電子商取引(EC)における税務上の留意点:マレーシア

質問

ECサイトを通じ、マレーシア向けに自社製品を販売したいと考えています。この場合における税務上の留意点について教えてください。

回答

電子商取引(EC)は新しいものではありませんが、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の影響で、ますます普及したと言えます。
マレーシア「所得税法1967」では、ECについて、具体的な規定はありません。ただし、マレーシア内国歳入庁(IRB)が2013年1月1日、EC課税に関するガイドラインを公表しました。その後、ECの発展と新たなビジネスモデルの登場により、2019年5月13日にガイドラインが更新されました(2019年ガイドライン)。これは、現行税法とその解釈に基づき、ECに対する所得税法上の考え方を明らかにするものです。
ここでは、2019年ガイドラインに基づき、税制に関する留意点を解説します。一般にIRBは中立性の原則を採用しているため、ECも従来取引と同様の税務処理対象となります。この考え方によれば、所得税は、「マレーシアで発生した、またはマレーシアから派生した所得」に課されます。このため、同様の状況で同様の取引を行う者は、同様の税務上の取り扱いを受けます。

Ⅰ. マレーシア事業の課税範囲と納税義務

マレーシアでは、マレーシアで発生した、またはマレーシアから派生した所得に対して所得税が課されます。たとえば、マレーシアで事業を行っている場合、その事業に起因する個人の事業所得はマレーシアからのものとみなされます。収入がマレーシアから得られているかどうかについては、事実と程度により判定されます。二重課税防止協定(DTA)が適用される場合には恒久的施設(PE)が存在するかどうか、すなわち事務所または支店が存在し、管理の場所として運営されているかどうかで、マレーシアが事業所得に対する課税権をもっているかが判断されます。
所得税法1967年(ITA1967)第2条では、ビジネスとは「専門職、技術職、商業、およびあらゆる製造業、商業の性質をもつ事業や投機」と定義され、会社や個人が提供するサービスを利用して行うビジネスも含まれます。ブロガー、ビデオブロガー、プロゲーマー、その他のソーシャルメディアインフルエンサーは、趣味としてではなく職業としてビジネスを行っているとみなされます。例えば、ファッション関係のソーシャルメディア・アカウントで有名なブロガーが、このプラットフォームで100万人以上のフォロワーを獲得し、一事業年度に、広告スペースと製品レビューから400万リンギの収入を受け取った場合、同ブロガーは、職業として活動を続けているとして、ITA1967年第4条(a)に基づく課税対象となります。

Ⅱ. 2019年ガイドラインにおける電子商取引(EC)のビジネスモデルと課税関係

2019年ガイドラインで「ECのビジネスモデル」と明記されているビジネスモデルの例は以下のとおりです。

  • オンライン取引/サービスプロバイダー
  • アプリストア
  • オンライン広告
  • クラウドコンピューティング
  • 決済サービス
  • デジタル通貨/トークン

ECに関連する収入は、その収入がマレーシアで得られたかどうかに関係なく、マレーシアで行われた活動に起因するものはすべて、マレーシア由来と見なされます。ECから収入を得ている非居住者の場合、その収入は、1.特別区分の所得または2.ロイヤリティに関連している場合、マレーシアで得たものとみなされる場合があります。

  1. 特別区分の所得(ITA1967年第4A条)
    特別区分とは、ECに関連する科学的、産業的または商業的な事業、ベンチャー、プロジェクト、またはスキームの管理に関連して提供されたアドバイス、支援またはサービスをいいます。非居住者が受け取る特別区分の所得は、ITA1967年第109条Bに基づく源泉徴収税としてマレーシアで課税されます。特別区分の所得は、次のような場合、マレーシアから得られたものとみなされます。
    1. 支払責任が、政府、州政府、または地方自治体にある
    2. 支払責任が、当該基準年度にマレーシアに居住している者にある
    3. 支払が、マレーシアで行われている事業の口座に支出または費用として請求される
  2. ロイヤリティ
    ロイヤリティは、ソフトウェアの使用・使用権、衛星を介した送信、技術、産業、商業、科学的知識や経験、技術に関するノウハウまたは情報の使用・使用権、無線周波数スペクトラムに関する免許の使用・使用権、と定義されます。ECに関して非居住者に支払われるロイヤリティは、ITA1967年第109条に基づく源泉徴収税の対象となります。

