EUの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年のGDP成長率は1.0%と緩やかな回復基調、2025年のGDP成長率予測は1.1%
  • 貿易額は輸出入ともに前年より減少、貿易黒字額は82.4%増
  • 対内直接投資は81.5%増、対外直接投資は3倍以上の大幅増
  • 対日貿易は医薬品の輸出大幅増などで黒字に回復
  • 日本への直接投資額は前年比90.8%増

公開日:2025年8月19日

マクロ経済 
2024年の実質GDP成長率は1.0%と緩やかな回復基調

EU統計局(ユーロスタット)によると、2024年の実質GDP成長率はEUで1.0%、ユーロ圏で0.9%だった。前年に比べ、それぞれ0.6ポイント、0.5ポイントの増加となった。2024年のEU経済は、歴史的低水準の失業率にみられる雇用拡大、実質賃金の伸びなどによる所得環境の改善がもたらした個人消費の回復、インフレ率の低下、設備投資の回復などにより、緩やかな回復基調となった。

EUの2024年の実質GDP成長率を需要項目別にみると、全体の52.7%を占める民間最終消費支出が前年比1.3%増と、前年から0.9ポイント増加し、成長率への寄与度は0.6ポイントであった。政府最終消費支出は前年比2.7%増と最も大きく伸び、寄与度は0.5ポイントであった。財・サービスの輸出は1.2%増、寄与度は0.6ポイントとなった。

EU加盟国の実質GDP成長率を比較すると、マルタ(前年比6.0%)やクロアチア(3.9%)が前年を上回る好調を維持し、デンマーク(3.7%)とスペイン(3.2%)も3%を上回った。マイナス成長を記録した国は前年の11カ国から5カ国に減少したが、オーストリア(マイナス1.2%)を筆頭に、ドイツ(マイナス0.2%)も前年に引き続きマイナス成長となった。

2025年 実質GDP成長率の予測は1.1%に下方修正

今後の経済見通しについて、欧州委員会は2025年5月に発表した春季経済予測で2025年の実質GDP成長率をEUで1.1%、ユーロ圏で0.9%と予測した。前回2024年11月の予測から、ともに0.4ポイント下方修正した。下方修正は米国の関税引き上げの影響と、変動の激しい関税政策による不確実性の高まりが、関税の最終的な構成を予測不可能にしたことによる。今季の予測は米国の25%の鉄鋼、アルミニウム、自動車関税、10%のベースライン関税、医薬品などの一部製品の関税免除を前提としている(注1)。不確実な要素が多く、2025年予測は下方修正となったが、個人消費の伸びの継続と投資の回復により、2026年の実質GDP成長率はEUが1.5%、ユーロ圏が1.4%に上昇すると予測されている。2024年に年平均2.4%だったユーロ圏の消費者物価指数上昇率(インフレ率)は、予想より早く2025年中頃に欧州中央銀行(ECB)の目標値の2%に達するとみられ、今秋にも低下傾向となり、2026年には年平均1.7%の水準が見込まれている。

継続的な金融緩和政策により、減少していた住宅建設が回復基調となり、2026年には建設需要の拡大が見込まれる。企業のDX推進ニーズは、インフラや研究開発への投資の増加傾向を後押しする。雇用は引き続き拡大しており、2024年に5.9%と歴史的な低さを記録したEUの失業率は、2026年には5.7%まで低下すると予測されている。2024年に5.3%増となった名目賃金は、2025年は3.9%増、2026年は3.0%増と伸びは鈍化傾向が見込まれるが、比較的低水準のインフレから、購買力低下には至らないとみられる。家計の総可処分所得増加は、雇用と賃金の継続的な増加およびインフレの減速に支えられる。ユーロ圏の中期目標である2%前後で安定推移しているインフレ率見通しや、防衛分野やインフラ分野への政府投資の増加や中期的な成長見通しなどに基づき、欧州中央銀行(ECB)は2025年6月、主要政策金利を0.25ポイント引き下げた。利下げは2024年9月の会合以降7会合連続となった(注2)。

