米国食品安全強化法セミナー:対策編 PCHFのポイント解説

ジェトロは、農林水産省補助金事業として、2017年8月21日に東京において「米国食品安全強化法セミナー:対策編 PCHFのポイント解説」を開催しました。当日は、70名を超える米国向け食品を製造/加工している事業者のほか輸出商社等が参加しました(ライブ配信では約60名の視聴者)。

セミナーでは、ジェトロによるFSMAの概要と最新の動きについての説明に続き、FSMAに精通した専門家によって「現行の適正製造規範ならびに危害分析とリスクに基づく予防管理」(PCHF)のポイントについて、詳細な解説が行われました。

講演1.「食品安全強化法の全体概要と最新の動き」

講師
ジェトロ・シカゴ事務所 ディレクター 笠原 健
  • 略歴:
    2016年7月から現職。食品安全強化法に関する調査や制度周知も担当。
講演概要
FSMAの全体概要とともに、適用のスケジュール(2017年5月からFSVP、2017年9月から小規模事業者へのPCHF、2018年1月から農産物安全基準、2018年3月から小規模事業者へのFSVP)が改めて解説された。また、FSMA対応について、米国内や他国でもまだ対応は十分ではないという状況と、FDA当局としてもそうした状況を認識している旨が伝えられた。各規則の適用期日が迫るなか、今から着実に準備を進めていくことが重要だと伝えられた。
講師:ジェトロ・シカゴ事務所 ディレクター 笠原 健

講演2.「PCHFの構築と運用のおさらい」

講師
ペリージョンソンホールディング株式会社
ペリージョンソンレジストラー
食品安全プログラムマネジャー 海澤 幸生 氏
  • 略歴:
    FSPCAから承認を受けたPCQI養成トレーニングコースのリードインストラクター。
    ISO9001、ISO22000、FSSC22000の主任審査員として多くの審査経験を有している。また農林水産省のFSMA部会の委員を務めるほか、食品安全に関するレポートを寄稿するなど、審査業務以外においても経験や知見を活かした活動を行っている。
講師:ペリージョンソンホールディング株式会社 ペリージョンソンレジストラー 食品安全プログラムマネジャー 海澤 幸生 氏
講演概要
  1. PCHFの概要と従前のHACCPシステムについて
    PCHFは、適正製造規範や前提条件プログラムを土台として成り立つ「食品安全計画」を含む食品安全システムを構成するもの。従前のHACCPとの違いとして、考慮すべき危害(化学的危害としての放射性危害、経済的動機付けによる粗悪化)、CCP以外の点に対する予防コントロール(アレルゲンコントロール、サニテーションコントロール、サプライチェーン・プログラム)、リコールプランなどがある。
  2. 食品安全計画の概要
    食品安全計画は、施設ごとに、ハザード分析、予防コントロール、サプライチェーン・プログラム、リコールプランが盛り込まれ、モニタリングや是正措置、検証の手順が文書化される必要がある。予防コントロールを原則とする「食品安全計画」が必要とされる背景として、加工用ピーナツ製品中のサルモネラ菌による食品事故(2008~2009年、米国)や、ヘーゼルナッツ入りヨーグルトによるボツリヌス中毒(1989年、英国)、アレルゲン表示の欠陥によるリコ-ルの多さなど、加工業者や顧客における予防コントロールの欠陥が挙げられた。
  3. サブパートB 現行適正製造規範について
    GMPは、食品安全計画の基盤となるため、適切に理解し効果的に実施するための従業員トレーニングが必要とされる。従来のGMPから改正された主な内容は以下のとおり。
    • アレルゲン交差接触の防止について明確化
    • 義務的な表現への改訂("shall"から"must"へ)
    • アレルゲンの交差接触の予防のための食品非接触面の清掃の義務化
  4. 食品安全計画の準備ステップとPCHFで取り扱うハザードの解説
    食品安全計画を作成するための準備ステップは、CodexHACCP7原則12手順の手順1~5と同様であるため、すでにCodexHACCPに取り組んでいる場合は十分カバーされていると考えられる。製造工程を記述した「フローダイアグラム」は必須事項ではないが、その後のハザード分析に直結するため食品安全計画の準備ステップとして重要。食品安全計画の作成にあたっては、食品安全チームを編成することになるが、労力やコストがかかるため経営層を巻き込むこと、また多角的に分析・対応していくために品質保証の部門だけでなく、製造、清掃、工務の部門関係者も含めると、効果的である。 PCHFにおいては合理的に予見可能なハザードを、起こり得る可能性と重篤性について考慮し特定する。ハザードには、病原細菌やウィルス、寄生虫などの「生物的ハザード」、アレルゲンや食品添加物、残留農薬、放射性物質などの「化学的ハザード」、ガラスや金属片などの「物理的ハザード」などがある。特に米国における食品リコールの主要因となっているアレルゲンの未表示については、留意が必要だ。上記に加え、新しいハザードの概念として導入された「経済的利益を目論む粗悪化行為」については、過去、乳業会社(40社程)がメラミン(窒素に富む産業副産物)を加えて見かけ上のたんぱく質含有量を増やしていた組織的な事件、非食用のスダン染料を粉末化しチリパウダーとして使用していた事件、またクミンパウダーの価格が高騰した結果、アレルゲンである落花生の殻パウダーで量増しをしていた事件などの事例がある。
  5. ハザード分析及び予防コントロールの決定
    ハザード分析の結果、特定されたハザードに対し適切な予防コントロールを決定していく。生物的ハザードに対する予防コントロールの例としては殺菌(加熱)、細菌増殖防止(時間/温度管理、保存料等の調合の確認)のほか、サプライヤー管理(組成原料の確認)が挙げられる。また化学的ハザードに対してはサプライヤー供給者管理、アレルゲンの正確なラベル表示や交差接触防止、物理的なハザードに対してはろ過や金属検知、X線装置などによる管理が考えられる。
  6. 予防コントロールの解説とポイント
    予防コントロールは、基準を満たしているかどうか確認するための「モニタリング」をし、逸脱が確認された場合には「是正措置または修正」を行う。またやると決めた活動が適切に実施できているか「検証」の一連の流れを繰り返していくことになる。またこれらについての実施記録を残しておくことが重要となる。
  7. PCHFを構築・運用する上での注意ポイント
    PCHFで規定されている内容は、現行適正製造規範やその他の前提条件プログラムによって、食品安全計画が支えられ食品安全システムが構築されることを意図している。自社製品のハザードを理解・特定すること、自社の製造プロセスを客観的に見てみること、ハザード分析を中心とした食品安全計画を理解すること、構築したら実施すること等が鍵となる。

