パリにおける市場調査と消費者向け展示即売の手法
2015年10月
分野:デザイン、ファッション、食品
世界に向けたトレンド発信地であるパリで、日本企業や地方自治体が、市場調査目的で消費者の意見を聴取する機会を設けたり、消費者向けに展示即売をしたりする動きが活発だ。多様な手法がみられるようになってきた中、目的に応じた効果的な手法とは何か、事例から読み解く。
B2Cイベントは来場者層を検討して選択
バイヤー向けに提案する商品を選ぶ前やフランスでの店舗開設前に、一般消費者の意見を聴くことは有意義だ。日本で好まれる味・デザイン・用途がフランスでの嗜好や生活様式に合うとは限らず、市場競争力のある価格帯を知る手がかりにもなるためだ。
この点、短期間に多くの消費者と交流できるB2Cイベントへの出展は有効だ。但し、イベントの性質により来場者の肖像・嗜好・消費性向に偏りが生じるため、どのような層と接触を希望するかにより出るイベントを選ぶとよい。可処分所得が低い若年層が来場者の中心であるJポップカルチャーイベントのみならず、商品に合わせた専門分野(例えば美容、子供向け用品など)の一般消費者向けイベントも、該当分野に関心が高い消費者を対象としたい場合や競合商品情報を得たい場合は選択肢になる。
2015年6月にはパリ所在の日系コンサルタントEuro Japan Crossingが、パリ第4区役所が所有する1,000平米の施設レ・アール・デ・ブラマントに約60社・団体の出展者を迎えて、日本食イベント「セ・ボン・ル・ジャポン」を開催した。3日間で1万3,000人が来場したという。流行の発信地であり、日曜も例外的に商店が営業して賑わうマレ地区の中心地で金曜から日曜に開催されたため、日本ファンのみならず、通りすがりの買い物客も取り込まれたようだ。
また同社はイベント以外の市場調査ツールとして3ヶ月に1回、欧州への輸出を検討する日本企業の食品の試食会を開催し、アンケート結果を企業に伝えている。1回あたり30人のフランス人モニターを同社のフェイスブックで募集する。応募者の大半は日本への関心が高い消費者で、選定にあたっては年齢、性別、人種、社会階層が多岐に渡るよう配慮しているという。こうしたサービスを利用するのも一案だ。
新たなB2C手法、期間限定店舗
日本企業によるB2C手法として増えているのが、1以上のブランドが一定期間場所を借りて商品を販売する期間限定店舗、フランス語で「ブティック・エフェメール」(注)だ。ジェトロ・パリのアパレル分野のコーディネーター、ミリアム・モハメッド氏によると、パリや地方の大都市では、空き商用物件を活用してブティック・エフェメールを専門に運営し、什器レンタル、招待状送付、広報も含めたパッケージを提示する企業が登場。期間は通常週末の2日間~4週間で、来店者は小売店でより安価に買えることを期待しているという。
イベントへ出展する場合と比較した長短は表1のとおり。
表1:B2Cイベントへ出展する場合と、独自にスペースを借りる場合の長所と注意点
長所 | 注意点 | |
---|---|---|
イベントへ出展 |
|
|
独自に展示・即売スペースを借りる(例:期間限定店舗) |
|
|
ユニフォーム製造販売のユニックス(熊本県)は、Jポップカルチャーイベント「ジャパン・エキスポ」へ出品後の7月7~28日、サンジェルマン・デ・プレにくまモンの衣類・バッグ・陶器を販売する期間限定店舗を開設した。スペース料はバカンス時期のため相場以下だったが、他に(1)商品価格の設定・衣類のタグ添付に関する相談、輸送、什器・クレジットカード端末機のレンタルにかかるコンサルへの業務委託費、(2)オタク雑誌ウェブ版への広報記事掲載費、(3)通訳兼販売補助員費、(4)旅費・滞在費がかかり、赤字となった。
ジャパン・エキスポで配布したチラシや記事を見たJポップカルチャー愛好者(10~30代)・家族連れを中心に、1日平均10人が来店した。大半がわざわざ来店しており通りすがりではなかったため、来店者が購入に至る割合は9割だった。レディースのSサイズ、黒・灰・白色のTシャツが最も売れ、Jポップカルチャーファンの若い女性という潜在顧客像や人気の色味を把握できたという。
小売店との接触も希望していた同社は、飛び込み営業をした。同社の岩橋 潤氏は「期間限定店舗の開設には予想以上に複雑な手続き・準備が必要で、赤字は覚悟していたがコストもかかった。バイヤーへの営業は別途必要で、容易では無かった」と語ったが、オペラ座近くで日本書籍を販売するジュンク堂・パリ支店から受注し、欧州初の販路を得た。
期間限定店舗を開くための貸し物件はフランスの各種サイト(例:「Pop Up Immo」)で検索可能だ。また、パリには日本語で利用可能なスペースもあり、手続きや準備を代行するところも含まれる(表2参照)。
表2:日本語で利用可能なパリ所在のレンタルスペースの例(開設年順)
スペース名 | 茶禅(寿月堂パリ店内) | DISCOVER JAPAN PARIS | Maison Wa |
---|---|---|---|
運営主体 | 株式会社丸山海苔店 | 有限会社ISONO | 有限会社ISONO |
開設年 | 2008年10月 | 2011年10月 | 2015年7月プレオープン、9月オープン |
地区 (住所) |
高所得者層・知識層が集うサンジェルマン(95, rue de Seine 75006) | 日本文化・食のファンが集うオペラ(12, rue sainte anne 75001) | 日本文化・食のファンが集うオペラ(8 bis, rue Villedo 75001) |
展示可能な商品 | 伝統工芸品の展示即売会、個展、観光展 | 伝統工芸品、デザイン商品、アパレル製品、日用品など | 伝統工芸品、デザイン商品、アパレル製品、日本酒、食品など |
【B2C】 展示・即売スペース |
地下階 | 通りに面したショーウィンドーから中が見える地上階30m2 | 通りに面したショーウィンドーから中が見える地上階75m2 |
【B2B】 ショールーム |
- | - | 地上階、奥の36m2 |
スペース提供以外のサービス内容 |
|
|
|
ウェブサイト | http://maruyamanori.net/sp/jugetsudo/paris02/ | https://www.facebook.com/discoverjapanparis | http://www.maisonwa.com(準備中) |
(注) | 日本語の「ポップアップストア」に相当するが、フランスで「ポップアップストア」というと別の形態を指すので注意。ミリアム・モハメッド氏によるとフランスでは「ポップアップストア」という言葉は、(1)既存ブティック内で、経営者がスペースの一部を他ブランドのために使用する場合、(2)大手ブランドがギャラリー、アーティストのアトリエなどを借りてイベントを開催する場合に用いる。 |
---|