知的財産に関する情報第19回 韓国IPGセミナー(特許庁委託事業)開催レポート

開催概要

開催日時 2017年10月31日(火曜)14時00分 ~ 16時45分(受付開始13時30分 交流会17時00分~)
場所 ホテルプレジデント19階 Brahms Hall
ソウル特別市 中区 乙支路16(市庁駅そば)
主催 韓国IPG/SJC知財委員会(事務局 ジェトロソウル事務所知財チーム)
内容
14:00~14:10
韓国IPGリーダー・SJC委員長あいさつ
株式会社韓国日立 社長 武内 敬司 氏
14:10~15:00
日本特許庁の国際知財戦略(50分)
日本特許庁国際政策課 課長 野仲 松男 氏
15:00~15:30
ジェトロの知財支援について(30分)
ジェトロ知的財産・イノベーション部長 田中 哲也
15:30~15:45
休憩 15分
15:45~16:30
東友ファインケムの知財力強化の取組みについて(45分)
東友ファインケム株式会社 副社長 秋吉 芳朗 氏
16:30~16:45
韓国IPGの活動とSJC建議事項についてPDFファイル(1.7MB) (15分)
ジェトロ・ソウル事務所 副所長 浜岸 広明
16:45
閉会

レポート

第19回韓国IPGセミナー「日本特許庁の国際知財戦略と日系企業の知財の取組み」を開催しました。

韓国IPGでは、2017年10月31日(火曜)にソウル市内のホテルプレジデントにて、第19回韓国IPGセミナーを開催しました。今般のセミナーでは、日韓・日中韓特許庁会合のために来韓された日本特許庁の野仲国際政策課長より、日本特許庁の国際知財戦略についてご講演をいただき、また、日系企業の知財の取組みについて、住友化学のグループ会社である東友ファインケム株式会社の秋吉副社長より、ご講演いただきました。併せて、ジェトロの知財支援についてジェトロ本部の田中知的財産・イノベーション部長より紹介しました。講演後には活発な質疑応答が行われた他、交流会にも多くの方にご参加いただき、活発な意見交換をしていただけたものと存じます。

日本特許庁の国際知財戦略

日本特許庁国際政策課長 野仲 松男

審査迅速化の目標を達成し、リソースを他の努力に振り向ける

日本特許庁は2004年に出願から最初の通知までの期間(FA)を当時の30カ月近い状況から10年間で11カ月に短縮するという大きな目標を立て、実際に実現しました。それまで日本特許庁では審査を早くするために相当のリソースを注いできたのですが、そのリソースを他の努力に振り向ける余力が出てきているところです。ちなみに世界五大特許庁(日米欧中韓、IP5)の協力体制についても、その協力の最大の目標がこれまで審査の迅速化でしたが、目標の達成後は、ユーザーの声をしっかりと聞いて審査を行っていくという、「ユーザー目線」を中心とした協力体制に変わりつつあります。

国際展開における日本特許庁の取組み(全体像) ※発表資料を基にジェトロが作成

取組フェーズ
先進国
:制度・運用調和
新興国
:審査の迅速化支援、知財保護・執行体制支援
途上国
:知財制度・体制整備支援
場・ツールなど
WIPO
  • WIPO(世界知的所有権機関)における会合
  • WIPOを通じた協力(ジャパンファンド)
マルチ会合
  • B+(先進国グループ)会合
  • IP5(特許)、TM5(商標)、ID5(意匠)、三極会合、日中韓会合
  • 日アセアン特許庁会合
二国間協力
  • 日中・日韓など
経済連携
  • TPP、RCEP、日中韓、日EUなど

日本特許庁が制度調和の理想形(パッケージ)作りの事務局を担う

日本特許庁の世界最速・最高品質の審査結果を他国に提供していくことで、日本の良い審査結果を活用していただき、日本企業が海外に進出する時に日本の審査結果をもって国際的な権利取得が容易にできる環境を作って行きたいと思います。そのために制度・運用調和、PPH(特許審査ハイウェイ)などの様々な取組みを行っています。制度調和については、各国の制度が違うと手続きに手間がかかることや、ある国では特許になり、他の国では特許にならないことなどを無くすための制度の統一化を図っていく計画を持っています。ただ、各国はどうしても自国の制度を変えたくないという強い意志が働きます。そのため、とりあえず世界のユーザーの皆様に議論をお預けしてパッケージを作っていただき、それに各国の特許庁が合意して制度を作っていこうという進め方になりました。日本特許庁が同作業の事務局を2017年10月から担うこととなりましたので、今後1年間良い結果を出せるために積極的に努める計画です。

日本で特許を取れれば、世界各国でも早期に権利取得が可能である

日本の審査結果を他国でも使ってほしいという直接な取組みとしてPPHがあります。ある国で結果が早く出れば、他の国でも同じ結果を使って早期に同様の審査結果が取れるという使い方であり、近年における国際協力の成功例の一つと言われています。日本は米国とPPHを最初にスタートさせた国であるため、世界で最も多くPPHを締結しており、日本特許庁とのPPH実施庁は現在40庁(広域庁を含むため実質72カ国・地域の効果)にまで拡大しています。

