安全保障貿易管理におけるイラン向け輸出許可取得の要否について

質問

イランに輸出する商談をしていますが、輸出に際しては特別の輸出許可が必要と聞きました。その内容と手続きを教えてください。輸出品目は例えば、ベアリングおよびその部品です。

回答

国際的な平和と安全の維持の観点から、大量破壊兵器の拡散防止や第三国への通常兵器の過剰な蓄積等を防止するため、ワッセナー・アレンジメント等の国際的な輸出管理の枠組み(レジーム)[注] や関係条約に基づき、各国で輸出管理が行われています。日本では、このような国際約束を履行するために、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)やその政令等に基づき、貨物の輸出や技術(プログラムを含む)の提供を規制・管理しています。

[注] 国際輸出管理レジームには、以下の5つがあります。

  1. 通常兵器とその開発等に使用されるおそれのある汎用品・技術を規制対象とする「ワッセナー・アレンジメント」(WA)
  2. 核兵器を規制する「原子力供給国グループ」(NSG)
  3. 化学兵器・生物兵器関連を規制する「オーストラリア・グループ」(AG)
  4. ミサイル関連の「ミサイル技術管理レジーム」(MTCR)
  5. 核拡散防止条約(NPT)の具体的範囲について協議を行う「ザンガー委員会」(ZC)

I. 我が国の安全保障貿易管理体制

安全保障貿易管理の規制方法には、特定の貨物や技術に関する「リスト規制」と、主に需要者と用途に関する「キャッチオール規制(補完的輸出規制)」の2つの制度があります。

  1. リスト規制とは、国際輸出管理レジームで合意された、a. 通常兵器やその技術、b. 軍事用途にも転用可能な高度の汎用品(貨物・技術)を規制するもので、全世界を対象としています。貨物については、輸出貿易管理令(輸出令)別表第1の1の項から15の項の品目が、技術(プログラムを含む)については、外国為替令(外為令)別表1の項から15の項に記載されているものが、規制対象になります。技術仕様(スペック)は貨物等省令(「輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」)に規定され、該当するものは必ず、経済産業大臣の「輸出許可」が必要です。
  2. キャッチオール規制とは、リスト規制品目以外で、大量破壊兵器等の開発等および通常兵器の開発等に使用されるおそれのあるもの(ただし、食料品や木材等の一部品目を除く)を規制し、輸出貿易管理令別表3に掲げる国・地域(上記5つのレジームに参加し、かつ輸出管理を厳格に実施している米国、EU諸国等の26カ国)を除く全地域が対象です。品目の用途や需要者客観要件および経済産業省から通知を受けた場合のインフォーム要件に該当する場合に経済産業大臣の輸出許可が必要になります。
    経済産業省:補完的輸出規制(キャッチオール規制等)輸出許可申請に係る手続きフロー図PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(265KB)

II. 輸出許可の該非判定

本ケースに関して、「該非判定」(輸出許可が必要か不要かのチェック)を例示すると、次のとおりです。

  1. まず、リスト規制について、輸出令別表第1の中で、「軸受」(ベアリング)を探していくと、6の項(1)に「軸受またはその部分品」が出てきます。この「軸受またはその部分品」の仕様は貨物等省令の第五条第一号に規定されていますので、これと輸出しようとする貨物の仕様を対比し、6の項(1)に該当するかどうかをチェックします。この項の「部分品」は他の用途に用いられるものも対象になります。このほかにも、別表第1の4の項(5)に「サーボ弁又は推進薬の制御装置に使用することができるポンプ若しくはこれに使用することができる軸受」などの規制があります。これらのチェックの結果、該当すれば、輸出許可の申請をしなければなりません。
    経済産業省:安全保障貿易管理 貨物・技術のマトリクス表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
  2. 該当しない場合は、キャッチオール規制に進みます。当該貨物はキャッチオール規制の対象であり、イランは輸出令別表第4の「懸念3カ国」(イラン、イラク、北朝鮮)の1つなので、慎重な対応が望まれます。具体的には、客観要件、すなわち、需要者要件(=輸出品目の需要者が核兵器等の開発等を現在行い、または過去に行っていたこと)と用途要件(=輸出品目が核兵器等の開発等およびその関連性のある行為に用いられること)をチェックしていき、該当した場合は許可申請が必要です。また、経済産業省から輸出許可を取得するよう通知された場合(インフォーム要件)にも許可申請が義務付けられます。さらに、経済産業省が発表している「外国ユーザーリスト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(最新版)に取引先の名前が掲載されているか否かについてもチェックする必要があります。 また、通常兵器キャッチオール規制については輸出令別表第1の16の項(1)4「軸受又はその部分品」についてインフォーム要件に該当する場合は許可が必要です。
    前述のとおり、イランは懸念3カ国の1つですので、包括許可および少額特例は適用されず、全て個別許可申請となります。

