イランの貿易投資年報
要旨・ポイント
- 2024年の実質GDPは3.5%のプラス成長
- 2024年度の消費者物価上昇率は32.6%
- 2024年度の輸出は増加に転じ、輸入も拡大が続く
- 最大の輸出先である中国へはプラスチックや食用果実などの輸出が増加
- 日本からの輸出は、原材料が全体の約3割を占める
公開日:2025年7月28日
 
                                
                マクロ経済 
                前年に続きプラス成長が続く
            
        2024年のイランの実質GDP成長率について、IMFは3.5%と推定している(2025年4月時点)。IMFの報告によると、イラン経済は原油価格の高騰と堅調な石油生産を背景に比較的安定した成長を続けている。イラン統計センターの発表よると、2024年度(2023年3月20日~2024年3月20日)の石油産業の成長率は前年度(2022年3月21日~2023年3月19日)比6.2%増で、イランの経済成長を支えている。また、同センターによると、工業生産部門への投資も引き続き好調であり、2024年度は3.4%増で、加えて農業部門の回復が見られた(3.2%増)〔2025年6月1日付イスラーム共和国通信(IRNA)〕。一方、経済制裁や外部市場・最新技術へのアクセス制限といった課題は依然として存在し、産業の発展の足かせとなっている。世界銀行も今後は、中国からの石油需要の減少やエネルギー不足、非石油部門を減速させる不確実性の影響で、緩やかな成長にとどまると指摘している。
2024年1月初め時点での為替レート(Bonbast・TGJU)は1ドルあたり約50万リアルで、その後は60万リアル前後で比較的安定して取引されていたが、10月上旬以降はリアル安局面に入り、12月には約80万リアルまで下落した。下落の理由としては、2024年4月に在シリア・イラン大使館をイスラエルが空爆して以降、両国の間の緊張が高まったことが要因の1つとして考えられる。12月のシリアのアサド政権の崩壊後は、リアルはさらに下落し、2025年3月25日には一時1ドルあたり100万リアル以上と過去最低値を記録した。
消費者物価指数(CPI)上昇率は、2024年は30%台で推移し、前年の40%台と比べると比較的安定していたものの、リアルの急落や制裁の再開により高止まり状態にあるとIMFは指摘している。イラン統計センターが発表したイラン暦1403年12月(2025年2月19日~3月20日)のCPI上昇率は、総合で前年同月比37.1%、過去1年間の年間上昇率は32.6%である。ただし、食品価格の上昇は収まらず、同月の上昇率は前年同月比41.0%で、このうち「野菜類」が104.2%と高騰した。IMFも2025年5月、今後の物価見通しについては、上昇圧力は徐々に緩和しつつも高止まりが続くと予測している。
国際自動車工業会(OICA)によると、イランの主要産業である自動車の2024年の生産台数は107万7,839台(前年は108万9,827台)で前年から1.1%減少した。内訳は、乗用車が97万7,776台で1.1%減、バスなども1,219台で1.1%減となった。
失業率について、IMFは2024年が7.8%、2025年が9.5%と推計している(2025年5月時点)。
                貿易 
                2024年の輸出は前年度比15.4%増、輸入は8.2%増
            
