知財判例データベース 判決書中で閲覧制限の申立てが許容される営業秘密の概念は、不正競争防止法上の営業秘密の概念と同一であると解釈した事例

基本情報

区分
その他
判断主体
大法院
当事者
再抗告人(判決書に対する閲覧制限の申立人)
事件番号
2023マ6127秘密保護のための判決書閲覧等の制限
言い渡し日
2024年11月05日
事件の経過
原審決定破棄

概要

関係人の申立てにより判決書のうち関係人の営業秘密が記載されている部分について閲覧及び謄写を制限できるところ、この場合の「営業秘密」の概念は不正競争防止法上の営業秘密の概念と同一に解釈すべきである。

事実関係

再抗告人(申立人)は、職務発明補償金請求訴訟における特許法院の判決書中において自身に関係する営業秘密が記載された部分について閲覧及び謄写の制限を申し立てた。しかし特許法院は、当該部分が申立人の営業秘密に該当するという点についての疎明が不十分であるという理由で申立人の申請を棄却し、これに対して申立人は再抗告をした。本件の争点は、判決書中で閲覧制限の申立てが許容される営業秘密の概念をどのように解釈するかであった。

判決内容

(1)関連法理
「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(以下「不正競争防止法」という)第2条第2号の「営業秘密」とは、公然と知られておらず、独立した経済的価値を有するものであって、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の営業活動に有用な技術上又は経営上の情報をいう。民事訴訟法第163条の2第5項、第6項、第163条第1項第2号、「民事判決書閲覧及び謄写に関する規則」第6条第1項第2号によれば、判決が言い渡された事件の判決書に関係人の営業秘密が記載されている場合において、該当する旨の疎明があるときは、訴訟記録を保管している法院は、関係人の申立てに従い決定により判決書中の秘密が記載されている部分に対するインターネット等を通じた閲覧及び謄写を制限することができる。民事訴訟法第163条第1項第2号と「民事判決書閲覧及び謄写に関する規則」第6条第1項第2号は、営業秘密に関して括弧書きで「不正競争防止法第2条第2号に規定された営業秘密をいう。」と規定しているため、ここでの営業秘密の概念は不正競争防止法上の営業秘密の概念と同一に解釈すべきである(大法院2020年1月9日付2019マ6016決定等参照)。

(2)事実関係
本件の記録によると、次のような事実又は事情を把握することができる。

① 判決書に含まれている情報(以下「本件情報」という)は、申立人が2015年3月23日に申立外1会社との間で特許譲渡契約(以下「本件譲渡契約」という)を締結した経緯と目的、及び、申立外2会社と申立人の間のクロスライセンス契約による実施料の算定や関連金額等を含んでいるところ、申立人と申立外2会社はこれを外部に公開していない。本件情報は、本件本案訴訟控訴審の判決書に記載された情報ではあるものの、そのような事情だけで直ちに本件情報の非公知性が喪失したとはいい難く、その他に、本件情報が申立人と同じ業界に従事しこれをもって経済的利益を得る可能性のある者の間に知られていると判断する資料がない。

② 申立人と申立外1会社は、本件譲渡契約を締結する際、申立外2会社と申立人との間のクロスライセンス契約による実施料の算定や関連金額等、契約書に記載された内容を第三者に公開してはならない旨の秘密維持義務を課しており、譲渡契約書にもその契約自体が秘密であるとの旨の表示がある。また、申立人は、本件本案訴訟の訴訟記録のうち本件情報が記載された部分について数回にわたって第三者の閲覧等を制限してほしいとの申立てをし、第1審及び原審法院がこれを認容する決定をしている。

③ 本件情報は、申立人の競合企業が申立外2会社とライセンス契約を締結する過程で活用し得る有用な情報である。

(3)判断
上記の事実関係等を前述の法理に照らして詳察すると、本件情報は公然と知られておらず、独立した経済的価値を有するものであって、秘密として管理されている営業活動に有用な経営上の情報であり、申立人の営業秘密に該当する旨の疎明があると判断する余地がある。
それにもかかわらず原審は、本件情報が申立人の営業秘密に該当するという点についての疎明が不十分であると判断し、本件情報が含まれている別紙目録記載の判決書に関する第三者の閲覧制限等を求める部分を始めとする本件申立てを棄却した。したがって、原審決定のうち別紙目録記載の判決書に関する申立てを棄却した部分には、民事訴訟法第163条第1項第2号、不正競争防止法第2条第2号における営業秘密等に関する法理を誤解して裁判に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

特許無効や特許侵害事件のような特許関連訴訟においては、頻発する問題ではないが、法院による判決書に自身の営業秘密に関する内容が記載されたままの状態で、その判決書が外部に公開されて不測の不利益が被る懸念も想定し得る。そうした事態にならないよう、判決書の記載のうち自身の営業秘密に該当する部分について閲覧及び謄写の制限を申し立てることができるのであるが、本件判決は、この場合の「営業秘密」を不正競争防止法上の営業秘密と同一の概念として解釈すべき旨を判示したものである。
したがって、その判示内容は、判決書の記載中の営業秘密に該当する部分について閲覧及び謄写の制限を申し立てる場合に参考にできるものである。具体的には、当該申立てにおいて判決書中の当該部分が自身の営業秘密であることを疎明する場合、不正競争防止法上の営業秘密の要件により①非公知性、②(独立した経済的価値を持つという)有用性、及び③秘密として管理されている、という点をある程度具体的に示した上で申立てをすべきであり、本判決はその一つの事例として参考になる。

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