知的財産に関する情報韓国IPGミニセミナー(特許庁委託事業)開催レポート

開催概要

開催日時 2018年9月11日(火曜日)17時00分~18時00分
場所 SJC(ソウルジャパンクラブ)大会議室
ソウル特別市 鍾路区 清渓川路 41 永豊ビル12F
主催 韓国IPG/SJC知的財産委員会(事務局 ジェトロソウル事務所知財チーム)
内容
17:00~17:05
韓国IPGリーダー・SJC知的財産委員長あいさつ
武内 敬司 株式会社韓国日立 社長
17:05~17:55
第四次産業革命時代のデータ利活用を促進する流通環境整備について―不正競争防止法(平成30年改正)―(50分)
西 秀隆 経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室 室長補佐
17:55~18:00
韓国IPGについて(5分)
浜岸 広明 ジェトロソウル事務所 副所長

レポート

韓国IPGミニセミナー「第四次産業革命時代のデータ利活用を促進する流通環境整備について―不正競争防止法(平成30年改正)―」を開催しました。

経済産業省知的財産政策室は、不正競争防止法(以下、不競法)を所管しており、不正利用行為などを禁止して適正な競争を確保することにより、国民経済の健全な発展を目指す取組みを行っています。2018年5月には、第四次産業革命時代におけるデータの利活用の促進するための環境を整備するため、改正不競法が公布されました。

そこで、韓国IPGは、2018年9月11日にSJC(ソウルジャパンクラブ)大会議室にて、経済産業省知的財産政策室の西室長補佐を講演者とし、不競法の改正内容を中心に、価値あるデータを安心・安全に取引・利活用できる制度の導入について紹介するミニセミナーを開催しました。主な内容は、以下のとおりです。

セミナーの様子

データの不正取得などに対する差止めが創設

不正競争防止法とは、周知表示混同惹起、形態模倣、営業秘密侵害、誤認惹起表示、外国公務員への贈賄などの行為を禁止している法律となります。そこで、2018年5月23日に成立された改正不競法では、悪質性の高い「限定提供データ」の不正取得・使用などを、不競法に基づく「不正競争行為」と新たに位置付け、救済措置として差止請求権などを設けました。「限定提供データ」とは、他者との共有を前提に一定の条件下で利用可能な情報を意味し、例としては、自動走行用地図データやPOSシステムで収集した商品毎の売上データなどを挙げられます。なお、「限定提供データ」の三つの要件として、(1)限定提供性、(2)電磁的管理性(例:ID/パスワード)、(3)相当蓄積性を満たす必要があります。

安心してデータの提供・利用ができる環境の整備が目的

これには、第四次産業革命のもと、日本政府の「Connected Industries」に向けた取組みが、その背景にあります。「Connected Industries」の実現のためには、付加価値の源泉となるデータの利活用を活発化することが必要であり、特に安心してデータの提供・利用ができる環境の整備することに当たって、不競法の改正に関する議論が始まったのです。データは、複製・提供が容易であり、一旦、不正な流通が生ずると、被害は急速かつ広範囲に拡大する恐れがあります。「著作物」や「営業秘密」に該当する場合は、損害賠償請求権や差止請求権を行使できる一方、「限定提供データ」の場合は、現行法では、民法不法行為に基づく損害賠償請求のみが認められ、差止請求権は、認められていません。契約当事者間の行為については、契約違反に基づき行為を差し止めることが可能ですが、第三者に一方的にデータを取られると、差止ができないという問題がありました。しかし、今の時代では、契約当事者のみならず、第三者についても念頭に置かないといけないため、この問題をどのように取り扱えば良いのかを、常々、議論した結果が、今回の改正不競法になります。

権利を取らなくても、不正行為の規制が可能となる

このように「限定提供データ」を保護対象とすることで、データの提供者も安心して使用者に渡すことができ、データ収集・分析・加工などに投資した金額を回収できます、また、使用者も安心して利活用することが可能となるインフラが整うことになります。

具体的に「限定提供データ」とは、主に、企業間で複数者に提供や共有されることで、新たな事業の創出に繋がるか、または、サービスや製品の付加価値を高めるなど、その利活用が期待されているデータを想定しています。例えば、データ分析事業者が、船舶から収集されるリアルデータや海上から得られる気象データを収集、分析、加工したものを製造所、船舶機器メーカー、運行管理会社、気象会社などに提供し、提供を受けた事業者は、造船技術向上、保守点検、新たなビジネスなどに役立てる例などを想定しています。

これまでのデータ取扱い方針には、完全にオープンにする方針、権利を取って独占的に実施する方針、ライセンス契約を行う方針、営業秘密として秘匿する方針がありましたが、今回の法改正により、権利を取るまでもなく、不正行為を規制できるため、クローズにも管理する場合に加えオープンな状態で管理するといった方針が、データ取扱い方針の選択肢として一つ増えたといえます。

その他の改正事項とは

その他の改正不競法の改正事項としては、まず、(1)技術的制限手段(音楽・映画・写真・ゲームなどのコンテンツの無断コピーや無断視聴を防止するための技術)の効果を妨げる行為に対する法律が強化されました。これにより、保護対象に情報(コンピュータゲームのセーブデータなど)を加えるとともに、技術的制限手段の効果を妨げる行為を助長する不正競争行為の範囲を、プロテクトを破る機器の提供だけではなく、代行サービスなどに拡大されます。その他に、(2)証拠収集手続が強化され、特許法などと同様に、裁判所が書類提出命令を出すに際して非公開(インカメラ)で書類の必要性を判断できる手続を創設するとともに、技術専門家(専門委員)がインカメラ手続に関与できるようになります。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
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