        イラン税関の発表によると、2024年度(前述)の非石油部門(石油・ガス製品は含む)の輸出総額は前年度比15.4%増の578億4,400万ドル、輸入総額は8.2%増の723億7,500万ドルであった。
貿易相手上位5カ国をみると、輸出では前年度に続き中国がトップで、前年度比4.9%増の148億5,400万ドルだった。イラクやアラブ首長国連邦(UAE)、トルコなどの周辺国がこれに続くが、前年度は上位5カ国になかったパキスタンが、14.8%増の24億2,300万ドルで5位の仕向け国となった。
輸入については、UAEが前年度比4.7%増の219億8,100万ドルで、前年度に続き1位だった。2位は中国で3.4%増の193億2,500万ドル、3位以下にはトルコ、ドイツ、インドが続いた。
2025年7月時点でイラン側の統計が未発表のため、グローバルトレードアトラスで貿易相手上位国の品目別の内訳を相手国側からみると、輸出相手国1位の中国は、2024年も多様な品目をイランから輸入している。主要品目では、「プラスチックおよび同製品」が前年比6.3%増の13億4,000万ドル、「食用の果実およびナッツなど」が3.2倍の大幅増で3億ドル、「アルミニウムおよび同製品」が34.2%増の1億8,000万ドルであった。輸出相手国上位5カ国のうち、前年から最も大きく増加したトルコ向けでは、最大の比率を占める「銅および同製品」が56.3%増の4億7,000万ドルであった。
輸入相手国1位のUAEの統計は、2025年6月末時点では2023年の統計から更新されていない。2023年のUAEからの輸入品目の上位は「電気機器およびその部分品」が30億7,700万ドルでトップとなり、「原子炉・ボイラー・機械類など」が5億8,100万ドル、「たばこ」が3億4,200万ドルと続いた。2位の中国からの2024年の輸入品目は、「原子炉やボイラー、機械類など」が19億4,000万ドル、「鉄道用車両や同部分品」が16億8,000万ドル、「電気機器や同部品など」が10億ドルで上位となった。
| 国名 | 2023年度 | 2024年度 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 中国 | 14,157 | 14,854 | 25.7 | 4.9 | 
| イラク | 9,351 | 11,941 | 20.6 | 27.7 | 
| アラブ首長国連邦(UAE) | 6,715 | 7,201 | 12.4 | 7.2 | 
| トルコ | 4,211 | 6,889 | 11.9 | 63.6 | 
| パキスタン | 2,111 | 2,423 | 4.2 | 14.8 | 
| 日本 | 11 | 10 | 0.0 | △ 10.9 | 
| 合計(その他含む) | 50,120 | 57,844 | 100.0 | 15.4 | 
                        〔注1〕イランの会計年度は通常、3月21日ごろ~翌年3月20日ごろ。
                        2024年度は2023年3月20日~2024年3月20日、2023年度は2022年3月21日~2023年3月19日。
                        〔注2〕輸出入ともに非石油部門のみ(石油・ガス製品含む)。
                        〔注3〕貿易条件は、輸出入ともにFOBとCFRが混在している。
                        〔出所〕イラン税関
                    
| 国名 | 2023年度 | 2024年度 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| アラブ首長国連邦(UAE) | 20,987 | 21,981 | 30.4 | 4.7 | 
| 中国 | 18,682 | 19,325 | 26.7 | 3.4 | 
| トルコ | 7,678 | 12,474 | 17.2 | 62.5 | 
| ドイツ | 2,177 | 2,430 | 3.4 | 11.6 | 
| インド | 1,933 | 1,747 | 2.4 | △ 9.6 | 
| 日本 | 99 | 104 | 0.1 | 5.1 | 
| 合計(その他含む) | 66,883 | 72,375 | 100.0 | 8.2 | 
                        〔注1〕イランの会計年度は通常、3月21日ごろ~翌年3月20日ごろ。
                        2024年度は2023年3月20日~2024年3月20日、2023年度は2022年3月21日~2023年3月19日。
                        〔注2〕輸出入ともに非石油部門のみ(石油・ガス製品含む)。
                        〔注3〕貿易条件は、輸出入ともにFOBとCFRが混在している。
                        〔出所〕イラン税関
                    
