知財判例データベース 正当な権限なしに商標権移転登録を受けた者の商標使用行為が商標権の侵害罪に当たるとされた事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
検事 vs 被告人
事件番号
2023ド11044判決
言い渡し日
2024年11月14日
事件の経過
破棄差戻し

概要

商標権の移転登録が被告人名義で完了したとしても、被害会社(商標権者)と被告人との間に本件商標権を移転することを目的とする合意がなかったため、被告人は被害会社から当該商標権の移転を適法に受けたとはいえず、被告人は登録商標の商標権者ではないことから、被告人の商標の使用は正当な権原なしに商標権の効力範囲に属する行為を行ったものして商標権の侵害行為に当たると判断した。

事実関係

被害会社は、2016年1月13日付で商品区分第43類の「ゲストハウスサービス提供業等」を指定商品とする商標「M」を出願し、2016年11月10日付で商標登録を受け、釜山を含む全国5ヶ所のゲストハウスで商標「M」を使用して加盟店ないし委託運営をしていた。被告人は被害会社の共同代表理事であって、自身が代表理事印鑑を保管していることを利用し、理事会承認等の手続を経ることなく、「M」商標権を自身に移転する旨の商標権譲渡証に任意で印鑑を捺印する方法により、2018年1月25日付で商標権移転手続を完了した。さらに被告人は、2018年5月頃から2021年5月25日頃まで商標「M」を使用したゲストハウスを運営し、ホームページに商標「M」を掲示していた [1]

判決内容

1審は被告人の商標権侵害等を認めて懲役10ヶ月、執行猶予1年6ヶ月を言い渡したが、2審(原審)は商標権侵害に対しては無罪を言い渡した。
原審は、登録商標が被害会社の「登録」商標であることを前提として商標法第108条(侵害とみなす行為)第1項第1号、すなわち「他人の登録商標と同一の商標をその指定商品と類似する商品に使用するか、他人の登録商標と類似する商標をその指定商品と同一・類似の商品に使用する行為」に該当する商標権侵害行為と擬律して検事が公訴を提起したことに関し、同規定は罪刑法定主義の原則によって厳格に解釈すべきであるとした。すなわち同規定の文言上、商標権侵害行為とされるのは「他人の登録商標」を使用する行為であるが、商標法第96条第1項第1号(商標権の移転は登録がされなければその効力が発生しない)によれば商標権の移転は登録によって効力が発生するとされている点等を考慮すると、商標権移転登録の原因となった商標権の譲渡が私文書偽造等不正な方法で行われて最終登録権利者に当該移転登録を抹消する義務があるとしても、抹消手続が行われるまでは「他人の登録商標」に該当すると認めるのは被告人に不利な方向に拡張解釈する結果に当たるため、商標法第108条第1項第1号の構成要件に該当しないと判断した。

これに対し大法院は、被害会社と被告人との間に商標権を移転することを目的とする合意がなかったため、被告人が適法に商標権の移転を受けたとはいえず、被告人は商標権者でないと認めて、被告人が登録商標を指定商品であるゲストハウスサービス提供業等に使用したことは正当な権原なしに商標権の効力範囲に属する行為を行ったものであり、商標権の侵害行為に該当すると判断した。また、商標法第108条第1項第1号の適用に関連し、被告人が同一の商標を指定商品と同一の商品に使用したため、類似商標の使用による侵害を擬律する商標法第108条第1項第1号には該当しないと判断した。

専門家からのアドバイス

韓国での商標権関連の紛争は、本件のように刑事事件として進められることも珍しくなくない。特に本件のような商標権の移転をめぐるトラブルは、その典型的なケースの一つといえよう。
商標権の移転には、一般法理と同様に商標権の移転に関する合意が必要であり、かつ移転登録がなされなければならない。相続その他一般承継による場合を除き、商標権の移転の合意があっても移転登録を終えていない譲受人は商標権者であるとはいえず、商標登録原簿に登録権利者として残っている譲渡人が依然として商標権者であるという点に関しては、過去に大法院判決がある(大法院1999年9月3日言渡98フ881、898、904、911判決)。
本件は、外形上の商標権移転登録はあったものの、それが不正な方法によるもので実質的な移転の合意は存在しなかった事案であり、これに対し大法院は、外形上の商標権移転登録を受けた被告人は正当な権原なしに商標権の効力範囲に属する行為を行ったと認めて商標権侵害に該当することを明確にした点に意味がある。
また、本件は商標権侵害の態様に関連し、①登録された指定商品に対して登録商標を独占的に使用できる権利に対する侵害と、②他人の登録商標と同一の商標をその指定商品と類似する商品に使用するか、他人の登録商標と類似する商標をその指定商品と同一又は類似の商品に使用する行為(商標法第108条第1項第1号)とを区分せずに起訴する傾向がある中で、両者の区別の必要性を喚起している点にも意味がある。
本件は刑事事件の事例であったが、一般に韓国での商標権侵害行為に際しては、権利者としては民事に加えて刑事上の法的措置の必要性について検討する必要性があるといえ、逆に商標を使用する立場では権利者に対してより綿密な備えが必要といえる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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