知財判例データベース 技術分野が異なる先行発明の転用による特許発明の進歩性判断の基準を提示した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(審判請求人) vs 被告(特許権者)
事件番号
2023ホ13599登録無効(特)
言い渡し日
2025年01月16日
事件の経過
請求棄却(上告棄却により確定)

概要

特許発明の進歩性を否定するために提示された先行発明が、特許発明とは技術分野が異なるとしても、先行発明の構成が特定の技術分野にのみ適用され得る構成ではなく、特許発明の属する技術分野においても利用できる構成である場合には、これを進歩性否定の根拠とすることができるが、これを判断するときは、先行発明の当該構成が汎用のものであるかということと共に、先行発明において当該構成を採用して解決しようとする課題が特許発明で解決しようとする課題と近いものであるかを共に判断すべきである。

事実関係

被告の特許発明は、採血管として使用される複数のチューブをカートリッジの挿入ホールに差し込んで整列する過程を自動化したチューブ整列装置に関するものである。特許無効が争われた請求項1の争点構成は、次のとおりである(太字は争点部分に相当)。

[請求項1] (前略)チューブ(1)を格納し、このチューブを供給するためのチューブ供給部(20)と、チューブが挿入される挿入ホールを備えたカートリッジ(2)を供給するカートリッジ供給部(90)と、上記チューブ供給部(20)と隣接するように設けられ、上記カートリッジ供給部(90)から供給されたカートリッジを支持し移動させるためのカートリッジ支持部(50)と、上記チューブ供給部から供給されるチューブを押して上記カートリッジ支持部により支持されたカートリッジの挿入ホールに挿入するチューブローディング部(80)と、を含んだチューブ整列装置。

この図は、特許の図2に該当し、特許発明のチューブ整列装置の各部の構成を示したものです。
<特許の図2>

これに対し進歩性否定の根拠として提示された先行発明は、先行発明1と先行発明5である。 先行発明1は、同一の技術分野の採血管製造装置に関するものであり、管状容器(1、「チューブ」に該当)を格納及び供給する装置(A、下図には不図示)、上記管状容器が挿入される移送容器(51、「カートリッジ」に該当)を支持し移動させる移送容器供給コンベヤ(55)、管状容器(1)を移送容器供給コンベヤ(55)上の移送容器(51)の孔に挿入されるように押すプッシャ(59)を備える。先行発明1は特許発明の構成に対応する構成を大部分開示しているが、特許発明はカートリッジ支持部(50)とチューブ供給部(20)が隣接するように設けられている一方、先行発明1はこれに対応する移送容器供給コンベヤ(55)と管状容器供給装置(A)が互いに隣接するように設けられていないという差異点がある。

この図は、先行発明1の図8に該当し、 先行発明1の採血管装置の各部の構成を示したものです。
<先行発明1の図8>

一方、先行発明5は、建築用シーリング材で満たされたシーリング材充填容器を移送するシステムに関するものであり、容器本体(2)を第1コンベヤ(35)に供給し、装填装置(36)により上記容器本体(2)を商品配達ボックス(32)に装填する構成を開示している。

この図は、 先行発明5の図5に該当し、 先行発明5のシーリング材充填容器を移送するシステムにおける各部の構成を示したものです。
<先行発明5の図5>

原告は、特許発明の請求項1の構成は、先行発明1に先行発明5を結合するか、又は工程自動化の面において関連性がある先行発明5の構成を転用して容易に導き出すことができると主張した。

判決内容

(1)判断の基礎となる法理
当該発明が利用される産業分野が先行技術のそれとは相違する場合には、その先行技術を当該発明の進歩性を否定する先行技術として用い難いとしても、問題となる先行技術の技術的構成が特定の産業分野にのみ適用され得る構成ではなく、当該発明の属する産業分野の通常の技術者が直面する技術的問題を解決するために特に困難性なく利用できる構成である場合には、これを当該発明の進歩性を否定する先行技術とすることができる(大法院2008年7月10日言渡2006フ2059判決、大法院2011年3月24日言渡2009フ3886判決等参照)。したがって、通常の技術者が当該発明の技術分野に属する主先行発明とその技術分野に属しない先行技術とを結合して容易に発明できるかを判断するときは、その先行技術の技術構成が上記のような技術的問題を解決するために特に困難性なく利用できる汎用なものであるかを検討すべきである。
一方、通常の技術者とは当該発明の属する技術分野で普通程度の技術的理解力を有する平均的技術者である点(大法院1999年7月23日言渡97フ2477判決、大法院2005年11月25日言渡2004フ3362判決等参照)、及び、当該発明と最も近い先行技術として選択された主先行発明は通常の技術者が技術的創作能力を発揮する出発点となる点等に鑑みると、通常の技術者が当該発明の技術分野に属しない主先行発明によるか又はこれに他の先行技術を結合することにより、容易に発明できるかを判断するときは、主先行発明の技術的構成が上記技術的問題の解決のための汎用のものであるかということと共に、主先行発明において上記技術的問題を含む発明全体の技術的課題を解決するのに寄与する技術構成の有機的結合関係を当該発明の属する技術分野のものとして転用することができるといえる程度に、主先行発明の上記技術的課題が当該発明において解決しようとする技術的課題と近いものであるかを共に検討すべきであり、これと異なり、当該発明の明細書に開示されている技術を知っていることを前提として事後的に通常の技術者が容易に発明できるかを判断してはならない。

