小口貨物の通関制度:マレーシア

質問

マレーシアの小口通関制度について教えてください。

回答

I. 個人・小口貨物の通関制度

1967年関税法(Customs Act 1967)は、「通関」とは、「 (a)家庭での消費に供する、(b)輸出する、または(c)他の通関手続に付すための貨物の通関手続を完了すること」と定義しています。課税、非課税を問わず、輸入手続きには、税関への輸入申告書(Customs Form No.1)、インボイス、パッキングリスト、原産国証明書(該当する場合)、B/LまたはAir Waybill(AWB)、およびその他の関連書類の提出が必要です。
また、商品によっては、関税法に基づき、投資貿易産業省(MITI)などの許可証発行機関(PIA)が発行する輸入許可証の取得が必要となる場合があります。

  1. 小額貨物の簡易通関制度
    一定の条件を満たす小額貨物には、「Electronic Pre-Alert Manifest」(ePAM)と呼ばれる簡易な通関手続きが認められています。特に航空便による小口貨物の輸入に対して、通関手続きの簡素化と迅速化を図る仕組みです。この制度では、ライセンスを受けた航空貨物取扱事業者が、貨物到着前に通関情報を電子的に税関に提出することで、即座に貨物が引き渡され輸入申告の提出が不要となり、通関処理の効率化につながっています。
    ePAM制度において、以下の条件を満たす貨物は、輸入申告なしで即時通関が認められます。
    • 書簡または文書に分類される品目であること
    • CIF価格が500リンギ以下
    • 各梱包の重量が30kg以下
    • 規制対象外の貨物であること
    • たばこや酒類などの免税対象外品目に該当しないこと

    なお、2024年1月より、国外から電子商取引(EC)を通じて購入された500リンギ以下の小額貨物に対しても、10%の売上税が課されています。

    この改正により、従来非課税だった小額オンライン輸入品も課税対象となりました。ePAM制度による簡易通関の対象となる貨物であっても、EC経由で購入された場合には売上税が課される可能性があります。

  2. 旅具通関制度
    1. 概要
      旅行者が自己利用範囲と認められる貨物は、基本的に免税扱いとなります。旅行者が免税範囲を超えて輸入する場合は、超過分のみの申告の義務を負います。
      マレーシアに入国する個人とともに輸入される物品、または非営利目的で手荷物として持ち込まれる物品(自動車、アルコール飲料、スピリッツ、たばこ、タイヤ、チューブを除く)の関税/税率は、2022年関税令(Customs Duties Order 2022)および2018年売上税(税率)令(Sales Tax (Rate of Tax) Order 2018)で指定されている関税/税率に基づいて決定されます。
    2. 免税範囲
      1. ワイン、スピリッツ、ビール、モルト酒:1リットル以下
      2. 新品衣類:3着以下、新品履物:1足以下
      3. 食品:150リンギ相当以下
      4. 電気または電池で稼動するパーソナルケア用品および衛生用品:1ユニット
      5. その他物品(タイヤ、チューブ、たばこ、たばこ製品、電子タバコなどを除く):500リンギ以下(航空機以外の方法で入国する場合)、または1,000リンギ以下(航空機で入国する場合)
    3. 現金・無記名譲渡性証券 (CBNI)の申告
      出入国旅行者が、現金および無記名譲渡性証券(Bearer Negotiable Instruments, BNI)を合計で10,000米ドル以上所持している場合、税関への申告書(Customs Form No. 7)の提出が必要です。また、マレーシアリンギを輸出入する旅行者については、マレーシア中央銀行(BNM)からの書面による許可を事前に取得する必要があります。
  3. その他の留意点
    輸入許可申請当事者が輸入通関の手続きを通関業者に委任する場合、委任できるのは各地の税関長官が承認した通関業者に限定されます。
    マレーシアへの輸入が禁止または制限される物品は、2023年関税(輸入禁止)令(Customs (Prohibition of Imports) Order 2023)に規定されています。

