イランの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年の実質GDP成長率は2.5%のプラス成長。
  • 国内経済は、消費者物価上昇率や失業率が高い状態が続く。
  • 貿易は、前年に続き輸出入ともに前年比増も、伸び率は鈍化。
  • 日本との貿易は、輸出が前年比27.1%減、輸入が6.6%減とさらに低迷。

公開日:2023年10月18日

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マクロ経済 
前年に続きプラス成長も、通貨安・インフレが続く

2018年以降の米国による経済制裁の影響を引き続き受けながらも、2022年のイラン経済の実質GDP成長率をIMFは2.5%、世界銀行は2.7%と発表した。世界銀行はイラン経済のプラス要因として、新型コロナウイルス禍後のサービス産業の回復、石油生産の増加などを挙げている。一方で、食料品を含む多くの商品の輸入価格が大幅に上昇したこと、また、このことが食料価格に対する補助金の増加につながり政府財政に負担をもたらしていること、中国へ割安な石油を輸出するロシアとの新たな競争によって石油生産の拡大が鈍化していること、高いインフレ率が消費と投資に悪影響を与えていることなどをマイナス要因としている。さらに、イランの経済見通しに対するリスクは依然として大きいとしている。その理由として、洪水、干ばつ、砂嵐の頻発など気候変動の激化やエネルギー不足、また、核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」の再建に向けた、協議が失敗に終わった場合の地政学的な緊張の高まりを挙げている。一方で、JCPOA再建協議が成功裏に終わり、経済制裁が解除されれば、予測される成長見通しは大幅に高まるとしている。

国内経済も引き続き混乱が続いている。2022年8月末時点の市場為替レートは1ドル=約30万イラン・リアル(以下リアル)で、その後も30万~40万リアルの間で取引されていた。しかし、2022年12月後半からリアルは大きく下落し、2023年2月末には一時1ドル=約58万リアルまで下落した。中央銀行は、これまで1ドル=4万2,000リアルのレートで輸入していた食品、医薬品などの基礎的商品のうち大部分の商品について、2022年12月に1ドル=28万5,000リアルへ変更すると発表した。

こうした状況を受け、インフレも進行した。イラン統計センターが発表した2022年度(2022年3月21日~2023年3月20日)の消費者物価上昇率(CPI)は、年度当初の3月21日~4月20日は前年同月比35.6%だった。しかし、5月に政府が鶏肉や食用油など主要食品への1ドル=4万2,000リアルのレートの割当を停止すると急激に上昇し、6月22日~7月22日には総合が54.0%、食品は87.0%にまで上昇した。その後やや低下し、総合は40%台後半で推移していたが、12月ごろから再度上昇し、2023年1月21日~2月19日には総合で53.4%、食品で71.5%となった。イラン統計センターはイラン暦1402月(2023年3月21日~4月20日)から統計の基準年を変更しているが、直近の2023年7月23日~8月22日には、総合が39.8%、食品は38.3%となっている。

国際自動車工業連合会(OICA)によると、主要産業である自動車産業では、2022年のイランの自動車生産台数は106万4,216台となり、米国による経済制裁が再開された2018年以来、初めて100万台を超えた。イランは2021年度後半から、既存の生産能力の回復、品質の標準化、輸出の拡大などからなる「自動車産業発展プログラム」に取り組むとしている。国営メディアのイスラーム共和国通信(IRNA)では、本プログラムの成果として、2022年度の自動車生産台数が大幅に増加し、アルメニア、アゼルバイジャン、ロシアなどへの輸出にも自動車メーカー各社が取り組んでいるという(2023年7月27日付地域・分析レポート)。

失業率については、IMFは2022年の失業率を前年比0.3ポイント増の9.5%、2023年は9.8%と推計(2023年4月時点)している。世界銀行も、緩やかな経済成長が生み出す雇用機会は限られているとしている。

