知財判例データベース 原審決の取消判決で新たに提出された先行文献に対し、その後再び行われた審判手続で訂正請求の機会が付与されるべきであるとした事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A株式会社等 vs 被告 B株式会社
- 事件番号
- 2024ホ15103登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2025年07月24日
- 事件の経過
- 確定
概要
進歩性が認められた原審決の取消訴訟で新たな文献が提出され、これに基づいて進歩性が否定され原審決は取り消された。原審決の取消しにより再び行われた無効審判の手続で審判請求人である被告は、上記文献を提出して進歩性の欠如を主張し、特許審判院は特許権者に訂正請求の機会を付与せずに無効審決をした。続く本件審決取消訴訟で特許法院は、特許権者に訂正請求をする機会を付与しなかったため審決は違法であると判断した。
事実関係
原告は「安全性が高いコンクリート浮体」に関する発明について特許を受けた。当該特許発明に対して被告は無効審判を請求し、原告は審判手続中に訂正請求を行った。特許審判院は原告の訂正請求を認めて先行発明によりその進歩性が否定されないとして被告の審判請求を棄却する審決(以下「原審決」という)をした。被告は特許法院に原審決の取消しを求める訴えを提起し、特許法院は、請求項1,2の発明は先行発明2に先行発明3,5,6を結合して容易に発明することができ、請求項3の発明は先行発明2に先行発明3,4,5,6を結合して容易に発明することができるため、特許発明はその進歩性が否定されるとして原審決を取り消す判決をした。これに対し原告は上告したが、取消判決は上告棄却判決によりそのまま確定した。
取消判決の確定により原審決が取り消されると、特許審判院は被告の審判請求を再度審理した。被告は、特許審判院に最初の審判手続では提出しなかった先行発明6を提出し、これを根拠として請求項1,2の発明は先行発明2と先行発明3,5,6の結合により、請求項3の発明は先行発明2と先行発明3,4,5,6の結合により進歩性が否定されると主張した。これに対して原告は被告の進歩性否定の主張を争う旨に加え、「被告が先行発明6を新たに提出したことから、訂正請求を通じて適切に防御することができるように訂正請求のための期間を指定してほしい」という内容を含む意見書を提出した。しかし、特許審判院は、原告に対して訂正請求のための期間を付与することなしに、原告の最初の審判における訂正請求は認めるとした上で、被告の審判請求を認容して無効審決をした。審決の理由には「被告が証拠資料として提出した先行発明6は原審決に対する取消訴訟で提出された証拠資料と同一のものであり、被告が上記取消訴訟に提出されたものと異なる新たな無効事由を主張したわけでもないので、本件で特許法第133条の2第1項後段が適用されると認めることはできない」旨が含まれている。原告は当該審決を不服として審決取消訴訟を提起した。
判決内容
特許法院は、審判長が特許法第133条の2第1項後段により期間を定めて審判被請求人である原告に訂正請求をする機会を付与しなかった審決は違法であるとして、原告の請求を認容した。特許法院は、職権証拠調べの結果及び職権審理事由に対して特許権者に訂正請求の機会を付与しなければならず、また、請求人の証拠提出又は新たな無効事由の主張による場合にも訂正請求の機会を付与しなければならないと判断した。
(1)職権証拠調べの結果及び職権審理事由に対して特許権者に訂正請求の機会を付与しなければならない
特許法院は、無効審判手続で特許審判院が最初の審決を取り消した判決に従って再び審理を行い、最初の審判手続では提出されずその審決取消訴訟の手続で初めて提出された証拠を職権で調べ、その証拠調べの結果による特許無効事由を職権で審理したにもかかわらず、審判被請求人である特許権者にその職権審理をした特許無効事由に対する意見陳述の機会を与えなかったことにより訂正請求の機会を付与しないまま、当該特許無効事由により審判請求を認容する審決をしたことは違法であると判断した。
