知的財産に関する情報2018年1月開催 韓国知財セミナー(特許庁委託事業)
開催レポート

趣旨

韓国では、国を挙げて、第4次産業革命に対応した知財政策および法改正が検討されています。また、知財訴訟を担当する法院に国際裁判部を設置するための法案が可決され、2018年に外国語での弁論・証拠提出が可能となる見込みです。そこで、韓国特許庁の第4次産業革命に向けた取組を主導された崔東圭(チェ・ドンギュ)前韓国特許庁庁長と、知財司法制度の改革に尽力された郭富圭(クァク・ブギュ)元特許法院判事を講師としてお招きして、セミナーを開催しました。

開催概要

テーマ 第4次産業革命時代の韓国の最新知財動向
開催日
  • 東京会場: 2018年1月24日(水曜)14時00分~17時00分
  • 大阪会場: 2018年1月25日(木曜)14時00分~17時00分
内容
14:00~14:20
韓国の最新知財事情についてPDFファイル(2.5MB)
ジェトロ・ソウル事務所 副所長 浜岸 広明
14:20~15:35
IoT、Industry 4.0時代を迎えた韓国における特許戦略PDFファイル(1.2MB)
特許法人和友 代表弁理士(前 韓国特許庁庁長) 崔 東圭(チェ・ドンギュ)氏
15:35~15:45
休憩
15:45~17:00
韓国特許訴訟制度の変化と展望PDFファイル(8.1MB)
Lee&Ko 法律事務所 弁護士(元 特許法院判事) 郭 富圭(クァク・ブギュ)氏

※日韓同時通訳

レポート

韓国知財セミナー「第4次産業革命時代の韓国の最新知財動向」を東京・大阪にて開催しました。

(東京会場の様子:ジェトロ本部展示場)

(大阪会場の様子:大阪工業大学梅田キャンパス)

韓国では、国を挙げて、第4次産業革命に対応した知財政策および法改正が検討されています。また、知財訴訟を担当する法院に国際裁判部を設置するための法案が可決され、2018年に外国語での弁論・証拠提出が可能となる見込みです。そこで、ジェトロでは、韓国特許庁の第4次産業革命に向けた取組を主導された崔東圭(チェ・ドンギュ)前韓国特許庁庁長と、知財司法制度の改革に尽力された郭富圭(クァク・ブギュ)元特許法院(日本の知財高裁に相当)判事を講師として招き、2018年1月24日、25日に韓国知財セミナー「第4次産業革命時代の韓国の最新知財動向(特許庁委託事業)」を東京・大阪にて開催しました。

韓国の最新知財事情

ジェトロ・ソウル事務所 副所長 浜岸 広明

韓国の最新知財政策・法改正

韓国特許庁は2017年11月1日に新政権の知的財産分野のマスタープランとして「第4次産業革命時代における知的財産政策方向」を発表しました。特許が無効になった際の特許登録料の全額返金や、悪意ある特許・営業秘密侵害行為に対する懲罰賠償制度の導入、スタートアップが将来の価値に基づいて資金を調達できるよう投資型IP金融の拡大、AI(人工知能)、ビックデータなどの未来技術を活用した特許行政の効率化などが盛り込まれています。
また、2017年に施行された主な法律として、特許法(審査請求期間の短縮、特許取消申請制度の新設、特許決定後の職権再審査制度)、デザイン保護法(新規性喪失の例外規定の拡大)、不正競争防止法(行政庁の調査・検査対象となる不正競争行為の範囲に、他人が製作した商品の形態を模倣した商品を譲渡・貸与・展示する行為などを追加)などが挙げられます。また、現在国会にて、懲罰的損害賠償制度などを導入する不正競争防止法および特許法改正案が審議中です。

IoT、Industry 4.0時代を迎えた韓国における特許戦略

特許法人(有)和友 代表弁理士 崔 東圭(チェ・ドンギュ)
(2015年から2017年まで韓国特許庁庁長として在任)

第4次産業革命時代とは、超連結・超知能化による革命

第4次産業革命とは、人間が必要なものだけを膨大なデータから抽出する、つまり人工知能、ビックデータ、自律走行車などのような超連結・超知能化による革命を意味します。知財の世界において、過去の韓国は、先進国のモデルを追い上げれば良い立場でありましたが、現在は、情報通信分野など一部の分野においては、世界でトップレベルになっているなど、前に誰もいない分野に直面しています。
「知財革命」や「到来している未来」などとも表現されるこの第4次産業革命時代において、韓国特許庁はどのように進めていけば、自身も発展でき、後発国をリードできるかを悩み始めているところです。現在は、諸般の変化について主に法的な側面から基本的な分析を行う程度で他国の様子を窺っている状況と言えます。ただ、韓国特許庁では今年「知的財産権連係研究開発戦略支援事業」に約129億ウォンの予算を投入してスマートセンサー、モノのインターネットなどの第4次産業革命核心技術分野に対するIP-研究開発(R&D)支援を拡大し、中小企業の第4次産業革命対応能力の向上のためのIP戦略開発および支援に集中する計画を発表しています。
加えて最近5年間における第4次産業革命に係る韓国の主要技術の分野別特許出願を紹介すると、拡張現実3,354件(42.6%)、人工知能 1,621件(20.6%)、ピックデータ1,236件(15.7%)、モノのインターネット1,069件(13.6%)、バーチャルリアリティ601件(7.6%)などの順で出願されています。