Ⅲ. デジタルサービスに対するサービス税

オンラインショッピングの普及により、マレーシア政府は2020年1月、外国籍のサービスプロバイダー/販売者に対して、デジタルサービス税を導入しました。導入時の税率は6%でしたが、2024年3月1日より、サービス税率はすべての課税対象サービス(輸入課税サービスおよびデジタルサービスを含む)について6%から8%に引き上げられました(ただし、一部の課税対象サービスは6%税率が維持されました)。

マレーシアの消費者に対し、12カ月間で 50万リンギを超えるデジタルサービスを行った外国籍サービスプロバイダーは、サービス税法2018年第56条Bに基づき外国籍登録プロバイダーとして登録する必要があります。一方で、マレーシアの納税者としてのサービス消費者は、各種音楽・動画配信を行う多国籍企業やアプリストアへ支払う料金に加え、デジタルサービス税を支払う必要があります。
サービス税(デジタルサービス)(修正)規則2020に基づき、外国籍登録者(FRP)である企業が、マレーシアの任意の企業(FRPと同グループ内の企業)にデジタルサービスを提供する場合は、サービス税の対象となりません。ただし、FRPがマレーシアの別企業 (FRPのグループ外企業)にデジタルサービスを提供する場合には6%のサービス税が課されます。

Ⅳ. 「少額貨物」(LVG)への売上税

少額貨物(LVG)に対して売上税を課す法令が2023年1月1日に施行、同年4月1日以降LVGの輸入に対する売上税が賦課される予定でした。しかし、2023年3月に同施行を延期する旨の通知を税関が行いました。その後同年11月3日に発表された新たなガイドラインにより施行は2024年1月1日と定められ、同日以降に登録販売者から購入した場合、LVGの販売価格に対して10%の売上税が課されます。
LVGとは、「500リンギ以下の価格で販売され、陸路、海路、または空路でマレーシアに持ち込まれる商品」と定義されています。「販売者」は、次の要件をすべて満たす場合、売上税法2018および売上税(LVG)規則2022に従って、税関に登録を行う必要があります。

  • 国籍の違いや居住の有無にかかわらず全ての人
  • LVGの販売者
  • 陸路、海路、空路でマレーシアに持ち込まれる
  • 12カ月以内にマレーシアに持ち込まれたLVGの総販売額が50万リンギを超えている

販売者とは、「マレーシアの内外を問わず、オンラインマーケットプレイスでLVGを販売するか、LVGの販売と購入のためにオンラインマーケットプレイスを運営する者」と定義されています。税関が2023年1月9日に発行したLVGの売上税に関するガイドラインによれば、オンラインマーケットプレイスとしては具体的に、ウェブサイト、インターネットポータルまたはゲートウェイ、配信プラットフォーム、またはその他の電子インターフェースを介して運営されるマーケットプレイスが該当します。支払処理業者/支払ゲートウェイまたはインターネットサービスプロバイダーは含まれません。
ECの急拡大に鑑み、販売者はLVGに対する売上税課税に留意することが重要です。LVGに関する詳細情報については、「税関のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」をご参照ください。

関係機関

関係法令

参考資料・情報

ジェトロ:
マレーシアの税制

調査時点:2023年3月
調査時点:2025年10月

※本記事は、ジェトロ・クアラルンプール事務所が中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業による調査として、加藤芳之氏に委託し、2025年10月に入手した情報に基づき作成した物です。 掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。また、本記事はあくまでも参考情報の提供を目的としたものであって、法的助言を構成するものではなく、法的助言として依拠すべきものでもありません。本記事で提供する情報に基づいて行為をされる場合には、必ず個別の事案に沿った具体的な法的助言を別途お求めください。 ジェトロおよび加藤芳之氏は、本記事の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、不法行為、無過失責任、あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよび加藤芳之氏がかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。

記事番号: J-230401

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