(注1)
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2025年7月27日、米国のドナルド・トランプ大統領と米国関税に関し大枠合意したと発表。米国はEU製品の大部分に対する関税率を一律15%にする。対象製品には自動車や半導体、医薬品も含まれる。(2025年7月29日付ビジネス短信参照
(注2)
ECBは2025年7月、8会合ぶりに主要政策金利の据え置きを決定した。(2025年7月25日付ビジネス短信参照
表1 EUの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
EU 実質GDP成長率 0.4 1.0 0.3 0.3 0.4 0.4
民間最終消費支出 0.4 1.3 0.5 0.1 0.5 0.6
政府最終消費支出 1.6 2.7 0.3 1.0 0.9 0.5
国内総固定資本形成 1.9 △ 1.9 △ 1.9 △ 2.3 1.5 0.5
財・サービスの輸出 0.1 1.2 0.8 1.4 △ 1.0 0.2
財・サービスの輸入 △ 1.3 0.6 0.0 1.1 0.6 0.1
ユーロ圏 実質GDP成長率 0.4 0.9 0.3 0.2 0.4 0.2
民間最終消費支出 0.5 1.1 0.5 0.0 0.6 0.4
政府最終消費支出 1.4 2.7 0.3 1.1 0.9 0.5
国内総固定資本形成 1.7 △ 1.8 △ 1.9 △ 2.5 1.8 0.7
財・サービスの輸出 △ 0.8 1.1 1.1 1.5 △ 1.3 0.0
財・サービスの輸入 △ 1.4 0.3 △ 0.2 1.1 0.5 0.1

〔注1〕四半期の伸び率は前期比、季節調整値。
〔注2〕民間最終消費支出には対家計非営利団体(NPISH)消費支出も含む。
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

貿易 
貿易額は輸出入ともに前年より減少、黒字は82.4%増

ユーロスタット(2025年5月10日時点)によると、2024年のEUの貿易は、輸出が前年比0.9%減となる6兆6,081億9,300万ユーロ、輸入が2.7%減の6兆3,554億5,800万ユーロだった。減少幅は輸出入ともに前年より縮小し、貿易収支は82.4%増の2,527億3,500万ユーロの黒字となった。EUの域内貿易と域外貿易の構成比は、輸出が域内60.9%、域外39.1%、輸入が域内61.6%、域外38.4%だった。

EUの2024年の域内貿易は、輸出が前年比2.2%減の4兆242億4,400万ユーロ、輸入が2.3%減の3兆9,178億6,500万ユーロと、輸出入ともに前年に引き続き減少した。ユーロ圏内の貿易では、輸出が2.9%減、輸入が3.1%減となった。域内貿易を主要品目別にみると、前年に引き続き、輸出入ともに機械・輸送機器類が構成比35%以上を占めて最大品目となり、同品目の輸出は3.5%減、輸入は3.9%減となった。それ以外の主要品目別では食料品、飲料およびたばこは輸出(4.4%増)と輸入(4.7%増)いずれも増加した。化学工業製品は輸出(0.2%減)、輸入(0.1%増)ともにほぼ横ばい。輸出入ともに最も減少したのは鉱物性燃料・潤滑油などで、輸出は14.6%減、輸入は13.5%減だった。

表2 EUの主要品目別輸出入(域内貿易)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器類 1,465,085 1,413,838 35.1 △3.5 1,442,619 1,385,659 35.4 △ 3.9
雑製品 1,079,549 1,065,361 26.5 △1.3 1,017,922 998,279 25.5 △ 1.9
化学工業製品 681,303 680,229 16.9 △0.2 682,719 683,112 17.4 0.1
食料品、飲料およびたばこ 435,553 454,712 11.3 4.4 429,584 449,957 11.5 4.7
鉱物性燃料・潤滑油など 293,975 250,985 6.2 △14.6 277,555 240,115 6.1 △ 13.5
原料別半製品 135,864 135,979 3.4 0.1 141,120 140,958 3.6 △ 0.1
合計(その他含む) 4,113,582 4,024,244 100.0 △ 2.2 4,009,468 3,917,865 100.0 △ 2.3

〔注1〕各企業のインボイス報告などに基づく。
〔注2〕輸出がFOB、輸入がCIFのため、輸出入金額が一致しない。
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

