知財判例データベース 牛乳製品の商標、包装等の類似・混同可能性を否定し、商標権侵害及び不正競争行為に該当しないと判断された事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
原告 vs 被告
事件番号
2023ガ合54295判決
言い渡し日
2025年06月13日
事件の経過
特許法院控訴中

概要

原告の登録商標かつ使用標章「朝にジュース」(本文中に登場する商標及び標章はいずれもハングル表記であるが、便宜上和訳で表記。以下同様)及び牛乳製品の使用包装に対し、被告の使用商標「朝に牛乳」及びその使用包装は類似せず、不正競争行為にも該当しないと判断した。

事実関係

原告は韓国牛乳市場のシェア最大手で、農業協同組合法によって設立された「X牛乳協同組合」である。原告の商号の略称かつ商標である「ソウル牛乳」は広く知られており、使用するロゴ「赤地の円形図形に白抜きで「ソウル牛乳」のハングル表記」(赤地の円形図形に白抜きで「ソウル牛乳」のハングル表記、以下「赤色ロゴ」と言う)は1972年から使用され始めて徐々に変更され、1997年から現在のロゴになった。 原告が販売する牛乳製品の包装は、2005年以降、下記のとおり少しずつ変更されてきており、上部の屋根部分には緑地に白抜きで「ソウル牛乳」等の文字が表示され、正面部には緑色を基調とした図柄に赤色ロゴ又は「ソウル牛乳」が表記されている特徴がある。

この図は、原告の4つの牛乳製品の包装を示した写真です。2005年以降、2022年まで、4つの各牛乳製品の包装の変遷を示ています。

[原告の牛乳製品の包装と各包装の変遷]

原告は牛乳の他にも1993年から「朝にジュース」という商品を発売し、一日あたりの販売量4万個以上、最近5年間の年平均売上高320億ウォン、13年連続シェア1位(2022年の国内シェアは約31%)であり、現在までに137億ウォンの広告宣伝費を投じ、2009年から2022年にわたっての使用による識別力が認められ商標登録されている(指定商品:フルーツジュース)。その他にも、指定商品の普通名称に自社商号及び「朝に」を結合した「ソウル牛乳 朝にジュース」(指定商品:フルーツジュース)、「ソウル牛乳 朝に生フルーツジュース」(指定商品:生フルーツジュース)、「赤色ロゴ+ソウル牛乳 朝に豆乳」(指定商品:豆乳)、「赤色ロゴ+ソウル牛乳 朝に禅食」(指定商品:禅食)、「赤色ロゴ+ソウル牛乳 朝にスープ」(指定商品:スープ)を登録し、「赤色ロゴ+ソウル牛乳」よりも「朝に」の部分を強調した包装で下記の商品を販売してきている。

この図は、原告の4つの牛乳以外の製品の包装を示した写真です。朝にジュース、朝に豆乳、朝にバター、朝にスープという4つの製品の包装が示されています。

(包装中央に大きく太字で表示された部分がそれぞれ「朝に(아침에)+普通名称」)

一方、被告は牛乳市場3位圏内の競合企業で、2022年8月に発売した牛乳製品を、次のようにデザインの一部を変更しながら販売してきているが、包装上部の屋根部分には緑地に白抜きで「1等級 朝に牛乳」の文字を表示し、正面部には下1/3程度まで牛乳が満たされ滴が跳ねている様子が緑色のグラデーションを背景に形象化され、その上方に緑色の太い書体で「1等級」「朝に」「牛乳」の文字を3段で表記し、2022年8月1日から2024年5月14日までの間には正面部中央右側に赤色の円形図形内に白抜きで「1等級原乳」と表記したロゴを配置していた。