質疑応答

主な質疑応答は次のとおり。

サプライチェーン・コントロールについて

  1. アレルゲンの「サイレントチェンジ」(メーカーが知らないうちに、下請け企業などが勝手に材料を変えてしまうこと)への対策として、サプライチェーン・プログラムが必要なのか、通常考えてありえないと判断してよいのか。
  2. 直接のサプライヤーではなく、さらに上流で管理されている危害のコントロールについて、直接のサプライヤーが、監査にはいった文書をみて監査することになるが、所在地や社名が非開示となっている。そのような文書の監査でも有効としてよいか。

FSPCAは「サイレントチェンジ」の可能性についても認識しており、原材料の変更管理については十分注意するよう言及している。この問題については、そもそも前提条件プログラム(PRP)、適正製造規範(GMP)、もしくはマネジメントの問題として対応することが多く、危害分析には展開させない(サプライチェーン・プログラムを適用しない)のが一般的。サプライヤー側と契約書または覚書を締結するなどの適切な対応を。
例えば、海外から香辛料を仕入れている場合、直接のサプライヤーではない別の加工業者がX線照射をして生物的ハザードを管理しているケースがある。直接のサプライヤーではないさらに上流によるハザード管理は難しいかもしれないが、基本的には、フードサプライチェーンで食品安全が管理できているかどうかというFSMAの趣旨を理解していただき、検証のために必要な情報は機密保持を交わすなどして情報開示をお願いすることになる。

ハザード分析において、「加工助剤」は原料として扱うべきなのか、装置等として扱うべきなのか。

加工助剤のように微量使う場合、反応させて使う場合があると思うが、もしそれが食品安全危害にかかわる場合には、フローダイアグラムにインプット情報として記載し、危害として特定すべき。また原料自体に使われている添加物のキャリーオーバーについても、食品安全危害にかかわる場合には、インプット情報として考えた方がよいかもしれない。場合によっては、加工助剤によって危害が制御されていることがあるため、フローダイアグラムで明確にし、危害分析表にも展開してもらったほうがよい。

原材料のサプライチェーンについて毎回同じサプライヤーから仕入れている。取引開始当初に残留農薬の検査を行っているが、その検査結果に有効期限はあるか

頻度については規定上の有効期限はないため、これまでのサプライヤーのパフォーマンスを考慮した事業者のハザード分析の結果による。起こり得る可能性という観点で危害分析とサプライチェーン・プログラムの要否を判断いただくことになる。

水産食品とともに、水産食品以外も扱っている場合には。

パート123の水産HACCPを順守していれば、PCHFのサブパートC,G(HACCP+α)は適用除外。免除対象とされていない食品は、PCHFの対象。

残留農薬やアレルゲンの管理をサプライヤーが管理できていない。自社による検査でも管理できていると考えてよいか。

サプライチェーン・コントロールとして、検証活動の内容を決定することになる。自社による検査を、サプライチェーン・コントロールにして、実施、記録維持しておくことでも可能。

  1. 既存の規則がある水産やジュースについては適用除外とのことだが、HACCP"+more"を全く無視してよいか。
  2. サプライヤーが協力してくれない場合、米国向けの輸出を適切に実施しているということの証明だけでOKか
  3. 並行輸入品についての対策は
  1. 予防コントロールの考え方はHACCP+αの「+α」の部分は、必要ない。
  2. 実態としてはあると思うが、FSMAのフードサプライチェーン全体での食品安全管理を理解いただきたい。場合によっては、現場監査(その場での確認)を行うような対応が必要かもしれない。
  3. FSVPが適用されることになるので、今後は解消する見込み。

放射性物質を危害と捉えているとのことだが、どのように判断したらよいか。

農林水産省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う各国・地域の輸入規制強化への対応」が参考になるのでは。