い口しょうゆ
  • 薄口しょうゆ
  • 白みそ
  • 本みりん
  • 純米酢
  • かつおぶし
  • 利尻昆布
  • 日本酒

これらは、かつおぶしを除いて、すべて日本の業者から輸入している。

調味料を選んだのは、バコニ氏。本格的な日本食を作るならば、これだけはきちんと揃える必要があると話す。

バコニ氏は外国人料理人向けの日本料理の調理技能認定制度「Taste of Japan」に基づき、日本料理の知識と技能のコースを受け、2022年に認定証を得ている。このコースを通して、美味しい日本食の基礎となる調味料の奥深さと重要さを学んだ。

この制度は日本の農林水産省が日本食と食文化の海外発信を強化するために行っているもので、同省によると2023年3月までに認定を得た外国人は合計2,422人。認定には3段階あり、ゴールドは22人、シルバーは976人、ブロンズは1,424人である。ハンガリーで認定を受けたのは、バコニ氏を含めてブロンズ4人のみとなっている。

ターゲットは高級クルーズ船

Premium Japaneseがターゲットにしている市場は、地中海をクルーズするプライベート船のオーナーやそこで働くシェフたち。バコニ氏自身がこうしたスーパーヨットで現役シェフとして活動しており、業界でコネクションがあるからだ。

ヨットシーズンは通常3月から10月くらいまでで、その間には約1万隻が周遊する。うち、2,000~3,000隻は、「スーパーヨット」や「メガヨット」と呼ばれる富裕層が所有する大型クルーザーである。

現在は、来春のヨットシーズンに向けて販売促進活動を展開中。最初の年の販売目標は、500箱。これらのクルーズ船の0.5%にあたる。中期的には1,000箱までの増加を狙う。

調味料セットが重厚な箱に入っているのも、富裕層を念頭に置いているからだ。ただ同時に、箱が大きすぎるという反応もあったので、ギフトとして売りに出すことも検討している。

バコニ氏とセーケィ氏は高校の同級生で、実はこれまでにもいくつかの事業をふたりで立ち上げた。これはどうか、あれはどうか、とアイディアを次々に持ちかけるのはバコニ氏で、判断するのは実業家として経験豊かなセーケィ氏。Premium Japaneseで財務、経営面を担当しているのもセーケィ氏である。

「シャームションのアイディアには、たいていはNo、No、Noと言うんですが、今回はYesと言ったんです。」とセーケィ氏は笑いながら振り返る。「彼が、顧客のために最高の日本食を作ろうとしているのに、ヨーロッパのどこを探してもちゃんとした調味料が手に入らない、と嘆いてきました。スーパーヨットのシェフをする彼がそう言うなら、本当にそうだろうし、どうにかしなければと。そして彼はものすごく真剣だったのです。それならいっしょにやろう、となりました。」

ふたりは、この事業での第一の目標は当然のことながら利益を出すこととしながらも、同時に、外国人シェフに本物の和食を広げることにも注力したいとしている。そのため、Premium Japaneseのウェブサイトでは、登録した人に、それら調味料を使った料理の基本レシピ30点ほどを無料で公開している。

サプライヤー側の体制改善に期待

日本から調味料を実際に調達するのはかなり大変だとバコニ氏とセーケィ氏は言う。

1つにはEUの衛生・食品規制基準の厳しさがある。例えば、日本製の鰹節をそのまま輸入するのはほぼ不可能。Premium Japaneseはフランスで日本の製法に近い形で製造する枕崎フランス鰹節 から仕入れている。

もう1つは、日本側サプライヤーの問題。輸出するだけの準備ができていなかったり、英語でのやり取りが難しかったりすると指摘する。

サプライヤー探しには、ふたりはまず、ジェトロが運営するJapan Streetを利用した。これは海外に販路を開拓したい日本事業者の商品のオンラインカタログサイトで、ジェトロにより基準を満たすと判断され招待された海外バイヤーだけが閲覧できる。しかし、掲載されていた調味料の大半は、欧州に輸出できる状況にはなかった。

そのためジェトロに直接サポートを求めたところ、200点ほどの候補企業リストを入手でき、続けてサンプルの送付を求めたところ、最終的に34社が対応可能と回答してきた。

セーケィ氏によると、送られてきたサンプル自体も英語の説明が不十分であったり、説明書があってもラベルは日本語のみで、どの説明書がどの商品のものなのかを見極めるのが難しかったりした。

セーケィ氏からは「ジェトロは懇切丁寧に対応してくれましたが、そもそもEUに輸送できる体制や、海外バイヤーとのやり取りができるスタッフを備えていないサプライヤーが多いと感じました。今後、そのような状況が改善されることを願っています。」とのコメントもあった。