(2)先行発明1を主先行発明とする主張に対する判断
本件請求項1の発明は「チューブ供給部と隣接するように設けられてカートリッジ供給部から供給されたカートリッジを支持し移動させるためのカートリッジ支持部」である一方、先行発明1において移送容器供給コンベヤ(55)は管状容器整列コンベヤの右側下部に位置し、その間には案内ユニット(57)が介在しており、管状容器整列コンベヤに隣接するように設けられていない点で差異がある。

先行発明1の上記案内ユニットは、管状容器の垂直整列が必要となる後続工程のために回転等の複雑な過程なしに採血管の垂直整列状態を具現し得るようにする核心的な構成といえるため、通常の技術者が先行発明1において案内ユニットを除去する動機があるとはいい難い。
仮に先行発明1において案内ユニットを除去するようにしても、先行発明1において管状容器が重力で落下して移送容器の挿入ホールに挿入されるためには、管状容器が回転して移送容器の孔に挿入され得るだけの空間が確保されなければならないため、管状容器整列コンベヤと移送容器供給コンベヤとの間は離隔されざるを得ない。したがって、通常の技術者が先行発明1において管状容器整列コンベヤと移送容器供給コンベヤとを隣接するように設けることが容易であるとはいい難い。

一方、先行発明5には、本件請求項1の発明のような第2コンベヤ上に水平状態で整列されている筒状部材を押して商品配達ボックスの収容部に挿入する構成が開示されてはいる。しかし、上記のとおり、先行発明1は採血管製造装置及び採血管製造方法に関する発明であって、採血管内の血清分離剤注入等の工程のために採血管を垂直状態で整列する工程が必ず要求されるため、先行発明1は案内ユニットという比較的簡単な構成を通じ、管状容器を押して垂直に直立した状態で移送容器に整列した後、後続工程に移送する。通常の技術者が先行発明1の管状容器の挿入方式を先行発明5のような方式に変更するいかなる動機があるともいえない。
したがって、上記差異点は、通常の技術者が先行発明1に先行発明5を結合するとしても容易に克服できないと認めるのが妥当である。

(3)先行発明5による進歩性否定の主張に対する判断
本件請求項1の発明は医療用採血管の製造方法に関するものである一方、先行発明5は建築用シーリング材又は接着剤製造装置に関する発明であり、両発明は、その発明が利用される産業分野としての技術分野が全く相違する。
さらに、次のような理由により、通常の技術者が直面する技術的問題を解決するために用いる対象となる先行発明5の技術的構成が汎用のものであるとか、その技術的構成の有機的結合関係を本件請求項1の発明の属する技術分野のものとして転用できる程度に、先行発明5と本件請求項1の発明の技術的課題が互いに近接するとはいい難い。したがって、通常の技術者が先行発明5を、本件請求項1の発明を導き出す出発点となる先行発明とすることは難しいと判断される。

具体的に先行発明5は、本体が容易に圧縮され得る軟質の筒状部材が搬送途中で変形されるのを防止し、搬送効率を向上させるのに適した筒状部材搬送システムに関するものであり、このような先行発明5の搬送システムはすべての物品をボックスに押して挿入するのに採用され得る汎用的な技術構成であるとはいい難い。
また、採血管の通常の用途及び製造工程上の必要性のため、採血管はその形状を維持できるガラス又は硬質プラスチック等で製作されるのが一般的であり、先行発明5の軟質容器のように本体が容易に圧縮され得る程度の柔らかい素材は採血管に適合しないとするのが妥当である。

先行発明5には、筒形状の部材であれば建築用以外の高粘稠液を充填するか、又は硬質の筒状部材を搬送することもできると記載されているとはいっても、医療機器分野の通常の技術者が自動化された採血管製造方法を発明するにあたり、その技術分野が相違するのみならず技術的課題も近いとはいい難い先行発明5を出発点とし、これを採血管製造用に転用することは、本件請求項1の発明をあらかじめ知っていることを前提としない以上、想定し難く、これは典型的な事後的考察に該当するというべきである。

専門家からのアドバイス

特許発明と引用発明の技術分野が互いに異なる場合に、その特許発明の進歩性をどのように判断すべきであろうか。
韓国の知識財産処(旧特許庁)の現行の特許審査基準には、進歩性の判断に関して「引用発明が請求項に記載された発明と相違する技術分野に属しているとしても、引用発明自体が、通常、他の技術分野においても使用される可能性があるとか、通常の技術者が特定の技術的課題を解決するために参考にする可能性があると認められる場合には、引用発明として選定することができる。仮に、請求項に記載された発明と相違する分野の先行技術を引用発明として引用する場合には、両技術分野の関連性、課題解決の同一性、機能の同一性等引用の妥当性を十分に検討すべきである」と記載されている。
本判決は大法院でなく特許法院の判決ではあるが、上記知識財産処の判断基準と軌を一にしつつ、これをさらに具体化したものといえる。具体的に本判決文は「通常の技術者が当該発明の技術分野に属しない主先行発明によるか又はこれに他の先行技術を結合して、容易に発明できるかを判断するときは、主先行発明の技術的構成が上記技術的問題の解決のための汎用のものであるかということと共に、主先行発明において上記技術的問題を含む発明全体の技術的課題を解決するのに寄与する技術構成の有機的結合関係を当該発明の属する技術分野のものとして転用することができるといえる程度に、主先行発明の上記技術的課題が当該発明で解決しようとする技術的課題と近いものであるかを共に検討すべきである」という基準を提示しており、実務において参考にできる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、徐(ソ)、權(クォン)(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195