貿易 
輸出入ともに前年度比増

イラン税関の発表によると、2022年度の貿易総額は、非石油部門(石油・ガス製品は含む)の輸出総額が前年度比9.4%増の531億6,600万ドル、輸入総額も12.5%増の596億5,500万ドルで、輸出入ともに増加した。ただし、輸出入ともに35%以上の増加となった2021年度に比べると、伸びは鈍化している。

貿易相手国の上位5カ国をみると、輸出では前年度に引き続き2022年度も中国がトップで、前年度比1.8%増の145億8,400万ドルだった。中国以外の輸出先は、イラクやトルコなどの周辺国となっている。トルコ向けは、2021年度に比べて伸びは鈍化しているものの、22.5%増(74億5,900万ドル)で伸び率ではトップだった。

輸入については、アラブ首長国連邦(UAE)が11.3%増の183億9,500万ドルで、前年度に続き1位だった。2位は中国で、23.5%増の157億4,400万ドルだった。3位以下には、トルコ、インド、ドイツが続いた。

表1-1 イランの主要国別輸出(非石油部門)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出
2021年度 2022年度
金額 金額 構成比 伸び率
中国 14,323 14,584 27.4 1.8
イラク 8,916 10,238 19.3 14.8
トルコ 6,087 7,459 14.0 22.5
アラブ首長国連邦 4,929 5,767 10.8 17.0
インド 1,817 2,146 4.0 18.1
日本(2022年度:66位) 14 13 0.0 △ 8.8
合計(その他含む) 48,619 53,166 100.0 9.4

[注](1)イランの会計年度は通常、3月21日ごろ~翌年3月20日ごろ。
2021年度は2021年3月21日~2022年3月20日、2022年度は3月21日~2023年3月20日。
(2)輸出は非石油部門のみ(石油・ガス製品は含む)。
(3)貿易条件は、輸出入ともにFOBとCFRが混在している。
[出所]イラン税関

表1-2 イランの主要国別輸入(非石油部門)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸入
2021年度 2022年度
金額 金額 構成比 伸び率
アラブ首長国連邦 16,534 18,395 30.8 11.3
中国 12,744 15,744 26.4 23.5
トルコ 5,299 6,099 10.2 15.1
インド 1,584 2,850 4.8 79.9
ドイツ 1,924 2,019 3.4 4.9
日本(2022年度:39位) 104 77 0.1 △25.4
合計(その他含む) 53,013 59,655 100.0 12.5

[注](1)イランの会計年度は通常、3月21日ごろ~翌年3月20日ごろ。
2021年度は2021年3月21日~2022年3月20日、2022年度は3月21日~2023年3月20日。
(2)貿易条件は、輸出入ともにFOBとCFRが混在している。
[出所]イラン税関

貿易相手上位国の品目別の内訳を相手国側からみると、輸出相手国1位の中国は、2022年も前年同様、多様な品目をイランから輸入しているが、主要品目のうち、銅・同製品、鉱物性燃料、アルミニウム・同製品、魚介類などは増加した一方で、鉄鋼、果物などが大幅に減少した。イランからの輸出額が前年度比22.5%増となったトルコは、アルミニウム・同製品、銅・同製品、鉄鋼などが伸びた。

輸入相手国1位のUAEからは、幅広い品目がイランに輸入されているが、主要品目である電気機器およびその部分品・録音機等は減少した。一方、たばこおよび製造たばこ代用品、食用の果実およびナット類などは増加した。2位の中国からは、原子炉・ボイラー等、鉄道用車両・同部分品、電気機器・同部品などが増加、特に車両が大幅に増加した。2021年に減少した電気機器・同部品は、2022年は増加に転じている。一方で、有機化学品、鉄鋼は減少した。

対日貿易 
日本との貿易は輸出入ともに減少

日本の「貿易統計(通関ベース)」によれば、日本とイランとの貿易は、米国による経済制裁の影響を受け、2022年も引き続き停滞し、輸出が前年比27.1%減の5,111万2,000ドル、輸入が6.6%減の3,574万6,000ドルだった。