特許法院は、特許審判院が職権で調べた証拠が既に取消判決をした法院の訴訟手続において当事者間で攻防がなされた証拠であるという点や、上記取消判決で取消しの基礎となった理由がその事件に対して特許審判院を羈束するという点だけで、訂正請求の機会を付与しないのは妥当ではないとして次の理由を提示した。
①審判は特許審判院で進行する行政手続であって、審決は行政処分に該当し、審決取消訴訟は、その審決に対する不服訴訟である抗告訴訟に該当する。行政処分である審決のための特許審判院の審判手続と、その審決に対する抗告訴訟を扱う法院の訴訟手続とは、特定の審級構造として連係してはおらず厳格に区別されるべきなので、審判手続での主張や証拠を審決取消訴訟で援用したり、上記訴訟での主張や証拠を審判手続でそのまま援用したりすることはできず、上記訴訟での弁論経過をもって審判手続で保障されるべき意見陳述の機会を代替することもできない。したがって、最初の審決を取り消した判決に従って再度審判を行う特許審判院が職権で調べる証拠や職権で審理する特許無効事由に対し、それに先立ち取消判決をした法院の訴訟手続で特許権者が十分に弁論する機会があったという事情をもって、特許法で定めた審判手続での職権による証拠調べの結果及び審理事由に対し特許権者の意見陳述の機会が実質的に保障されたものであるとか、その職権審理の特許無効事由による訂正請求の機会を保障する必要性が喪失したものとは認め難い。
②審決を取り消す判決が確定した場合、その取消しの基礎となった理由は、その事件について特許審判院を羈束する(特許法第189条請求項3)。この場合、羈束力は取消しの理由となった審決の事実上及び法律上の判断が正当でないという点で発生することから、取消し後の審理過程で新たな証拠が提出されて羈束力判断の基礎となる証拠関係に変動が生じた等の特段の事情がない限り、特許審判院は、上記確定した取消判決で違法であると判断された理由と同一の理由で前審決と同一の結論の審決をすることができず、ここでの新たな証拠とは、少なくとも取り消された審決が行われた審判手続、ないしは、その審決の取消訴訟で採択又は調査されていないものであり、審決取消判決の結論を覆すのに足る証明力を有する証拠である(大法院2002年12月26日付言渡2001フ96判決等参照)。審決取消判決が特許審判院の審決に及ぼす上記のような羈束力に基づいて、特許審判院で職権証拠調べの結果及び職権審理事由に対して特許権者の意見陳述及び訂正請求の機会を付与しないのは、審決取消判決後の特許審判院の審理手続に適用される手続的規定と、特許審判院の判断内容、即ち、審決に対し適用される上記羈束力に関する実体的規定との各適用領域を混同した結果、上記羈束力に基づく審決をすることだけで審判の適正を期すことができるという誤った前提に立つことで、当事者等の手続的権利の保護という公益上の要求を没却する結果とならざるを得ない。審決取消判決の後に無効審判の手続において訂正請求が認容されて、その無効審判の対象が変わった場合においては、特許審判院は、審決取消判決で違法であると判断された理由と同一の理由により最初の審決と同一の結論の審決をすることで上記羈束力に反するようになる余地も生じない。
③訂正請求及び訂正審判請求を行える期間に関する規定は、無効審判等が予想又は提起された状況で特許権者の効果的な防御手段たる特許訂正の機会を無効審判の審決を跨いで各訂正請求と訂正審判請求とで途切れることなく保障しながら、無効審判の係属中には訂正審判請求をできないようにする代わりとして訂正審判を訂正請求の形態で無効審判の手続内に組み入れることにより、無効審判の適正性とその手続的迅速性を高めようとしたところにその趣旨があると考えるべきである。それにもかかわらず、上記職権調べの証拠が、上記取消判決をした訴訟手続で既に当事者間で十分に攻防がなされた証拠であるとか、特許権者が上記訴訟手続の進められる中で別途の訂正審判を請求する十分な機会があったなどの理由で、上記取消判決に従い再度審理される無効審判手続内で特許権者に訂正請求の機会を付与しなくてもよいと判断するのは、特許権者の効果的な防御手段となる特許訂正の機会を審判手続において断続的に遮断する結果となり、これは特許法が設けている特許訂正制度の全体構図に反するものである。無効審判という行政手続で特許権者が訂正請求を行える権利は、審決取消訴訟係属中に特許権者が別途に訂正審判を請求できる権利で代替されることのできない手続的権利である。