EUの2024年の域外貿易は、輸出が前年比1.1%増の2兆5,839億5,000万ユーロ、輸入が3.4%減の2兆4,375億9,300万ユーロだった。貿易収支は1,463億5,700万ユーロの黒字となり、黒字額は前年の4倍以上(4.2倍)となった。

域外貿易を品目別にみると、輸出では、最大品目の機械・輸送機器類(構成比39.2%)が前年比1.5%減の1兆118億2,300万ユーロとなり、好調だった前年から一転して減少した。乗用車(10.2%)が6.3%減少した。2位の雑製品(21.6%)は、その他の種々製品(3.9%)が11.7%増となり、0.9%増となった。化学工業製品(21.7%)は同品目の過半を占める医薬品(12.1%)が13.4%増となり、7.1%増となった。8.4%減とマイナス伸び率が最大となった鉱物性燃料・潤滑油など(5.0%)は、大部分を構成する石油・石油製品(4.5%)が7.2%減少したことが主因だった。エネルギー価格は2023年前半のピークから下落基調で安定し、最大の輸出先である英国向けが5.9%減、米国向けは23.3%減。数量ベースでは、英国向けは2.5%増加したが、米国向けは19.5%減少した。

域外からの輸入では、最大品目の機械・輸送機器類(構成比32.8%)は前年比2.7%減とわずかに縮小し、続く雑製品(23.3%)は0.7%増とほぼ横ばいだった。前年に大幅減となった鉱物性燃料・潤滑油など(19.1%)は引き続き減少(14.6%減)した。その内、石油・石油製品(13.9%)は4.9%減、天然・製造ガス(4.2%)は31.3%減となった。数量ベースでは、石油・石油製品は1.4%減、天然・製造ガスは8.5%減となった。食料品、飲料およびたばこ(6.4%)は8.8%増となり、特にコーヒー、茶、ココア、香辛料およびその製品(1.3%)が46.1%増と大幅に増加した。

表3 EUの主要品目別輸出入(域外貿易)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器類 1,027,385 1,011,823 39.2 △ 1.5 822,825 800,685 32.8 △ 2.7
雑製品 552,862 558,021 21.6 0.9 564,952 569,061 23.3 0.7
化学工業製品 523,169 560,333 21.7 7.1 325,903 322,373 13.2 △ 1.1
食料品、飲料およびたばこ 204,330 209,488 8.1 2.5 144,395 157,082 6.4 8.8
鉱物性燃料・潤滑油など 142,413 130,402 5.0 △ 8.4 545,558 466,052 19.1 △ 14.6
原料別半製品 67,636 68,500 2.7 1.3 96,986 96,226 3.9 △ 0.8
合計(その他含む) 2,557,022 2,583,950 100.0 1.1 2,522,577 2,437,593 100.0 △ 3.4

〔注〕通関ベース
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

域外貿易を国・地域別にみると、輸出では、EU域外で最大の相手国の米国(構成比20.6%)が前年比5.7%増と前年の減少から増加に転じ、5,323億600万ユーロとなった。米国向けの輸出額で最大品目である機械・輸送機器類(38.9%)は、道路走行車両(9.6%)が6.4%減となるなど、全体で0.3%減と微減だったが、医薬品(22.5%)が29.5%増、このうちワクチン(11.3%)が28.4%増と大幅に伸びた。米国に次ぐ輸出相手国である英国(13.2%)は、道路走行車両(15.8%)が前年の大幅増から一転1.3%減となった。前年に減少していた鉱物性燃料・潤滑油など(4.4%)は引き続き減少し5.9%減となった。一方、食料品および動物(12.5%)が5.8%増、前年に減少していた医薬品(5.3%)も6.7%増などとなり、英国向け輸出全体では1.4%増となった。