新興国・途上国における知財システムの整備支援を行う

新興国の意識も変わっています。知財の保護のみならず、知財の活用の面においても日本特許庁に支援を求める雰囲気になりました。日本特許庁としても先進国ばかり見るのではなくて新興国市場もしっかりと目を向けて対応していきたいと考えています。

日本特許庁はアセアン地域、インド、中南米などを中心に特許審査官をはじめとする専門家の海外派遣や受入、審査マニュアルの整理の協力などを行い、日本式の制度や審査実務などの知財システムの浸透、情報化支援を行い、日本企業の皆様がより使いやすい知財制度が世界中に広まるように努めてまいります。

ジェトロの知財支援について

ジェトロ知的財産・イノベーション部長 田中 哲也

ジェトロでは、海外ビジネス展開を目指す企業への支援の一環として、様々な知財保護事業を実施しており、本部(東京)および韓国を含めた海外事務所9カ国に知財専任職員を配置しています。なお、主な事業は(1)権利化支援(2)権利保護・侵害対策支援(3)権利活用支援の3本柱となっています。

ジェトロの主な知財支援

  1. 権利化支援
    1. 商標先行登録調査・相談の実施
      中小企業、地域団体商標などを有する団体や組合などを対象とし、1商標を2カ国・地域あるいは2商標を1カ国・地域まで無料で、現地事務所が類似商標まで調査して先行出願対策や出願の手続きなどを報告書でアドバイス。
    2. 外国出願支援
      優れた技術を有し、かつ、その技術などを海外において広く活用しようとする全国の中小企業などに対し、外国出願手数料、代理人費用、翻訳料などの外国出願に要する経費の1/2を助成。(上限1企業当たり300万円、1出願当たり30~150万円)
  2. 権利保護・侵害対策支援
    1. 模倣品対策支援
      海外で知財権の侵害を受けている中小企業に対し、模倣品の製造元や流通経路の特定、市場での販売状況などの侵害状況調査および一部権利行使にかかる費用の2/3を助成。(上限400万円)
    2. 防衛型侵害対策支援
      海外での産業財産権に係る紛争に巻き込まれており、防衛型侵害対策を行おうとする中小企業を対象に係争費用の2/3を助成。(上限額500万円)
    3. 冒認商標 無効・取消系争支援
      海外で自社のブランドの商標や地域団体商標を、無関係の第三者から冒認出願された中小企業を対象に、相手方の出願や権利を取り消すことを目的に自ら提起する係争活動の2/3を助成。(上限額500万円)
  3. 権利活用化支援
    1. 地域団体商標の海外展開支援
      地域ブランドの海外における確立を通じた地域団体参加企業などのビジネス拡大のため、海外向けブランディング専門家によるハンズオン支援および商品・サービスの現地プロモーション、マッチング、商標権利活用までの支援を実施。

その他にも知財保護に関わる様々な支援サービスや情報発信を行っており、詳細については、知的財産権保護に関するウェブサイトをご参照ください。

東友ファインケムの知財力強化の取組みについて

東友ファインケム副社長 秋吉 芳朗

東友ファインケムの企業紹介

住友化学グループの会社として1991年に設立され、韓国内で生産・研究開発・販売活動をしています。京畿道の平澤地区に本社を置き、同地区では液晶ディスプレイの主要部材である偏光フィルムやカラーフィルタなどを生産し、また、全羅北道の益山地区でも半導体用途のケミカルズや高純度アルミナなどを中心に生産活動を行っています。従業員数(2017年6月末)は2,841名、売上高(2016年度)は2兆1,368億ウォンとなっています。

知財教育を全社員に義務付ける

当社は情報電子化学の事業分野における会社であるため、研究開発した製品の権利確保や新製品が他社などの特許権を侵害しないようにするためのパテントクリアランスは非常に大事です。また、多くの従業員が研究開発に携わりつつ、新技術で勝負をしているため、知財は非常に重要となります。

そこで、当社の知財力強化に向けた2017年重点推進事項をご紹介します。まず、全社の知財認識・力量強化策としては、(1)社内知財教育強化、(2)定期知財ニュースレター発刊が挙げられます。(1) 社内知財教育強化については、これまで希望者、新入社員、一部の営業担当だけを対象にしていたものを、社長以下全員に義務付けました。オンラインとオフラインを並行し、社外の専門家も活用しつつ、知財リスクを反映した事業化可否判断能力強化に知財教育の焦点を当てています。

また、(2) 定期知財ニュースレター発刊については、2017年5月から開始したところで、毎月1回、分野別に他社の公開特許紹介、法律の改訂・新規判例情報共有などの内容を盛り込んだニュースレターを出しています。これを通じて競争社の開発方向予測および知財に対する親しみ向上を期待しています。