II. 一時輸入制度(Temporary Import Facility:TIF

以下の条件を満たす場合は、一時輸入制度(TIF)として税関への輸入前申請により免税で輸入することが可能です。

  1. TIFの適用条件
    1. 輸入日より3カ月以内に再輸出すること(ただし最大12カ月まで延長可、更なる延長は輸入地の税関長の許可が必要)
    2. 税関長の許可なく、輸入した商品をリース、販売し、あるいは所有者の変更、廃棄処分をしないこと
    3. 2017 年関税(輸入禁止)令および2017 年関税(輸出禁止)令の対象となる商品については、ライセンスおよび許可証を提出する必要があること
    4. 再輸出する商品が輸入時の商品と同一であること
    5. 輸入する商品が、研究・実証、演劇、音楽、サーカスなどの展覧会・ショー、ゲーム、スポーツ、会議、カンファレンスまたは同様のイベント、評価・テスト、修理を目的とするものであること
  2. TIF申請に必要な書類
    インボイス、パッキングリスト、B/LまたはAir Waybill(AWB)、エンドユーザーによる検証証明書、展示会出品物の場合はMITIの承認書、展示会スケジュール、展示会運営者からの証明書などが必要です。
  3. TIFを利用する際の留意点
    1. 申請は物品の輸入前に、輸入地の州の税関に行う必要があります。
    2. 関税と同額の担保(一般的に銀行保証〔Bank Guarantee〕)が必要です。担保は、承認された一時輸入期間全体を適切にカバーするものである必要があります。また、当該担保の返還を申請する際には、輸出が完了したことを証明するために、税関への申告書(Customs Form No. 2)の提出が必要です。
    3. 物品により、各所轄官庁の許可およびライセンスが必要となり、取得した許可書及びライセンスの添付や、その他の諸条件が適用される物品もあります。

なお、マレーシアはATA条約に加盟しているため、ATAカルネを使用し、免税で一時輸入することもできます。文末の「一般社団法人日本商事仲裁協会:ATAカルネについて」を参照ください。

関係機関

マレーシア税関(Royal Malaysian Customs Department)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
投資貿易産業省(Ministry of Investment, Trade and Industry(MITI))外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
マレーシア貿易開発公社(Malaysia External Trade Development Corporation)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

関係法令

1967年関税法(Customs Act 1967)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(647KB)
2022年関税令(Customs Duties Order 2022)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(24.9MB)
2022年売上税(税率)令(Sales Tax (Rates of Tax) Order 2022)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.8MB)
2017年関税(免税)令(Customs Duties (Exemption) Order 2017)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(803KB)
2023年関税(輸入禁止)令(Customs (Prohibition of Imports) Order 2023)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.4MB)

参考資料・情報

マレーシア税関:
旅行者ガイド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
電子事前アラートマニフェスト(Electronic Pre-Alert Manifest (ePAM))外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
一時輸入制度(Temporary Import Facility (TIF)) 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
税関所在地外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
関税令一覧外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
一般社団法人日本商事仲裁協会:
ATAカルネについて外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ジェトロ:
貿易・投資相談Q&A「一時輸入制度:マレーシア

調査時点:2015年10月
最終更新:2025年10月

※本記事は、日本貿易振興機構(ジェトロ)クアラルンプール事務所が中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業による調査として、TNY Consulting (Malaysia) Sdn Bhdに委託し、2024年2月に入手した情報に基づき作成した物です。
掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。また、本記事はあくまでも参考情報の提供を目的としたものであって、法的助言を構成するものではなく、法的助言として依拠すべきものでもありません。本記事で提供する情報に基づいて行為をされる場合には、必ず個別の事案に沿った具体的な法的助言を別途お求めください。 ジェトロおよびTNY Consulting (Malaysia) Sdn Bhdは、本記事の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、不法行為、無過失責任、あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびTNY Consulting (Malaysia) Sdn Bhdがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。

記事番号: A-061105

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