日本からイランへの輸出を品目別にみると、2021年に93.1%減だった原料品は、5.7%増(44万3,000ドル)と微増にとどまり、引き続き低迷した。2021年に44.2%減だった原料別製品は、13.7%減(79万5,000ドル)とさらに減少した。また、2021年は前年の100倍を超える伸びだった医薬品は、2022年は36.9%減の776万7,000ドルに減少した。一方で、電算機類の部分品、金属加工機械がそれぞれ8.7倍、9倍の増加となったが、金額はそれぞれ2万6,000ドル、1万8,000ドルにとどまっている。自動車の輸出は、2021年はわずかにあったが、2022年はゼロとなった。自動車関連では、二輪自動車が2.9倍の8万7,000ドル、自動車の部分品が64.9%増の50万8,000ドルとなり、輸送用機器全体では47.3%増となったものの、金額は59万5,000ドルにとどまった。

表2-1 日本の対イラン主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
食料品 0.0
原料品 419 443 0.9 5.7
鉱物性燃料 14 9 0.0 △ 35.7
化学製品 16,539 9,627 18.8 △ 41.8
階層レベル2の項目有機化合物 811 150 0.3 △ 81.5
階層レベル2の項目医薬品 12,308 7,767 15.2 △ 36.9
階層レベル2の項目プラスチック 167 41 0.1 △ 75.4
原料別製品 921 795 1.6 △ 13.7
階層レベル2の項目鉄鋼 31 0.1 全増
階層レベル2の項目金属製品 382 358 0.7 △ 6.3
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 19 0.0 全減
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 169 91 0.2 △ 46.2
階層レベル2の項目ゴム製品 348 316 0.6 △ 9.2
階層レベル2の項目紙類・紙製品 3 0.0 全減
一般機械 6,904 6,576 12.9 △ 4.8
階層レベル2の項目原動機 3,052 2,664 5.2 △ 12.7
階層レベル2の項目電算機類(含周辺機器) 327 51 0.1 △ 84.4
階層レベル2の項目電算機類の部分品 3 26 0.1 766.7
階層レベル2の項目金属加工機械 2 18 0.0 800.0
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 483 540 1.1 11.8
階層レベル2の項目荷役機械 361 880 1.7 143.8
階層レベル2の項目加熱用・冷却用機器 92 95 0.2 3.3
階層レベル2の項目繊維機械 350 137 0.3 △ 60.9
階層レベル2の項目ベアリング 25 54 0.1 116.0
電気機器 15,861 11,222 22.0 △ 29.2
階層レベル2の項目音響・映像機器 908 939 1.8 3.4
階層レベル3の項目映像記録・再生機器 908 925 1.8 1.9
階層レベル3の項目テレビ受像機 13 0.0 全増
階層レベル2の項目音響・映像機器の部分品 6 0.0 全増
階層レベル2の項目重電機器 83 38 0.1 △ 54.2
階層レベル2の項目通信機 2 0.0 全減
階層レベル2の項目電気計測機器 2,116 963 1.9 △ 54.5
階層レベル2の項目電気回路等の機器 133 118 0.2 △ 11.3
階層レベル2の項目電池 35 0.0 全減
輸送用機器 404 595 1.2 47.3
階層レベル2の項目自動車 51 0.0 全減
階層レベル3の項目乗用車 8 0.0 全減
階層レベル3の項目バス・トラック 43 0.0 全減
階層レベル2の項目自動車の部分品 308 508 1.0 64.9
階層レベル2の項目二輪自動車 30 87 0.2 190.0
その他 29,099 21,843 42.7 △ 24.9
階層レベル2の項目科学光学機器 7,034 5,088 10.0 △ 27.7
階層レベル2の項目写真用・映画用材料 5,654 5,302 10.4 △ 6.2
総額(その他含む) 70,160 51,112 100.0 △ 27.1