国内出願の審査請求に格付けを行う

また、強い特許網構築および早期権利化に向けた取り組みとしては、国内出願の案件ごとに格付けを行い、審査請求の時期を決め、また研究員の成果に反映することとしました。これまでは国内出願の審査請求は、年2回の知財実務会で決定していましたが、各出願の案件に対し、他社または自社の実現可能性による審査基準を基に格付けを行い、「ランク5」の場合は、出願と同時に優先審査請求を、「ランク4」の場合は、出願と同時に審査請求を、「ランク3以下」場合は、知財実務会で決定することとし、戦略的な早期権利化を図りました。また、格付けの評価は、研究員の成果にも反映されます。これまで、研究員に対する評価は「量」を重視していたことから「質」で評価するという仕組みに変えたのです。

グループ社間の協力を通じた新たな取組み

2017年には知財システム・体制の整備・標準化・知財意識強化のために住友化学の知財部の指導協力を得て新たに知財力強化プロジェクトに取り組みました。まずは、住友化学との知財業務フローの比較と過去の業務とをレビューして様々な課題を抽出し、その解決に向けたアクションプランを策定しました。

そのアクションプランをいくつかご紹介すると、まず、知財レベル向上のために知財担当者を住友化学で教育を受けさせ、実務会議にもオブザーバー参加させ勉強してもらいました。外部の法律事務所を有効に活用するという観点から当社の技術を深く理解してくれる専任事務所を分野ごとに育成することにも積極的に努めることに着手しました。

また、これまで事業主体の事業部のパテントクリアランスに対する関与が薄かったという反省がありましたので、事業部の関与と責任感を強化すべく、事業部ごとに課長以上の知財担当者を選定するとともに、パテントクリアランスに参加させて個別教育も実施することとしました。

最後に住友化学グループではアジアにおける情報部門のグループ社間で、知財の戦略や全般的な情報共有のために半期1回ごとにグローバル知財会を開催するなど、グローバル知財協力体制も強化しておりますが、当社も中心的役割を果たせるよう頑張っております。

韓国IPGの活動とSJC建議事項について

ジェトロソウル副所長 浜岸 広明

韓国IPGと韓国知財ネットワークが統合することに

韓国IPGは、在韓日系企業による知財に関する情報交換グループとして2010年に立ち上げられました。会員は、在韓日系企業・団体もしくは個人などとなっており、会員数は87社136名となっています。一方、在韓日系企業の日本本社や韓国でビジネス開始の予定のある日本国内の日本企業・団体もしくは個人などは、ジェトロ本部が管理・運営する「韓国知財ネットワーク」の会員となっており、その会員数は107社159名となっています。2017年11月に韓国IPGと韓国知財ネットワークが統合することとなったため、今後は在韓日系企業と日本内の日本企業が共に韓国IPGの活動をしていきます。

韓国IPGの主な活動について

韓国IPGではまず、模倣品対策として、税関職員向け真贋判定セミナーを行っています。韓国貿易関連知識財産保護協会(TIPA)の協力の下、同セミナーで韓国IPGの日系企業の方にご講演をいただいています。2017年は5回の参加実績があり、参加企業によると、税関からの鑑定依頼が増加し、結果、模倣品の通関差止めの増加に繋がっているそうです。

その他の模倣品対策としては、韓国消費者向け、日系企業製品の模倣品購入防止パンフレットの製作や旅行者向けサイトへの広告掲載による日本人旅行者向けニセモノ撲滅キャンペーンを行っています。

また、IPGセミナーを年2回開催するとともに、年4回IPGインフォメーションを制作しており、日系企業の韓国人職員の方々の啓蒙のために韓国語でも制作をしています。また、1998年からSJC(ソウルジャパンクラブ)が毎年、日系企業の様々な建議事項を韓国政府に提出しており、韓国IPGはSJCの知財委員会と連携して知財分野に関する建議事項をまとめて提出しています。

ジェトロソウルの支援について

韓国IPG事務局を担っているジェトロソウル知財チームは、主に (1)調査報告・マニュアル作成、(2)知財相談、(3)知財情報発信を行っています。

  1. 調査報告・マニュアル作成については、「韓国デザイン登録制度動向調査」、「韓国における知的財産の仲裁・調停の現況仲裁調停の現況に関する調査」などの調査報告書や「サムスン開放特許及び韓国主要技術の特許動向調査報告書」、「模倣対策マニュアル」などのマニュアルを、毎年テーマを変えて作成しています。
  2. 知財相談の支援については、在韓日系企業や韓国に進出を予定している日系企業を対象に知財に関連する法律や模倣品、営業秘密流出などの各種相談を対面、電話、電子メールなどで対応しています。必要に応じて、ジェトロソウルが契約している法律事務所の専門家による個人法律相談を1社当たり1時間程度で、無料で提供しています。
  3. 知財情報発信については、韓国知財ニュースをデイリーベースで翻訳してジェトロ韓国知財ウェブページで掲載し、また、それをまとめて毎月2回メールマガジンをお送りしています。また、その他にも知財判例データベースや各種統計情報、法令を仮訳して情報提供しています。

ウェブサイトですが、これまではジェトロ・ソウル知財チームの独自ドメインで運営するウェブサイトがありましたが、ジェトロ本部と統合されることとなりました。従来のウェブサイトを今年度中は残しますが、新しい情報は統合されたジェトロ韓国知財ウェブサイトにだけ掲載する予定です。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195