                対日関係 
                日本の対イラン輸出は38.0%増も、輸入は6.4%減
            
        日本の「貿易統計(通関ベース)」によると、日本とイランとの貿易は米国による経済制裁の影響で停滞しているが、2024年の日本のイランへの輸出は前年比38.0%増の8,868万ドルであった。一方で、日本のイランからの輸入は6.4%減の2,908万ドルとなった。
日本からイランへの輸出を品目別にみると、前年に40.4%減となった原料別製品が、2024年には14.4倍の681万ドルを記録した。また、前年に63.3%減の医薬品が、41.3%増の403万ドルとなった。2023年には輸出実績のなかった原料品は、2024年は2,589万ドルで、全体の29.2%を占めた。原料品は2022年も44万ドルで、2024年は2年前との比較でも約60倍と大きく伸びており、大宗が「人造繊維」であった。また、自動車は、前年の3万ドルから2024年は57.7%増の4万ドルとなった。一方で、電気機器は21.5%減となり、特に音響・映像機器が90.0%減(9万ドル)となった。
日本のイランからの輸入を品目別にみると、全体の52.4%を占める原料別製品は前年比12.0%減の1,523万ドルとなった。同項目の内訳をみると大半を占める織物用糸・繊維製品が13.0%減の1,503万ドルと落ち込んだ。また、全体の43.1%を占める食料品は0.2%減の1,254万ドルとなった。その内、25.9%を占める果実が6.4%減の752万ドル、野菜が39.0%減の5万ドルといずれも減少した。
進出日系企業は、米国の経済制裁による送金などの問題により、引き続き投資や現地でのビジネスが困難な状況にある。
| 品目 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 原料品 | 0 | 25,888 | 29.2 | 全増 | 
| 鉱物性燃料 | 25 | 0 | 0.0 | 全減 | 
| 化学製品 | 4,151 | 6,971 | 7.9 | 67.9 | 
|  有機化合物 | 98 | 680 | 0.8 | 593.9 | 
|  医薬品 | 2,852 | 4,029 | 4.5 | 41.3 | 
|  プラスチック | 82 | 50 | 0.1 | △ 39.0 | 
| 原料別製品 | 474 | 6,813 | 7.7 | 1,337.3 | 
|  織物用糸・繊維製品 | 2 | 6,507 | 7.3 | 325,250.0 | 
|  ゴム製品 | 306 | 234 | 0.3 | △ 23.5 | 
| 一般機械 | 6,009 | 7,893 | 8.9 | 31.4 | 
|  原動機 | 3,210 | 3,249 | 3.7 | 1.2 | 
|  電算機類(含周辺機器) | 174 | 105 | 0.1 | △ 39.7 | 
|  ポンプ・遠心分離機 | 287 | 220 | 0.2 | △ 23.3 | 
|  荷役機械 | 333 | 591 | 0.7 | 77.5 | 
|  繊維機械 | 204 | 114 | 0.1 | △ 44.1 | 
|  ベアリング | 217 | 47 | 0.1 | △ 78.3 | 
| 電気機器 | 22,704 | 17,827 | 20.1 | △ 21.5 | 
|  音響・映像機器 | 871 | 87 | 0.1 | △ 90.0 | 
|  映像記録・再生機器 | 840 | 72 | 0.1 | △ 91.4 | 
|  電気計測機器 | 750 | 861 | 1.0 | 14.8 | 
| 輸送用機器 | 1,281 | 1,026 | 1.2 | △ 19.9 | 
|  自動車 | 26 | 41 | 0.0 | 57.7 | 
|  自動車の部分品 | 1,255 | 541 | 0.6 | △ 56.9 | 
|  二輪自動車 | 0 | 444 | 0.5 | 全増 | 
| その他 | 29,614 | 22,266 | 25.1 | △ 24.8 | 
|  科学光学機器 | 5,410 | 3,329 | 3.8 | △ 38.5 | 
|  写真用・映画用材料 | 6,386 | 7,835 | 8.8 | 22.7 | 
| 合計 | 64,258 | 88,684 | 100.0 | 38.0 | 
〔出所〕 財務省貿易統計「貿易統計(通関ベース)」から作成
| 品目 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 食料品 | 12,568 | 12,541 | 43.1 | △ 0.2 | 
|  魚介類 | 355 | 346 | 1.2 | △ 2.5 | 
|  野菜 | 77 | 47 | 0.2 | △ 39.0 | 
|  果実 | 8,037 | 7,522 | 25.9 | △ 6.4 | 
| 原料品 | 977 | 910 | 3.1 | △ 6.9 | 
| 化学製品 | 24 | 82 | 0.3 | 241.7 | 
| 原料別製品 | 17,312 | 15,227 | 52.4 | △ 12.0 | 
|  織物用糸・繊維製品 | 17,283 | 15,029 | 51.7 | △ 13.0 | 
| 一般機械 | 4 | 50 | 0.2 | 1,150.0 | 
| 電気機器 | 56 | 16 | 0.1 | △ 71.4 | 
|  電気計測機器 | 50 | 12 | 0.0 | △ 76.0 | 
| その他 | 113 | 255 | 0.9 | 125.7 | 
|  バッグ類 | 2 | 16 | 0.1 | 700.0 | 
| 合計 | 31,053 | 29,080 | 100.0 | △ 6.4 | 
〔出所〕 財務省貿易統計「貿易統計(通関ベース)」から作成
                その他 
                改革派大統領が就任、米国との協議を開始も核関連施設に攻撃
            