    さらに、「国連安保理決議第1540号」(大量破壊兵器等の不拡散に関する決議)を受けて、政省令が改正され、「仲介貿易取引」や「積替再輸出」にかかる貨物が、大量破壊兵器等の開発等のために使用されるおそれがある場合も、許可対象になりました(2007年6月1日施行)。
    「仲介貿易取引」については、その後の「外為法改正」(2009年11月1日施行)に伴い、規制対象範囲が従来の「貨物の売買」に関するものから、「貨物の売買、貸借または贈与」に関するものに拡大されています。
    なお、許可申請先は、経済産業省貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易審査課です。詳細については、文末のURLをご参照ください。
    関連法令は随時見直しが行われますので、最新法令等を参照することが重要です。

[特記事項]
国際連合安全保障理事会決議第2231号に基づくイラン向け大量破壊兵器等関連貨物の輸出等について(経済産業省)

2015年7月20日、国際連合安全保障理事会(以下「国連安保理」という。)において、イランの核問題に関する国連安保理決議第2231号が採択され、2016年1月16日に、同決議において、イランとEU3+3が発表した「包括的共同作業計画」の定める「履行の日」に効力を生ずる日が到来したことを受け、国連安保理決議第2231号に基づき、イラン向け大量破壊兵器等関連貨物の輸出等について、経済産業省は下記のとおり取り扱う旨通達した。なお、「国際連合安全保障理事会決議第1929号等に基づくイラン向け大量破壊兵器等関連貨物等の輸出禁止措置について」(2010・07・22貿局第5号)は、廃止となった。
以下詳細内容です
イラン向けの輸出貿易管理令別表第1の2の項及び4の項に掲げる貨物の輸出又は外国為替令別表の2の項及び4の項に掲げる技術の提供については、国連安保理等の事前の承認手続き等が必要となる場合がありますので、申請に先立って、経済産業省貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易審査課へ問い合わせてください。なお、国連安保理等の事前の承認手続き等が必要となる場合には、1999年6月18日付け「輸出許可・役務取引許可・特定記録媒体等輸出等許可に係る審査期間等について(お知らせ)」中の審査期間が90日を超える場合がありますのでご注意ください。
附 則
この通達は、2017年1月22日から施行する。

関係機関

経済産業省 貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易審査課 安全保障貿易管理外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(TEL 03-3501-2801)
一般財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (TEL 03-3593-1147)
日本機械輸出組合(JMC) 貿易業務相談・研修室外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (TEL 03-3431-9880)

関連法令

法令データ提供システム(e-Gov):
輸出貿易管理令(輸出令)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
外国為替令(外為令)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

参考資料・情報

経済産業省:
安全保障貿易管理ハンドブックPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.61MB)
一般財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC):
該非判定支援サービス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ジェトロ貿易・投資相談Q&A:
輸出における安全保障貿易管理規則該非の確認方法:日本
安全保障貿易管理とコンプライアンス・プログラム(CP):日本

調査時点:2012年9月
最終更新:2020年3月

記事番号: A-A21243

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