輸入では、最大相手国の中国(構成比21.3%)が前年比0.3%減の5,190億700万ユーロとなった。最大品目の電気機器(18.7%)が11.7%減となったほか、続く通信機器(11.8%)も4.8%減となった。次いで米国(13.7%)は、鉱物性燃料・潤滑油など(22.9%)、天然・製造ガス(5.7%)、液化天然ガス(4.5%)がそれぞれ10.5%減、38.5%減、44.0%減となり、全体では3.5%減となった。3位の英国(6.7%)は、道路走行車両(10.1%)、医薬品(5.3%)が、それぞれ11.6%減、16.3%減となった。鉱物性燃料・潤滑油など(16.9%)も26.7%減となり、全体では9.3%減少した。

表4 EUの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU域内 4,113,582 4,024,244 60.9 △ 2.2 4,009,468 3,917,865 61.6 △ 2.3
階層レベル2の項目ユーロ圏内 2,643,565 2,566,782 38.8 △ 2.9 2,577,992 2,499,271 39.3 △ 3.1
EU域外 2,557,022 2,583,950 39.1 1.1 2,522,577 2,437,593 38.4 △ 3.4
階層レベル2の項目EU加盟候補国 200,200 207,082 8.0 3.4 156,261 159,484 6.5 2.1
階層レベル3の項目トルコ 111,388 112,323 4.3 0.8 95,901 98,385 4.0 2.6
階層レベル3の項目ウクライナ 39,098 42,767 1.7 9.4 22,883 24,494 1.0 7.0
階層レベル2の項目ロシア 38,142 31,547 1.2 △ 17.3 50,791 35,982 1.5 △ 29.2
階層レベル2の項目英国 336,228 340,898 13.2 1.4 181,052 164,217 6.7 △ 9.3
階層レベル2の項目スイス 188,904 193,440 7.5 2.4 138,784 134,882 5.5 △ 2.8
階層レベル2の項目アジア大洋州 587,655 575,290 22.3 △ 2.1 958,146 947,788 38.9 △ 1.1
階層レベル3の項目中国 223,436 213,219 8.3 △ 4.6 520,447 519,007 21.3 △ 0.3
階層レベル3の項目ASEAN 94,480 94,302 3.6 △ 0.2 157,994 164,450 6.7 4.1
階層レベル4の項目マレーシア 15,577 17,841 0.7 14.5 29,004 28,631 1.2 △ 1.3
階層レベル4の項目タイ 15,054 14,656 0.6 △ 2.6 25,370 27,434 1.1 8.1
階層レベル4の項目シンガポール 32,142 30,293 1.2 △ 5.8 20,014 17,796 0.7 △ 11.1
階層レベル3の項目日本 63,971 66,864 2.6 4.5 71,321 63,754 2.6 △ 10.6
階層レベル3の項目韓国 57,261 55,732 2.2 △ 2.7 73,446 68,135 2.8 △ 7.2
階層レベル3の項目インド 48,432 48,771 1.9 0.7 65,408 71,281 2.9 9.0
階層レベル3の項目オーストラリア 38,459 38,696 1.5 0.6 13,717 10,719 0.4 △ 21.9
階層レベル2の項目北米 553,515 581,260 22.5 5.0 375,647 363,632 14.9 △ 3.2
階層レベル3の項目米国 503,819 532,306 20.6 5.7 347,173 335,035 13.7 △ 3.5
階層レベル3の項目カナダ 48,679 48,061 1.9 △ 1.3 27,688 27,899 1.1 0.8
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 93,654 99,415 3.8 6.2 76,601 62,278 2.6 △ 18.7
階層レベル3の項目アラブ首長国連邦(UAE) 38,836 44,398 1.7 14.3 17,211 11,218 0.5 △ 34.8
階層レベル2の項目ブラジル 43,081 43,567 1.7 1.1 44,584 45,984 1.9 3.1
階層レベル2の項目南アフリカ共和国 25,939 24,228 0.9 △ 6.6 23,522 20,536 0.8 △ 12.7
合計(その他含む) 6,670,604 6,608,193 100.0 △ 0.9 6,532,045 6,355,458 100.0 △ 2.7

〔注1〕 EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔注2〕 EU貿易統計の金額は、輸出がFOB、輸入がCIF。そのため域内貿易で輸出入金額が一致しない。
〔注3〕 EU加盟候補国はトルコ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニア、アルバニアおよび、2022年に加盟候補国となったウクライナ、モルドバ、ボスニア・ヘルツェゴビナを含む。
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

