輸出代金のL/C決済におけるB/L直送要求:日本

東南アジアにL/C決済条件で輸出をしていますが、B/L(船荷証券)原本3通のうち1通を輸入者に直送するよう要求がありました。この場合、輸出者はどのような点に留意したらよいのでしょうか。

B/Lの原本(オリジナル)は通常3通発行され、「いずれか1通使用されると、残りは無効になる」旨記載されています。B/Lの直送は輸入者・買取銀行双方にとりリスクがありますので輸出者は原則としてB/Lの直送要求を受けないほうが安全です。

I. B/L直送の背景

近年、国際輸送の高速化に伴い、特にアジア諸国では貨物がB/L(船荷証券)より早く輸入地に到着するケースが増えています。これを「船荷証券の危機(B/L Crisis)」と呼びます。荷受人である輸入者は、B/L原本が届くまで貨物を引き取ることができませんのでデマレージ等の追加コスト発生してしまう可能性があります。そこで、輸入者が経費節減や取引迅速化のためB/L原本の直送を輸出者に要求するケースも増えており、これに伴うトラブルも増加しています。直送したB/Lで輸入者が貨物を引き取ってしまうと、輸出者を含む輸入者以外が持っているB/Lには価値がなくなってしまいます。

II. B/L原本を直送する場合の輸出者のリスク

L/C決済でB/Lを1通でも銀行を経由せず相手に送る行為は、貨物の銀行への担保機能というB/Lが本来持つ役割を失うことになるため、銀行によっては、買い取りをしないこともありえます。
意図的にディスクレを理由にして輸入者から支払いを拒否されたり、L/C発行銀行の倒産により決済がなされないまま、貨物は直送されたB/Lで引き取られてしまう可能性があります。また、仮に貨物が引き取られていなくても、すでにB/L原本が相手先にある限り、残りの原本で貨物の所有権を主張することは事実上難しくなります。つまりL/C取引の本来的な意味が失われ、掛け売りと同じことになってしまうのです。輸入者が倒産すれば代金や貨物の回収は事実上あきらめざるを得ないでしょうし、その他のトラブルに巻き込まれる可能性もあります。なお、L/CがB/L直送を認めていてもL/C発行銀行はその他のL/C条件に合致しない書類を拒絶することができます。

III. B/L直送要求への次善策

これらのリスクを考慮すれば、輸出者は原則としてB/Lの直送要求は受けないほうが安全です。 そこでB/Lを直送する代わりに、次のような方法を検討します。

  1. 保証状(L/G)による貨物の引き渡し

    輸入者が後日原本を提出することを条件に保証状(L/G)を船会社に差し入れて貨物を受領する方法で、通常船会社はL/C発行銀行の連帯保証を要求します。L/Gを入れれば貨物の引き取りは可能で、輸入者側での対処で済むので、B/Lを直送する必要はなくなります。
    ただし、輸入者側の信用度の低さから銀行が連帯保証を拒否する場合があります。このようなケースでB/L原本をたとえ1通でも輸入者に直送することは、銀行の与信すら受けられない会社に対して代金決済前に貨物を渡すという行為になりかねません。したがってそれなりの覚悟を持って、輸入者の要求の背景、御社との関係などを十分に考慮した上で判断してください。

  2. B/Lの代わりに、海上運送状(Sea Waybill: SWB)の荷受人を記名式でL/C発行銀行とする方法も使われます。この場合、本来の荷受人である輸入者は銀行に貨物引渡指図書(Release Order: R/O)を発行してもらい、それに対し運送人がデリバリー・オーダー(Delivery Order: D/O)を発行することで、貨物を引き取ることができます。SWBを信用状で用いることは、信用状統一規則でも認められた方法の一つです。

  3. 貿易保険(輸出手形保険)を付保することで、銀行に買い取りを依頼する。

    B/L原本の1通直送は、買取銀行の自行債権保全のため、買い取りに応じないか、または別途の担保等を必要とする場合があります。しかし日本貿易保険(NEXI)の輸出手形保険は、L/C付き、運送書類の一部送付等であっても付保が可能です。銀行はこれにより保険金を受け取ることができ、債権保全ができますから、取引先銀行と相談し、付保を条件に買い取りを依頼することも選択肢の1つです(輸出手形保険運用規程参照)。ただし、この保険を付保するためには、関係者およびL/Cが満たさなければならない条件がありますので、日本貿易保険や関係者の取引先銀行などと事前に相談することをお勧めします。

  4. B/Lの元地回収(サレンダードB/L)

    そのほか、発行されたB/L原本を直ちに船積み地の船会社に返却するサレンダードB/L方式もあります。ただし、サレンダードB/Lは実務慣行として行われていても法的な裏付けはなく、代金支払いの確認以前に輸入者が荷物を引き取れるという意味では、B/Lの直送と同様のリスクがあります。そればかりか荷揚げ地ではB/L原本の提示を行わないためトラブルが発生することがあります。L/C取引の場合は銀行と事前によく相談してください。


関係機関

参考資料・情報

株式会社日本貿易保険:
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貿易保険規程集外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

ジェトロ貿易・投資相談Q&A:
船荷証券未着時の荷物引取保証:日本
サレンダードB/Lと海上運送状(Sea Waybill)の違い
サレンダードB/Lの仕組みと留意点:日本

調査時点:2017年1月
最終更新:2017年9月

記事番号: A-A10831

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