(2)請求人の証拠提出又は新たな無効事由の主張による場合にも、特許権者に訂正請求の機会を付与すべきである
特許法院は、請求人の証拠提出又は新たな無効事由の主張により訂正請求を許容する必要があるかは、原則的に行政庁である特許審判院の裁量判断の領域に属するといえるところ(特許法第133条の2第1項後段「特許法第147条第1項により指定した答弁書提出期間後も、請求人が証拠を提出し、又は新たな無効事由を主張することにより訂正の請求を許容する必要があると認める場合には、期間を定めて訂正請求をさせることができる」)、特許審判院が最初の審決を取り消した判決に従い再度審理を行う無効審判手続において、審判請求人が最初の審判手続で提出されなかった証拠で、上記取消判決をした法院の訴訟手続で初めて提出されて上記取消判決の理由として特許無効事由の根拠となった証拠を新たに提出し、最初の無効審判手続で主張しなかった上記特許無効事由を新たに主張したにもかかわらず、審判被請求人である特許権者に訂正請求をする期間を付与しないまま上記特許無効事由により審判請求を認容する審決をすることも違法であると判断し、下記の理由を提示した。
①最初の審決を取り消した判決に従って再度審理される無効審判手続において、特許審判院が最初の審判手続で提出されなかった証拠に基づき、最初の審判手続で主張されなかった特許無効事由を審理するとともに、審判被請求人である特許権者に意見提出及び訂正請求の機会を付与するか否かにおいて、審判請求人自ら上記のような証拠を提出し特許無効事由を主張した場合と、特許審判院が職権で審理した場合とを異なって判断するのは、特許法が設けている先の手続的強行規定の公益上の要求の側面でその一貫性と合理性がない。
②審判請求人が新たに提出した証拠が取消判決をした法院の訴訟手続で初めて提出され、その取消判決の理由として特許無効事由の根拠となり、審判請求人がこれを再度審判手続に提出して上記特許無効事由を主張した場合、その取消判決の羈束力により審決をしなければならない特許審判院としては、審決取消判決と異なる結論の審決を行えない状態に置かれるようになる。このような状況にあっては、特許権者としては無効審判手続での訂正請求のほかに上記特許無効事由を防御する実質的な手段がなく、このことにより審判被請求人である特許権者が訂正請求を行える機会を付与する必要性は客観的に明白であったことから、審判長としては、その訂正請求が認められるか否かは別として、特許法第133条の2第1項後段が定めた「訂正の請求を許容する必要性」そのものが認められないと判断する裁量の余地はもはやないと言えるところ、特別な事情がない限り、審判被請求人である特許権者に訂正請求を行うことができる期間が付与されるべきと認めるのが妥当である。
専門家からのアドバイス
韓国の特許審判に関する実務で日本と異なっている点としては、無効審判の段階で提出しなかった証拠や無効事由を審決取消訴訟の段階で新たに提示することができ、これを審理する特許法院は新たに提出された証拠に基づいて審決と異なる判断をすることが可能なことである。また、無効審判の進行中には訂正請求のみ可能であり、審決取消訴訟中には訂正審判が可能とされている。
本件では、進歩性を否定しなかった原審決の取消訴訟において新たに先行文献が提出され、これに基づいて進歩性が否定されて原審決は取り消されることとなった。その後、原審決を取り消した取消訴訟の判決に従い再度審理がなされる無効審判手続において、当該判決の訴訟手続で新たに提出されていた証拠が審判での審理資料となる場合に、特許権者に審判手続での訂正の機会を付与すべきであったか否かが争点となった事案である。
特許法院は、原審決の取消訴訟手続で新たな先行文献に対して特許権者に弁論する機会が与えられ、その取消判決で既に判断された先行文献であったとしても、その後の無効審判手続で当該先行文献が提示された場合には訂正の機会を付与すべきであり、こうした手続的権利は保障されなければならないという法理を明確に示した点で、本件の意義があるといえる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
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