対ロシアの輸出入は減少、対ウクライナの輸出入は増加

EUは2022年2月23日以降、2025年7月までに18回、対ロシア制裁パッケージを発表した。エネルギー、運輸、機械、電子機器、化学工業製品分野などを中心に、輸出入の制限措置の対象品目を拡大してきた。一連の措置により同国との貿易は前年に続き縮小した。

ロシアへの輸出(構成比1.2%)は、前年比17.3%減と前年に引き続き減少した。制裁措置の対象拡大を背景に、主要品目のほとんどが減少した。最大輸出品目である化学工業製品(43.5%)は6.4%減に、3位の機械・輸送機器類(13.0%)は43.1%減と大幅減となった。ロシアからの輸入(1.5%)も、前年の大幅減に引き続き、前年比29.2%減となった。全体の半分以上を占める鉱物性燃料・潤滑油(62.1%)が23.9%減となり、うち石油・石油製品が46.1%減だった。EUのロシア産化石燃料からの依存脱却が一層加速したことで石油・石油製品や天然ガスを中心に輸入量が大幅に減少した。ロシアは前年には域外輸出国の15位だったが17位に順位を下げ、域外輸入国としても9位から12位と10位以下に転落した。

域外貿易に占めるウクライナへの輸出(構成比1.7%)は前年比9.4%増、前年に減少した輸入(1.0%)は同7.0%増と、輸出入ともに増加した。輸出では、前年に続き、最大品目の機械・輸送機器類(31.0%)が13.6%増となった。これに次ぐ鉱物性燃料・潤滑油(16.0%)は5.7%増だったほか、化学工業製品(13.5%)を抜いて雑製品(15.4%)が44.8%増と高い伸びをみせた。雑製品のうち、武器・弾薬は102.0%増、爆弾・手榴弾などは104.3%増、その他の軍需品は118.5%増と、それぞれ倍増した。輸入では、食料品(29.9%)が前年に続き最大品目となったが3.3%減だった。一方、動植物油、脂肪およびワックス(12.5%)は45.2%増、このうち植物油脂(12.3%)が45.9%増と高い伸びをみせ、全体の輸入額を押し上げた。

対内・対外直接投資 
対内直接投資は環境・デジタル分野で大型案件目立つ

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2024年のEU加盟国への対内直接投資(EU加盟国間の投資も含む)は、前年比81.5%増の2,677億7,190万ドル(国際収支ベース、ネット、フロー)だった。アイルランド(388億9,100万ドル)とベルギー(267億2,290万ドル)の引き揚げ超過が響いたものの、前年に引き揚げ超過だったルクセンブルクが1,059億8,660万ドルのプラスに持ち直し、対内直接投資額を押し上げた。EU加盟国27カ国中、10カ国で投資額が増加し、中でもスロバキアは10倍以上、マルタは3倍弱の伸びを見せた。2024年末時点のEU加盟国の対内直接投資残高は、11兆4,606億3,450万ドルだった。2024年のEU加盟国へのグリーンフィールド投資件数の合計は、前年より389件少ない5,283件となった。前年同様、ドイツ(887件)、スペイン(857件)、フランス(523件)、ポーランド(459件)などに集中した。2024年のEU域内企業を合併や買収の対象とするクロスボーダーM&Aの合計は、前年より111 件多い2,835件だった。

対内直接投資のM&A案件では、米国の空調設備メーカーのキャリア・グローバル(Carrier Global Corp)が2024年1月、ドイツのフィースマン・クライメート・ソリューションズ(Viessmann Group GmbH & Co KG)のクライメート・ソリューション部門を約120億ユーロで買収した。事業買収事例では、英国のエネルギー企業ハーバーエナジー(Harbour Energy)が同年9月、ドイツの天然ガス・石油企業ウィンターシャル・デア(Wintershall Dea)の上流資産および欧州での二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)のライセンスを約112億ドルで買収した。M&A以外では、米マイクロソフトが2024年5月にフランスで人工知能(AI)インフラ整備に約40億ユーロの投資を発表したほか、ドイツで約32億ユーロ、スウェーデンでも約27億ユーロを同分野で投資すると報じられた。中国の自動車製造Chery(奇瑞汽車)は同年4月、スペインのエブロEVモーターズ(Ebro EV Motors)と電気自動車(EV)の共同生産を行う新工場をバルセロナに設立した(投資額は非公表だが、官民合わせて4億ユーロの投資が見込まれる)。