[出所]財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算

表2-1 日本の対イラン主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
食料品 8,853 8,887 24.9 0.4
階層レベル2の項目魚介類 282 402 1.1 42.6
階層レベル2の項目穀物類 3 3 0.0 0.0
階層レベル2の項目野菜 62 33 0.1 △ 46.8
階層レベル2の項目果実 6,606 5,680 15.9 △ 14.0
原料品(木材・非鉄金属等) 650 649 1.8 △ 0.2
鉱物性燃料 0.0
化学製品 3 121 0.3 3,933.3
原料別製品 28,553 25,404 71.1 △ 11.0
階層レベル2の項目鉄鋼 0.0
階層レベル2の項目非鉄金属 2 0.0 全減
階層レベル2の項目金属製品 12 19 0.1 58.3
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 28,524 25,353 70.9 △ 11.1
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 12 31 0.1 158.3
階層レベル2の項目木製品等(除家具) 3 0.0 全減
一般機械 30 27 0.1 △ 10.0
階層レベル2の項目電算機類の部分品 24 0.0 全減
電気機器 56 475 1.3 748.2
階層レベル2の項目半導体等電子部品 3 393 1.1 13,000.0
階層レベル3の項目IC 3 393 1.1 13,000.0
階層レベル2の項目重電機器 2 0.0 全減
階層レベル2の項目通信機 4 0.0 全減
階層レベル2の項目電気計測機器 31 32 0.1 3.2
輸送用機器 0.0
階層レベル2の項目自動車 0.0
階層レベル2の項目自動車の部分品 0.0
その他 118 182 0.5 54.2
階層レベル2の項目衣類・同付属品 7 3 0.0 △ 57.1
階層レベル2の項目家具 4 20 0.1 400.0
階層レベル2の項目バッグ類 6 3 0.0 △ 50.0
総額(その他含む) 38,263 35,746 100.0 △ 6.6

[出所]財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算

日本のイランからの輸入を品目別にみると、構成比の約25%を占める食料品のうち、魚介類が前年比42.6%増の40万2,000ドルとなったものの、野菜、果実が前年比減となり、食料品全体では0.4%増(888万7,000ドル)の微増だった。また、構成比の71.1%を占める原料別製品は、その大半を占める織物用糸・繊維製品が11.1%減(2,535万3,000ドル)と減少し、原料別製品全体で11.0%減の2,540万4,000ドルだった。

在イランの日系企業は、米国の経済制裁による送金などの問題により、引き続き投資や現地でのビジネスが困難な状況にある。外務省「海外進出日系企業拠点数調査」によると、2022年10月1日時点でのイランの日系企業拠点数は22となり、前年同日時点の25から微減となっている。

投資環境・外資政策 
進む近隣国との関係強化

イブラーヒーム・ライーシー政権は2021年8月の発足以来、近隣諸国との外交を重視してきた。2023年3月10日には、中国の仲介により、それまで対立関係にあったサウジアラビアとの国交正常化に合意した。その後、両国の外相が複数回会談を行い、6月にはサウジアラビアのリヤドにあるイラン大使館が正式に再開し、ジッダのイラン総領事館でも業務が再開された(2023年6月9日付ビジネス短信)。こうした動きを受け、石油開発協力、金融関係の再構築に向けた動きも報じられている。

イランはまた、2023年7月には上海協力機構(SCO)(2023年7月5日付ビジネス短信)、8月にはBRICSへの正式加盟が承認された。

基礎的経済指標

人口
8,569万人 (2022年、暫定値)
面積
164万8,195平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
4,110米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) 3.3 4.7 2.5
消費者物価上昇率 (%) 36.4 40.1 49.0
失業率 (%) 9.6 9.2 9.5
貿易収支 (100万米ドル) 3,234 15,844 22,247
経常収支 (100万米ドル) △709 11,144 14,205
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
対外債務残高(グロス) (100万米ドル、期末値) 9,142 8,675 6,282
為替レート ( 1 米ドルにつき、イラン・リアル、期中平均) 42,000 42,000 n.a.

注:
人口、1人当たりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:2022年は推計値
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):イランの会計年度。2020年度は2020年3月20日~2021年3月20日、2021年度は3月21日~2022年3月20日、2022年度は3月21日~2023年3月20日
出所:
人口、1人当たりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、為替レート:IMF
面積:イラン外務省
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):イラン中央銀行