この図は、被告の1つの牛乳製品について、その包装の変遷を示した写真です。

原告は被告に対し、商標権侵害並びに自身が使用する使用標章及び包装容器を根拠とした不正競争行為に基づく差止請求と、約3億4千万ウォンの損害賠償を求めた。

判決内容

原告の主張は、被告が使用した「朝に牛乳」という標章に対する商標権侵害(争点①-1)及び不正競争行為(争点①-2)と、被告が使用した牛乳包装による不正競争行為(争点②)であり、これらについての法院の各判断は以下のとおりである。

(1) 争点①-1: 原告は自身の登録商標「朝にジュース」等と類似の標章である「朝に牛乳」等を被告が使用した行為は商標権を侵害する行為であると主張

これに対し法院は、原告が商標の要部であると主張する「朝に」は、飲料商品に関連して商品の用途等を表示する記述的標章に該当して識別力がないか又は微弱で、既に多数人が牛乳等を含む飲料に「朝に」を含んだ商標を登録し、実際にも次のように牛乳を含む製品に多数人が使用中であって要部と認められないため、原告の登録商標「朝にジュース」、「ソウル牛乳 朝にジュース」等と被告の使用標章「朝に牛乳」等とは全体的に見るとき非類似であると判断した。

この図は、市販されている3つの牛乳製品の包装を示した写真です。各包装の前面には「朝に牛乳」と商標表示がされています。

[「朝に牛乳」が大きく太い書体で前面部に1段ないし2段配置された牛乳製品]

(2) 争点①-2: 原告は、「朝にジュース」等は自身の周知・著名な商品標識であり、「朝に〇〇〇」シリーズは自身の相当な投資又は労力により作成された成果であるところ、被告が「朝に牛乳」等の標章を表示した行為は国内に広く認識された他人の商標を保護する不正競争防止法2条1項イ目、国内に広く認識された他人の商標の識別力や名声を毀損する行為を防止する不正競争防止法2条1項ハ目、その他他人の相当な投資又は労力により作成された成果等を無断で使用することにより他人の経済的利益を侵害する行為を防止する不正競争防止法2条1項ワ目(いわゆる一般条項)に該当すると主張

法院は、原告の「朝にジュース」標識が周知・著名といえる余地があると認めながらも [1]、被告の「朝に牛乳」に対しては商標権侵害の判断と同じく「朝に」部分と「牛乳」部分が識別力がないため要部観察が不可能であることから、全体的な標章間の外観、称呼、観念に照らして非類似であるとして不正競争防止法2条1号イ目及びハ目を認めなかった。また不正競争防止法2条1号ワ目の一般条項に該当するかについても、「朝に」部分は朝に飲む飲料と直感されるため識別力が微弱で、「朝に」が含まれた多数の商標が共存登録され販売されている点等から、原告の「朝に〇〇〇」という標章を原告の相当な投資又は労力により作成された成果物として原告に独占的利益を付与することができるものと評価するには不十分であると判断した。

(3) 争点②: 原告は以下のような自身が使用した牛乳包装は全部又は一部に共通する差別的特徴があり、各包装が長期間継続的、独占的、排他的に使用されることにより当該差別的特徴が取引者等に原告の商品であることを連想させるほど顕著に個別化されたと主張

この図は、原告の4つの牛乳製品の包装を示した写真です。

左から順に原告の1~4包装とするとき、原告は1~4包装が緑色と白色の組み合わせである点、1及び2包装はたっぷりの牛乳に滴が跳ねた王冠形状が正面に位置する点、1, 2及び3包装に赤色ロゴが配置されている点、2, 3及び4包装に牛乳品質を表示する1等級/1A等級が表示されている点、1及び4包装にフレッシュミルク/FRESH MILKが表示されている点を差別的特徴として主張した。