強くて柔軟な知財権を目指すべき

韓国の知財権の悩みは、まず、強くないということです。その理由としては、(1)第4次産業革命分野の標準必須特許が少ない、(2)高い無効率(2016年:49.1%)、(3)低い損害賠償額、などを挙げられます。これからは、権利として登録されたら中々奪われない強い知財権を目指す必要があります。
また、現在の韓国の知財権は、柔軟ではありません。その要因としては、(1)関係省庁における争い(コンピュータープログラムの保護方法をめぐる韓国特許庁(特許)と文化体育観光部(著作権)の管轄争いや地理的表示の保護をめぐる韓国特許庁と農林畜産食品部・海洋水産部の管轄争い)、(2)商標とデザインの衝突、(3)営業秘密と特許の衝突、が挙げられます。この商品は、商標として権利を確保すべきか、それともデザインとして保護すべきか。また、この技術は、営業秘密として保護すべきか、それとも特許を取るべきなのかなど、権利間のグレーゾーンに係る悩みや問題が増えています。また、新しい形態の知財権への対応が遅れています。
このような複雑な時代でこそ、そもそも全ての知財権の制度というのは、「他人のものを許可なしにコピーすることを防ぐために現れたもの」という基本的な概念を鑑みる必要があります。Free-Riding防止という知財権本来の原則に立ち戻るべきであり、その意味からして、知財権は、いつか、最終的に不正競争防止法一つに統合されるものだと思います。
要するに、現在の特許分類に入らない新たな商品でも法律的論理に巻き込まれずに保護することができ、また、既存の物と融合していく、それが第4次産業革命時代にふさわしい柔軟な知財権と言えるでしょう。

韓国特許訴訟制度の変化と展望

法務法人広場(Lee&Ko) 弁護士 郭 富圭(クァク・ブギュ)
(2012年から2016年まで特許法院判事として在任)

専門性強化に向けて様々な取組みを行う

専門性の強化に向けた努力として、まず、特許法院の裁判官の勤務期間の拡大を挙げられます。特許法院が1998年に設立されて以来、2014年まで裁判官の勤務期間は、部長裁判官は2年以下、陪席審判官は3年となっていましたが、2015年に初めて4年の長期勤務者が生まれ、私自身もその対象になりました。これにより、裁判官の専門性が高まったことにその意味があります。
一方、特許のように技術的かつ法律的に特殊な分野では、経験が浅い裁判官が正確な判断をすることは難しいため、各法院ではこの問題を解消すべく、外部機関からもしくは自ら選定した技術専門家を裁判補助人材として活用しています。最近の特徴は、韓国特許庁の決定に対する裁判の客観性を高めることと、法院の専門性の強化のために、主に韓国特許庁からの受け入れを減らしつつ、自ら選定する傾向が著しくなっていることです。
また、2016年から民事事件のうち、損害賠償および差止請求事件について、5つ(ソウル、大田、大邱、釜山、光州)の地方法院に管轄を集中し、その控訴審は特許法院で行うこととしたことも代表的な専門性強化策の一つと言えるでしょう。さらに事件の範囲も特許、商標、デザインに限らず、専用実施権、通常実施権、職務発明などにまで拡大しつつあります。また、管轄集中により、特許法院では侵害訴訟の審理マニュアル を2016年3月16日制定し、審決取消訴訟の審理マニュアルも2016年9月1日に制定しました。同マニュアルの日本語訳は、ジェトロで翻訳し、ジェトロ韓国知財ウェブサイトおよび特許法院ウェブサイトで公開しています。

裁判制度の国際化と特許重視政策(プロパテント)が著しい

特許法院の裁判のうち、外国人事件のシェアは3割程度(米国、日本、欧州事件の順)と高いです。このような状況で、最近における特許法院の大きな変化としては、裁判制度の国際化を目指している点です。
2017年11月24日に国際裁判部の設置に関する法案が国会で議決されました。主な内容は、外国語弁論と外国語の証拠提出の許可となります。これまで外国語弁論と外国語の証拠提出には、それぞれ通訳と翻訳を必要としていましたが、これに関する例外を認めたのです。法律には外国語と明記しているため、法律的には英語以外の外国語もその対象になりますが、裁判官の中で、英語以外の言語に精通する人は多くありません。ただ、日本語が上手な裁判官が増えているので、将来には日本語弁論も可能になるかもしれません。
また、外国語弁論は、当事者間の同意が必要となりますが、韓国企業が当事者の場合は当然、韓国語が有利になるのでその同意を得られる場合は極めて少ないでしょう。そのため、原告が外国企業、被告が韓国特許庁となる事件が外国語弁論の主な対象になると見込まれます。
一方、近年、韓国では特許重視政策、すなわちプロパテントという用語をよく耳にします。韓国におけるプロパテント傾向の裏付けとしては、(1)特許法改正(2016年3月29日)により、侵害の証明や損害額算定に必要な場合、当事者が相手に資料提出命令の申請が可能となった点、(2)懲罰的損害賠償については、損害賠償額を損害額の3倍とすることを推進している点、(3)特許の無効率が減少傾向にある点、などを挙げられます。
外国の方は、これまで説明した韓国の裁判制度の全体的な変化を理解した上で、専門家の助言を得ながら、韓国で訴訟を準備する必要があります。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195