        イランでは、2024年5月19日に当時のイブラーヒーム・ライーシー大統領がヘリコプター事故で死去した(2024年5月21日ビジネス短信参照)。後任を決める第14期の大統領選挙では改革派のマースード・ペゼシュキヤーン氏が当選した(2024年7月8日ビジネス短信参照)。
2025年4月12日には、オマーンの首都マスカットで、イランのアッバース・アラーグチー外相、エスマイル・バガイ外務報道官らが、米国のスティーブ・ウィトコフ中東担当特使と核問題等に関する間接協議を行った。この協議は、米国のドナルド・トランプ大統領がイランのアリー・ハーメネイー最高指導者に書簡を送り、交渉開始を要請したことを受けて実施されたものである(2025年4月14日ビジネス短信参照)。
核問題をめぐる米国との交渉が目立った進展を見せない中、6月13日にイスラエルがイランの核関連施設に対して行った軍事攻撃以降、両国の攻撃の応酬が続き、同月21日には米国による核施設攻撃も行われた。攻撃終了後の同月23日、トランプ大統領はイスラエルとイランの停戦合意を発表した。ジェトロではイスラエル・イラン情勢に関する最新の動向や各国の反応をウエブサイトの「特集」に順次掲載しており、参照いただきたい。
基礎的経済指標
| 項目 | 単位 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 
|---|---|---|---|---|
| 実質GDP成長率 | (%) | 3.8 | 5.0 | 3.5 | 
| 1人当たりGDP | (米ドル) | 4,432 | 4,347 | 4,633 | 
| 消費者物価上昇率 | (%) | 45.8 | 40.7 | 32.6 | 
| 失業率 | (%) | 9.0 | 8.1 | 7.8 | 
| 貿易収支 | (100万米ドル) | 22,247 | n.a. | n.a. | 
| 経常収支 | (100万米ドル) | 14,205 | n.a. | n.a. | 
| 外貨準備高(グロス) | (100万米ドル) | n.a. | n.a. | n.a. | 
| 対外債務残高(グロス) | (100万米ドル) | 6,282 | 5,043 | n.a. | 
| 為替レート | (1米ドルにつき、イラン・リアル、期中平均) | 42,000 | 42,000 | n.a. | 
            注
            2024年は推計値。
            貿易収支(財貿易)、経常収支、対外債務残高はイランの会計年度。2021年度は3月21日~2022年3月20日、2022年度は3月21日~2023年3月20日、2023年度は3月21日~2024年3月20日
            n.a.については未公表。
            出所
            実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価指数、失業率、為替レート:IMF
            貿易収支、経常収支、対外債務残高:イラン中央銀行
        






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