対外投資は3倍超に急増、域内ではエネルギー分野の投資が活発

一方、2024年のEU加盟国の対外直接投資(EU加盟国間の投資も含む)の合計は、前年比3.3倍の4,460億6,150万ドル(国際収支ベース、ネット、フロー)だった。前年に引き揚げ超過だったオランダとルクセンブルクがそれぞれ547億2,950万ドル、1,085億9,840万ドルとプラスに持ち直し対外直接投資を支えた。54億1,510万ドルのフィンランド、5億7,560万ドルのスロバキアは、それぞれ500%以上増の伸びをみせた。2024年末時点の対外直接投資残高は、13兆3,574億3,280万ドルだった。同年のEU域内企業が出資したグリーンフィールド投資件数は前年より132件少ない6,338件で、ドイツ(1,559件)、フランス(1,058件)、オランダ(601件)などの企業が牽引した。

2024年のEU域内企業によるクロスボーダーM&A件数は、前年より258件多い2,284件だった。対外直接投資のM&A案件としては、イタリアのエネルギー大手エニ(Eni)が2024年1月、英国の独立系石油・ガス企業ネプチューン・エナジー(Neptune Energy Group)を約49億ドルで買収した。ドイツの自動車部品・産業機器などのボッシュ(Bosch)は同年7月、米国のジョンソン・コントロールズ(Johnson Controls)から住宅・小規模商業向け暖房・換気・空調(HVAC)事業および合弁事業を74億ユーロで買収した。フランスの建材大手サンゴバン(Saint-Gobain)は同月、オーストラリアの建材メーカーCSRを45億オーストラリア・ドル(約4,185億円、豪ドル、1豪ドル=約93円)で買収した。M&A以外では、エネルギー関連の投資が目立った。フランスのエネルギー大手トタルエナジーズ(Total energies)は2024年5月、アンゴラの深海石油開発プロジェクト「カミーニョ(Kaminho)」へ約60億ドル投資し、同国の国家石油・ガス庁(ANPG)と協力して同プロジェクトを進める計画を発表した。フランスの再生可能エネルギー企業HDFエナジー(HDF Energy)は同年8月、約30億ユーロを初期投資し、チュニジアで大規模なグリーン水素生産プロジェクトを開始することを発表した。ドイツ自動車大手BMWは同年4月、中国瀋陽市内の生産拠点に200億元(約4,075億円、元、1元=約20円)を投資した。

EU域内の大型案件としては、M&Aではフランスのカジノ大手ラ・フランセーズ・デ・ジュー(La Française des Jeux)が2024年11月、スウェーデンのオンラインゲーム大手のキンドレッド・グループ(Kindred Group)を26億ユーロで買収した。オランダのファンドのディーアイエフ・インフラストラクチャー・セブン・ファンド(DIF Infrastructure VII Fund)は同年12月、光ファイバー事業を手掛けるフランスのテーデーエフ・フィーブル(TDF Fibre)を17億8,200万ドルで買収した。またM&A以外では、ドイツの再生可能エネルギー企業ベイワ・アール・イー(BayWa r.e.)が2024年2月、イタリアで合計14件の洋上風力発電所の開発・建設に向けて、約60億ユーロの投資を行う意向を示した。

対日関係 
対日貿易は医薬品の輸出大幅増などで黒字に回復

2024年のEUの対日貿易は、輸出が前年比4.4%増の667億9,000万ユーロ、輸入が10.6%減の637億8,500万ユーロだった。EUの対日貿易収支は前年の73億5,000万ユーロの赤字から、30億500万ユーロの黒字に持ち直した。