法院は、原告が主張する包装容器の特徴が①長期間・継続的に使用されたとは認め難く(原告の包装は屋根部分に白抜きで製品名を表示し、全体的に白地に緑色の文字や図柄を使用し、赤色で一定の形状・文字等で特定部分を強調する等、それなりの特有性は存在するものの、原告が主張する差別的特徴をすべて含んでいる包装はなく、各包装別に差別的特徴の有無、配置された位置、形状、大きさ等が異なって一貫性がない点、各包装容器の全体的な変更過程等において差別的特徴が維持されなかったものもある点等)、②独占的・排他的に使用されたとも認めることができず(牛乳に関して白色は商品本来の色で何人も使用する必要性があり、緑色も新鮮なイメージを強調するための色で、白色と緑色の組み合わせや牛乳の滴が跳ねる王冠形状・赤色ロゴ等のデザイン的特徴は既に多数使用されている点等)、③原告自らも白色と青色を組み合わせた牛乳包装を使用して変更した経緯等に照らし、差別的特徴を需要者に印象付けることができる方式で広報・広告したとも認めがたいとして、不正競争防止法2条1号イ目で定める商品標識に該当しないと判断した。

牛乳製品に白色と緑色が使用された多数事例
この図は、市販されている多数の牛乳製品の包装を示した写真です。包装に白色と緑色が使用されています。
牛乳製品に赤色の円形形状が使用された多数事例
この図は、市販されている多数の牛乳製品の包装を示した写真です。包装に赤色の円形形状が使用されています。

法院は、包装容器間の類似及び混同の有無に対しても、原告の包装1~4それぞれと被告の使用包装を対比しながら、具体的な文字の意味や配置、使用された色の具体的な明度や彩度の違い、ロゴの形状、デザインの構成(牛乳が目一杯満たされているか、1/3程度だけ満たされているか等)、牛乳を購入する消費者が購入時に向ける注意力、被告が変更したデザインの形態等を考慮したとき類似・混同のおそれもないため、不正競争防止法2条1号イ目で定める類似・混同可能性もないと判断した。

また、国内で広く認識された商品標識に該当しないため不正競争防止法2条1号ハ目にも該当せず、原告が主張する差別的特徴である緑色及び白色の色の調和、赤色ロゴ、王冠形状、1等級表示、FRESH MILK等は牛乳業界において広く使用されているため、何人もが自由に利用できる公共領域に属するものとして「法律上保護する価値がある利益」に該当しないため不正競争防止法2条1号ワ目にも該当しないと判断した。

専門家からのアドバイス

韓国の飲食品業界では以前より人気製品の包装のデザイン的特徴を抽出して類似の包装で製品を発売する事例がよくあり、これはMe too戦略と称されることがあるほど慣行化されている。このような具体的ケースで訴訟が提起されることもあるが、大抵の場合は本件のように具体的な標章やデザイン構成要素の相違点を認めるとか、当該デザイン構成要素はすでに業界でありふれて使用されているデザインである等の理由に基づいて、商標権侵害や不正競争行為が認められるのは容易とはいえない状況にある。
ただし、最近、韓国の高等法院において、以下のようなアイスクリーム包装に関連して不正競争行為を認めた事案がある。この事案において、前審の一審判決では「包装の細部的な要素及びその結合からなる総合的イメージが製品自体の認知度及び商品名の周知著名性とは別に需要者等に特定出所の商品であることを連想させるほど個別化された差別的特徴に該当するとは認め難く、需要者等に広く認識されたと認めることもできない」と判断したが、二審でこれを覆し、「このような細部的な要素がいずれも結合された総合的イメージは被告製品をはじめとする他人の製品と区別される識別力を備えた顕著に個別化された商品標識として国内に広く認識されている」と判示した(ソウル高等法院2025年8月21日言渡し2024ナ2052176判決)。

この図は、原告と被告のそれぞれのアイスクリーム包装を対比して示した写真です。

こうした中、本件は韓国なら誰でも知っているような原告牛乳製品の商標及び包装に関する事案であって、2023年3月に提訴されて一審判決まで2年以上を要し、二度の和解勧告の決定、一度の弁論再開決定等、裁判部としては苦心の末に下した判決であったとみられる。原告が控訴したことにより今後の結果が注目される。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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