対日輸出を主要品目別にみると、最大品目の機械・輸送機器類(構成比33.3%)は前年比1.1%減となったが、前年に大幅減となっていた医薬品(17.5%)が21.5%増となって、化学工業製品(27.3%)が11.2%増の伸びをみせ、輸出全体を押し上げた。雑製品(17.4%)も15.0%増と大きく伸びた。食料品・動物(6.8%)は2.2%増、原料別半製品(5.7%)は4.2%減となった。

対日輸入は主要品目が軒並み減少した。機械・輸送機器類(構成比63.1%)、化学工業製品(12.7%)、原料別半製品(8.5%)が、それぞれ10.9%減、13.4%減、13.7%減と2桁以上減少した。機械・輸送機器類のうち、産業用機械(6.3%)は33.5%減と大幅減となった。化学工業製品を抜いて2位となった雑製品(13.2%)も3.7%減となった。食品に適さない原材料(燃料を除く)(1.1%)も5.4%減だった。一方、食料品・動物(0.6%)は21.7%増と大幅に増加した。

表5-1 EUの対日主要品目別輸出(FOB)通関ベース(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器類 22,451 22,209 33.3 △ 1.1
化学工業製品 16,386 18,218 27.3 11.2
雑製品 10,107 11,618 17.4 15.0
食料品・動物 4,444 4,544 6.8 2.2
原料別半製品 3,970 3,804 5.7 △ 4.2
飲料・たばこ 2,913 3,122 4.7 7.2
合計(その他含む) 63,971 66,790 100.0 4.4

出所:EU統計局(ユーロスタット)

表5-2 EUの対日主要品目別輸入(CIF)通関ベース(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器類 45,207 40,277 63.1 △ 10.9
雑製品 8,760 8,440 13.2 △ 3.7
化学工業製品 9,379 8,119 12.7 △ 13.4
原料別半製品 6,282 5,420 8.5 △ 13.7
食料に適さない原材料(燃料を除く) 766 724 1.1 △ 5.4
食料品・動物 324 394 0.6 21.7
合計(その他含む) 71,321 63,785 100.0 △ 10.6

出所:EU統計局(ユーロスタット)

EUから日本への直接投資額は前年比90.8%増

日本の財務省によると、2024年の日本からEUへの直接投資額は、前年比21.1%減の3兆5,683億円だった。製造業は23.2%減の1兆5,459億円となった。電気機械器具が96.8%増の2,090億円、化学・医薬品が33.9%増の2,908億円と伸びた一方、ゴム・皮革が97.3%減の99億円、輸送機械器具が98.6%減の29億円と大幅に減少した。非製造業は全体で19.4%減の2兆224億円だった。卸売・小売業が73.3%増の9,581億円と伸びたが、サービス業が92.9%減の401億円、運輸業が74.1%減の617億円と縮小した。EU域外も含めた欧州の国別では、英国の2兆7,345億円、オランダの2兆2,585億円、ドイツの7,197億円の順に大きかった。

EUから日本への直接投資受入額は2,349億円で、前年比90.8%増と大きく伸びた。業種別では、卸売・小売業の3,711億円の引き揚げ超過などが足かせとなったが、金融・保険業が3.7倍の3,760億円、化学・医薬が83.9%増の811億円と投資を伸ばした。EU域外も含めた欧州の国別では、前年比4.0倍のスイスの3,992億円が最大の投資額となり、127.1%増のフランスの3,271億円が続いた。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 3.5 0.4 1.0
1人当たりGDP (米ドル) 37,659 41,129 41,423
消費者物価上昇率 (%) 9.2 6.4 2.6
失業率 (%) 6.2 6.1 5.9
貿易収支 (100万ユーロ) △ 116,457 267,873 383,090
経常収支 (100万ユーロ) 29,301 322,429 488,570
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 557,194 552,535 545,125
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ、期末値) 16,261,101 16,243,875 16,698,982
為替レート (1米ドルにつき、ユーロ、期中平均) 0.9496 0.9248 0.9239


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
外貨準備高(グロス)、対外債務残高(グロス):EU20(ユーロ圏)のデータに基づく。
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支:EU統計局(ユーロスタット)
対外債務残高(グロス):欧州中央銀行(ECB)
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF